48話 飛べた魔女はただの結婚相談所

「暇なら、私の結婚相談に乗って」

 そんな言葉から始まった、公爵令嬢の結婚相談、イン豚小屋でお送りしている今日この頃。皆様、どうお過ごしでしょうか。私は紅葉狩りという異界の言葉が、もみじを取って食べるという意味ではなかった衝撃の事実に驚いています。リンゴ狩り、イノシシ狩り、いちご狩り等、狩りとつくものは美味しい物だと思っていたのに。異界の言葉はとても難しいです。


「とりあえず、父親から渡されたのはこれよ」

「……銀座の子豚は、王子様との恋愛相談にのみのれる占いであって、他の人では占えないですよ?」

 現実逃避して無言で拒否を伝えていたけれど、強制的に話を進めるらしい。公爵令嬢の心臓は鋼過ぎる。いや、この場合、豚の人権、もとい豚権が全然気にされていないのか。

 そもそも、豚に結婚相談など、すごく意味のない行為だ。もっと他に適役がいると思う。

「いやよ。その王子との恋愛占いって、必ず最後は破滅するって言うんでしょう?」

「もちろん。とてもよく当たると、自称しております」

 過激派な言葉が癖になる、子豚占いです。


「それだけ王子に執着してるなら、さっさと結婚すればいいのに。あっちも、色々とヘタレだから、今度既成事実を作る手伝い――」

「分かりました。相談に乗るので、子豚の恋愛については気にしないで下さい。豚の繁殖行為は、今のところ予定されておりません」

 公爵令嬢から不穏すぎる言葉が出てきて、私は慌てて話を戻した。だから王子が豚なんかと結婚したら駄目なんですってーと声を大にして言いたいが、公爵令嬢の方が弁が立つ為、言いくるめられる未来しか見えない。この場は撤退が良いだろう。私はいつだって戦わない。

 王子は全然豚との婚約も結婚も反対してくれないので、私一人で頑張らなければいけなくて大変だ。


「とりあえずこれらが、見合いしろって渡された男達の絵姿なんだけど、豚占いで引いてくれる?」

「いや、ババ抜きじゃないんで」

 扇のように絵姿を広げられた絵姿にドン引きする。そんな方法で選んだら駄目だと豚でも分かる雑さだ。

「なら裏返して並べてみる?」

「タロットカードでもないんで、そういうのは不味くないですか?」

 私の能力は異界渡りであって、未来視とか予言とかできるわけではない。

「……あれなら、【予言の魔女】紹介しましょうか? 文通しているので、銀座の子豚よりはいい言葉が貰えると思いますよ?」

 【予言の魔女】は優しいから、きっと相談すれば答えをくれるはず。もちろん【予言の魔女】が欲しがるものを渡す必要はあるけれど。でもどんなものにだって対価がいるのは世の常識だ。


「【予言の魔女】の助言はいらないわ。ここにあるどの殿方と結婚してもたぶん私なら上手くやれるもの。より良い条件にしたいという話でもないし。……ちょっと気になったんだけど、【予言の魔女】とは友人なの?」

「まさか。知人です。色々仕事上で取引があるんですよ」

 友人などとんでもない。【予言の魔女】が豚と友達なんて、彼女の品位を落としかねない言葉だ。私は彼女に相応しくない。

「取引?」

「財テクアドバイスを貰っているんです。異界のお金がないと好きなものをお取り寄せできないので。そのアドバイスの代わりに異界の物を渡している感じですかね。【予言の魔女】は優しいので、本来ならもうお金なんてそこまで必要ないのに、私に良くしてくれているんです」

 【予言の魔女】は確か今は王女様。本来なら、平民の私など話す事もできない立場だ。……まあ、毎日王子が来るから、最近感覚がおかしくなりそうだけど。

「はあ? あの魔女が優しい?!」

 何故か公爵令嬢がギョッとした顔をした。

 もしかして【予言の魔女】と知り合いなのだろうか。でも貴族なら顔見知りである可能性はとても高い。


「言葉使いは少々きついかもしれませんが、優しいですよ? でなければ豚なんかに連絡してくれませんって」

「……はあ。うん。そういう事ね。うん。つまり、周りが妙に気を使い過ぎているから、このメンタルドロドロの子豚がいつまでもこんな感じでドロドロしてるのね。うん。そう。そういう事。あーもう!!」

「ドロドロって……。あ、でも長芋のとろろご飯とかいいですね。ドロドロ聞いていたら食べたくなってきました」

 メンタルドロドロって、何だか豚が腐った感じで嫌な表現だ。腐ったものは食べられないので好きではない。

 でも長芋のドロドロは別だ。あれは美味しい。かぶれると痒いけど、でも食べたくなる常習性。

「何それ。私も食べるから二人分用意して。なんか腹立つから、一杯食べないと」

「良く分からないですが、空腹は良くないのでどうぞ」

 美味しいものが食べられるのは良い事だ。


「でもその前に、私の見合いよ」

「その話終わってないんですね」

 【予言の魔女】に相談する気はないようなので、そこまで悩んでいるわけではないと思ったのに。

「当たり前よ。目をそらし続けるわけにはいかないんだからね。今、私に迫られている選択は二つ。一つ、金持ちに嫁いで家を支援してもらう。もう一つ、爵位がない又は爵位が低い金持ちが婿養子になって公爵になるという感じよ」

「……ものすごいリアルにお金ですね」

「だって今一番必要なのはお金だもの。でも財テクは貴方に助けてもらうというのも、ちょっといい案だと思うのよね」

 ……何故私を換算した。

 私に財テクなどない。それこそ【予言の魔女】の方が得意な案件だ。

「それは、捕らぬ狸の皮算用では? あー、異界の言葉で、ようするにまだ手にしてないものを勘定しても意味がない的な」

 まあこの場合捕らぬ豚の皮算用だろうけど。

「そう? すでに、沢山財テクもらってるわよ?」

「えっ? いつの間に?!」

 全くそんな気配なかったというか、この家に来ては食べるか、豚を磨くかしかしていないと思う。

「それが引きこもり豚の引きこもりたるゆえんよ。まあ、貴方ががっついても、メンタルが更に酷い事になる気がするのよねぇ。だからありがたく私が使わせてもらうわ」

「別にいいですけど」

 どこに財テクがあったのか分からないけれど、とりあえず私のものが何か取られたわけでもないし、特に気にする事はないだろう。


「んー。決めた。私、この人を落としてくるわ」

「はあ」

 結局豚の意見など聞かずに公爵令嬢は勝手に決めた。まあ聞かれても分からないけれど。

「財テク貰う代わりに、ちゃんと社交界のフォローはしてあげるから、後から情報料に対して文句言わないでね」

「言いませんけど、社交界のフォローもいりませんから」

 社交界出ませんから。

 私、引きこもり豚ですから。何で王子と結婚している前提なんですか。


 勝手な事を言う公爵令嬢にぷりぷりしつつ、一緒に食べたとろろは美味しかった。   

 今日も元気だとろろが美味い。はいはい。お代わりですね。……あれ? 何の話してたんでしたっけ?

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