51話 飛べた魔女は喫茶子豚

 今日も元気だ、アラレがうまい。がりごりやってると、まわりの音が気にならなくてすこぶるいい。

 塩味も美味しいし、梅味、のり味、ちょっと大人七味味もとっておも美味しい。お茶に合う。

「……うちは喫茶店ではないんですけど」

 でもアラレは視界は遮ってくれないので、ため息が出る。何故こぞって煌びやかな人達は、わざわざ豚小屋へお越しになるのだろう。眩しくて仕方がない。美男美女は画面越しで見る程度で丁度いいのに。

 そんなに異界の食べ物は美味しいというのか……いや。自画自賛で悪いけど、美味しい。私が豚になる程度に美味しい、神の食べ物だ。


「知ってるわよ。ここは、銀座の子豚でしょ?」

「いや、それネタなんで」

「ぎんざのこぶた?」

「いえ、何度も説明するほどのものでもないんで、スルーして下さい」

 最期は必ず破滅になるのが癖になる、銀座の子豚占いというネタを永遠に引っ張って欲しいわけではない。というかあまり噂が流れると本気にして、行列のできる相談所になるかもしれないので止めて欲しい。そんな事になったら異界の本を読みながらゴロゴロする時間がなくなってしまう。

 そもそも銀座の子豚は対王子ネタしか占えない。


「婚約者の言う通りだ。お前ら帰れ。本日の営業は終了したんだよ」

「いや、営業終了なら王子も帰って下さい」

「俺の帰る所は婚約者の所だ」

「かっこよく、決め顔で言っても駄目ですからね。絶対王太子が迎えにくるんで、城に帰ってあげて下さい」

 顔がいいからって、何でもぶひぶひいう事を聞くと思ったら大間違いだ。

 それにいつも顔色の悪い王太子を王子のお迎えなんていうしょうもない事に使うのは、悪い魔女ですら躊躇う所業だ。少しくらい、仕事環境は改善されただろうか? 彼こそ働き方改革が必要だ。


「あの方は、少し外の空気を吸って運動なさった方がいいので、丁度よろしいと思いますわ」

「いや、【癒しの魔女】が散歩に付き合ってあげて下さい。そして心の面も癒してあげて下さい」

 たしかに、風邪を引いたりする前に体を癒す為、死ぬような事はない様子だけど、もう少し事務的ではない癒しをしてあげて欲しいと思う。

 王太子が過労で自殺でもしたら、最悪だ。

「そうですわねぇ。でしたらお茶会に呼んであげましょうか?」

「さりげなく、会場を豚小屋で想定して決めないで下さい」

 いい案が浮かんだと花のような笑みでぽんと手を打つが、全然いい案ではないと気が付いて欲しい。

 一応王子の飼い豚化はしているけれど、ここの家主は私だ。煌びやかな参加者を増やすのは止めてもらいたい。


「でもこのお茶会なら大好きな弟もいますし。それにあの方、もふもふっとしたものが好きなんですよ。だから使い魔も一緒にお茶会に入れてあげればいいかと思いまして」

「……考えておきます」

 即席使い魔カフェ。全体にもふってて、可愛すぎる。確かにそんな場所で、もふりながらお茶をすれば、疲れも一気に癒される。

 なるほど。【癒しの魔女】の案は一理ありだ。

「ちっ。チョロすぎる」

 王子になんと言われようと、可愛いは正義だ。


「そういえば、使い魔と言えば、貴方、魔女集会に出る事にしたってて本当?」

「昨日返事をしたばかりなのに、情報が早いですね。そうですけど、何か?」

 返事を出したばかりなのに、既に公爵令嬢が知っているとは。

 あの犬は彼女の使い魔ではないはずなので、公爵令嬢の情報網が凄いのだろう。もしくはただの噂好きとつるんでいるかだ。

「どういう風の吹きまわしだ?」

「……折角ですから、世界を恐怖させる悪い魔女になろうかと」

 訝し気に王子が聞いて来たので、私はにやりと笑った。そうだ。よく、怪盗は盗む前に予告上を出す。私も悪い魔女として予告しておくべきだろう。


「は?」

「私は今度の魔女集会で、使い魔たちをぷっくぷくにしてやります! 恐れをなした魔女達は、参加しない事ですね! あ、コルちゃんは、参加していても絶対ぷっくぷくにしないのでご安心を」

「「「「「ぴー!!」」」」」

 コロポックルが悲痛な悲鳴を上げる。

 後で通りすがりの使い魔たちにも伝えておこう。彼らは彼らで横のつながりがあるので、きっとこの恐ろしい宣言を聞いて怯え騒ぐに違いない。

 誰だって豚にはなりたくないはず。


「それ、いつもの事じゃないか?」

 ふふふ。悪い魔女の恐ろしさを知るのはこれからですよ。異界のお金の力をもってして、いつもの比ではない量のお菓子を配ってやります。そして使い魔はすべからく、ぷっくぷくのもふもふにしてやりましょう。

 だから私は王子の呆れた声に、高笑いを返したのだった。

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