43話 飛べた魔女はただの運動の秋
「も、もう。らめぇぇぇぇ」
今日も元気だ、でも運動辛い。
いや、嘘。もう、元気じゃない。元気なんてすべて汗と一緒に流れ出た。足だってパンパンにはっている。もう乳酸がふくらはぎの中でストライキを開始して、ドクターストップを訴えてる状況だ。
「頑張れ、ゴールはあと少しだ。見てみろコロポックルたちは、まだまだいけると言ってる」
「霊獣……人間……一緒、違う……」
あまりの辛さに、言葉が単語でしか出てこない。
目の前で跳び跳ねるように楽しそうにおいかけっこをする5人組は根本的に体の作りが違うのだ。比べてはいけない。
ついでに私の隣で走っている、ゴリラ体力の男も生き物のとして根本的に何かが違うんだと思う。何故、平然としゃべっていられるのか。
「いち、にー、いち、にー」
「「「「いちごウマイ」」」」
「にーにー、にーにー」
「「「「肉ウマイ」」」」
「さん、にー、さん、にー」
「「「「刺し身ウマイ」」」」
しかもなんだか、よだれの出そうなかけ声出してる。どうやらコロポックル達は走りながら相談し、かけ声を作ることで連帯意識を持とうとしているらしい。仲間で走れば怖くない。でも走れる豚は豚じゃないので、君達には悪いが、私は仲間じゃないんだよ……。
「健気じゃないか。お前が頑張れるよう異界の食べ物でかけ声を作るなんて」
その気遣い、超不要だ。むしろペースを落としてくれ。いや、既に何周か差をつけられてるけど。
「無理……本当に」
「無理と思ったところからが勝負だ。ちなみに、俺はあいつらと同じペースで走れる。つまり、人間もやればできる」
「……」
返事がない。私はただの屍だ。
というか、確信した。王子と私は絶対種が違う。なんなんだろ。本当に人間だろうか。顔も絶対周りより美形だし。
「俺もお前も人間だからな」
なぜ、ばれたし?!
その察しの良さとかも王子の場合人間離れしてる原因のひとつだ。昔から空気読まない癖に、妙に鋭いことを言うのだ。まるで全部を見通してるかのように。
「だからちゃんと言わないと、俺はお前の気持ちを全部わかってやれないんだからな」
「……走りたくないです」
これ以上にない私の気持ちだ。私は走りたくない。走る事の何が楽しいのか分からない。
「ダンスにするか? 筋トレでもいいぞ」
「ダイエット嫌です」
「太らなかったら考えてやる」
やっぱり聞いてもらえないじゃん。
豚に太るなという方が無理だ。だって太るから豚なのだ。
「……困ってることはないか?」
「乳酸がふくらはぎの中でドクターストップを訴えてます」
「癒しの魔女が家で待ってるぞ。頑張れ。お前ならできる」
そう言って、王子は余裕の笑みをうかべる。お願い、待って。家まで後何キロあると。
定期的に一緒に間食してるのに、どうして癒しの魔女は太らないんだろう。ついでに公爵令嬢も。世の中理不尽だ。
「よん、にー、よん、にー」
「「「「よーかんウマイ」」」」
「ごー、にー、ごー、にー」
「「「「ゴリラツヨイ」」」」
何故、ゴリラ。あれか。ご主人を讃えているのだろうか。
「豚豚ゴー、ゴー」
「「「「アイハカツ!!!!」」」」
なんだそのかけ声。アイドル目指してるのか?
意味はさっぱりわからないけれど二頭身の彼らの需要は高そうだ。八頭身は管轄外なので意見しない。自分の好みと違うからといって攻撃しないのがファンの品格だ。
「倒れる前に、ちゃんと言えよ」
いや、マジで倒れそうだから。でも豚汁まみれで王子におんぶとか本当に無理なので、私は自分で走る。もはや歩いているのと変わらない気もするけれど。それでも、足を動かす。
「絶対助けてやるから」
「豚豚ゴーゴー」
「「「「アイハカツ!!!!」」」」
王子が決め顔で何か言っていたがコロポックル達の掛け声で聞こえなかったので、私は無視して、家まで頑張る事にした。
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