(閑話2)ただの部下は見た!
俺らの上司は恐ろしい。
改めて俺は思い知った。
俺が働いている職場は、国軍であり、現在は第二王子の直属の部隊となっている。普段の仕事は王都の治安管理だが、最近【異界渡りの魔女】の警備も加わった。
といっても【異界渡りの魔女】というのは、魔女や魔法使いの中でもとんでもない変わり者で、ずっと家に引きこもっている。だから俺らは毎日変化の乏しい家の周りをただ見ているだけの仕事をしていた。時折、異国の使者とかが訪れ、穏便に帰ってもらう事もあるけれど、問題ある人が訪ねてくる事なんてほとんどない。
護衛本人も家から出てこないので、正直暇だ。
こんなので給料もらっていたら、そのうち給料泥棒と言われてしまいそうだけれど、この魔女は変わり者だからか、【予言の魔女】から世界の枢のような存在で、蔑ろにすると人類が亡ぶというような予言をされてるそうだ。国ではなくて人類とか、規模が大きすぎる。この予言を理由に、彼女が安全に暮らせるように警備がひかれているというわけだ。
でも国が亡ぶ程度ならまだしも、人類が亡ぶとか言われて、そんな危険物に手を出そうとする奴なんて普通はいない。だから本当に平和なものだ。正直警備なんているか? と思ってしまう。
とりあえず国から命令されたお仕事なので俺らは従っていた。
そんな中、国にある一つのマフィアを殲滅させる事が決まり、俺はそちらの作戦の中に入れられた。なんでも、今は【異界渡りの魔女】は異界に逃げてもらっているから守る必要もないらしい。はー、いい御身分なこって。
というか一つとは言え、殲滅されるとか何をしでかしたんだか。
何処の国にだって、後ろ暗い組織というものは存在する。肯定はしないけれど、政治や貴族様とは切っても切り離せなかったり、色々あるようで殲滅される事はまずない。後ろ暗い組織が幅を利かせすぎると治安が悪くなるわけだが、その悪い中での秩序を守らせる役割もあったりと、いなくなったらいなくなったで問題も出てくる。
でも殲滅は決定事項で、他国でも国に潰されたマフィアがあるという噂が入ってきている。きっと多少混乱しても潰さなければいけないほどの、何かをしでかしたんだろう。それこそ、世界や人類が亡ぶ系かもしれない。まあ、命令に従うだけの俺らには関係ないけどな。
とにかく殲滅となれば、俺らも命を取り合う覚悟がいる。相手も潰されない為に死に物狂いで向かってくるはずだ。
だからこの戦いでは俺らみたいな末端が命を散らして、利益は全て第二王子なんだろうなと思っていた――時もありました。
「俺は、一体、何を見てるんだろう」
まさかの第二王子が先頭に立ち、相手をちぎっては投げ、ちぎっては投げていく光景を見るなんて誰が思うだろう。はっきり言って、化け物のような強さだ。銃弾を剣で切った時は、正直何の冗談だと思った。
そして王子は末端の俺らに、倒された奴らを縄で縛っておく事と、怪我人がいたら処置するよう命令し、ドンドン進んでしまう。
いや。おい。
王子様が真っ先に突っこんでどうするんだよ。
そう思っていた時はまだ正常な判断ができていた時だ。その後本当にちぎっては投げ、ちぎっては投げ、ついでに遠くから狙っていたスナイパーを奪い取った銃で、逆に狙撃しているのを見た時、相手のマフィアが可哀想になった。
「俺は、お前らの所為で嫁に会えないんだよ、くっそ」
色々私怨まみれだ。もう少し国のためとか、正義云々とか言ってあげて欲しい。いや、まあ嫁が大事なのはある意味親近感湧くけど。
それにしても……うわー。なんか、泣く子も黙る人達が、マジ泣きしてる。顔の怖い、いい大人達が泣くって、別の意味で大惨事じゃないか? それでも王子、容赦ないな。
そういえば、この国の王族は、数代前の嫁が【剛腕の魔女】で、その魔女の力の影響なのか、鋼の肉体を持っているという噂があった気が……。うん。鋼かどうかは分からないけれど、恐ろしく強いのだけは分かる。まさに猛獣だ。
そして最終的に、小さなドラゴンを檻に入れていた、マフィアのボスが王子の蹴りで気を失った。……内臓大丈夫か?
さっき、分厚い鉄の扉を一撃で蝶番ごと破壊していたのを見たので、その蹴りが腹に入るとか……恐ろしい。
……えっと。俺はコイツらを縛ればいいんだな。うん。
色々深く考えてはいけないと思い、命令通りグルグルと縄で縛っていくと、更に信じられない光景を見る羽目になった。
「嘘だろ。生首が浮いてる……」
正直、俺の気が狂ったのだろうかと思いたくなる光景だ。このマフィアは魔女殺しをしてるという話をチラッと聞いていたので、もしかして、マジで化けて出てきたのだろうか。
腰を抜かしそうな光景だが、その生首と普通に会話をし始めた第二王子を見て、俺はスンとなった。そうだ、ここには王子の顔をした最終兵器ゴリラがいる。彼が居るなら、多分生首だって平気だ。
更に何故か、生首とのラブロマンスが始まったけれど……俺は気にしない事にした。
だって、最終兵器ゴリラだし。俺らの常識で測ってはいけないのだ。例え死屍累々の中でも、いや、死屍累々の中だからこそのラブロマンスホラーだ……一周まわってコメディーな気もしてきた。
とりあえず、俺は、俺の上司にだけはこの先も絶対逆らわない事と、王子の嫁――つまり【異界渡りの魔女】だけは絶対害さないと決めて、黙々と与えられた仕事に集中した。
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