49話 飛べた魔女はただのリバウンド
「おいっ。また太ったな」
「……太ってません」
今日も元気だ飯が美味い。だから、太ってない。今食べたぶんの体重の増加があっただけだ。
「いいか。その油断が、豚の元なんだ。食べてもいいから運動しろ」
「何で見ただけで、体重の増減が分かるんですか?! 気のせいです」
「そう思うなら測ってみろ。確実に2キロは増えてる」
王子にそう指摘されて、ドキリとする。た、確かに。この間とろろが美味しすぎて、ご飯をついつい食べ過ぎた。ついでにとろろを色んな料理にして楽しんでしまったので、その分も増加している可能性は高い。
私はこっそりお腹の脂肪をつまんで、王子の正確さにゾッとする。普通、毎日会っていると気づかないものなのに。
「……王子の能力は、相手の体重とかウエストが分かる能力なんですか?」
「違う。そもそもそんな能力だったら、使えないし、地味すぎるだろ」
確かに。役立つ場所が凄く限られすぎて、微妙な気分になる能力だ。でも本当にそういう能力の魔女がいるかもしれないので、能力に対してのデスリは良くない。持って生まれたものは変えられないのだし。
「でも、ウエスト、ヒップ、バストと体重が一瞬で見抜ければ、アイドルの嘘も見抜けますし、あながちハズレ能力でもない様な?」
いつでも正確に体型をあてられるので、服作りとかでも役立つかもしれない。……とはいえ、王子にあっても意味はないか。
コルセットで無理やり絞って体重を誤魔化したところで、不敬罪には流石にならない。
「いや、そこは見抜かずに夢を追い求めた方が、本人もアイドルも幸せなんじゃないか?」
「……そうですね」
認めよう。何でも正直なのがいいというわけではない。世の中解き明かさない方が幸せな真実というのもある。
「それで、なんで太ったと分かったんですか?」
「毎日しっかりお前を見ているからだ。それにお前が公爵令嬢に手料理を振る舞い暴食の限りを尽くしたという情報貰えば、どんなへぼ探偵でも推理する間もなく見抜けるだろ」
「ひぃ。何故、それを?!」
まさかこの部屋で起こった事はすべて王子に見られているのだろうか?!
よく私の間食にも気が付くし。
「公爵令嬢から聞いた。そしてその料理がどれだけ美味しかったかを、満面の笑みで語られた」
「……仲がいいですね。ちなみに満面の笑みに惚れたりなんかは?」
「してないな。むしろ殺意が湧いた」
ひぃぃぃぃぃ。
ギラリと剣呑に光る王子の目を見て、その殺意が真実だと理解した。な、何? やっぱり、王子も人の子だから、食べ物の恨みは怖い系なの? とろろそんなに食べたかったの?!
とはいえ、このまま殺人事件が起こったら寝覚めが悪すぎる。
「と、とろろ食べます? 調理が面倒というか、手が痒くなるので手袋必須ですけど、美味しいですよ? あ、あれなら、王宮に持ち帰って、王太子殿下と一緒に召し上がられてもいいですよ。え、えっと。奮発して、部下のぶんも付けちゃおうかなー? ほ、ほら。機嫌を直して下さい」
とろろ殺人とか、ひどすぎる動機だ。あの顔とこの顔ならば、男と女のアレコレが理由になりそうなのに……。確かに食欲は人間の三大欲求だけど、そんな理由で殺されたら公爵令嬢も浮かばれない。
「……手料理がいい」
「は?」
「ここで食べたい」
「お腹空いてるんですか?」
空腹だとイライラしますもんね。公爵令嬢もイライラしてとろろご飯をお代わりしてたし。私はイライラしてなくてもお代わりするけど。
「分かりました。でも、一緒にやりましょう?」
また一人で、あの芋と戦うのは勘弁だ。本当にぬるぬる滑るし、大変なのだ。
「ああ。一緒にやろう」
すっごくキラキラした笑顔が眩しくて目がつぶれそうだ。
そんなにお腹が空いてるなら早く言ってくれればいいのに。変なところで遠慮するんだから。というわけで、今日もいい日だとろろが美味い。
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