94話 飛ばした王子はただの婚約者
俺は俺の国で違法な魔法陣を、偽りの言葉で魔女や魔法使いに販売した上で、使い魔を呼び寄せた後に殺し、使い魔を商品にしていた組織の壊滅作業を黙々とこなしていた。
とりあえず、自分の力量よりも強い使い魔と契約する為に、自分が死んだ後もこちらの世界で住んでいられるという契約を迫った魔女達は考えなしだと思う。でもそれにそれにのってしまう使い魔も碌なものじゃない。
そして更に彼らの欲をうまく利用して、使い魔を無力化して商品にしようとした者達は、愚かすぎて、同情の余地もない。
だから俺は、彼らに理不尽な暴力を振るう事にためらいはなかった。
更生させる?
そんな事をするほど、俺はお優しくない。
彼らの人生には、それをするだけの理由があっただろう。でもどんな理由があろうと、俺は婚約者が大事だ。だから婚約者に害を及ぼすなら、排除する。
とはいえ、ためらいがない俺も、その暴力シーンを婚約者に見られるのはいささかためらいがあった。
でもまさか死屍累々をスルーした上で、生首姿ですっとぼけた事を言い出すとは思わなかったけどな!
どうしたらこのホラー状況で逆ハーレム巡った、デスマッチなんて言葉が出て来るんだ。病んでる病んでないとか、そういう話じゃない。俺の事何だと思ってるんだ。くっそ。
それでも、相変わらず色々思考回路が破綻しているし、見たくないものは見ない行動も変わらないけれど、一点だけ婚約者の行動が変わった。
「呪われた魔女やら子豚やら、変わった噂が出回っているけど、お前はこうやってずっと使い魔を助けに出向いていたのか?」
「そうですけど?」
何を言っているんだという顔をする婚約者に、俺の方が何を言っているんだと色々言いたい。なんで呪われたとか、子豚とか訳の分からない名乗り方をしているのか。でも俺が一番気になった点はそこではない。おかしな噂に惑わされがちだが、彼女は……自分の意志で、他者を助けに行っているのだ。
今までだって彼女は言われれば食べ物も恵んだし、自分に向かってきた使い魔を元の世界に強制送還させるなどのこともした。でもそれは受け身であり、決して自分から他者を助けに行ったりはしない。
今回の事が人ではなく使い魔だからともいえるが、でも使い魔だとしてもこれまでの彼女なら自分から虐待されている使い魔を助けに向かうなんてことはなかった。あくまで向こうから関わってきたら関わるのスタンスだ。
【予言の魔女】の件は例外中の例外だ。
例え他者が目の前でもがき苦しんでも、向こうが要求しない限り何もすることはなかった彼女が、自分の意志で動いた。これほど凄いことがあるだろうか。
「そうか……うん。そうか」
「どうしたんです? 使い魔、可愛いですもんね。助けられて良かったですね」
「ああ。そうだな。よかったよ」
心の傷は癒えきってない。全てが元の彼女に戻ったわけではない。そもそも【元】というのがどの地点だという話だ。彼女の人生は、自分を確立していく六歳から壊れ始めたのだから。
でも確かに彼女の中の何かが変わった。それが嬉しくて、気がつけば、俺は涙を流していた。
俺はやっぱり正義の味方なんかじゃない。使い魔なんてどうでもいい。俺はただの彼女を愛す婚約者だ。
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