42話 飛べた魔女はただの反省中
今日も元気だ飯がうまいと言いたいところだが、今の私は何も食べられない状態だった。
何という悲しさ。なんというひもじさ。色々辛いけど、目の前で仁王立ちしている王子と、私の隣で一緒に正座するコロポックル達を見ると、流石の私も正座対応だ。悪い魔女だって、たまには反省ぐらいする。
「俺が何を言いたいのか分かっているな?」
「……二頭身って、コロコロ真ん丸の方が可愛らしいですよね?」
「確かにな。でもこいつらの本当の姿は普通のヒトより少し小さいぐらいの姿だ。分かるか? それがコロコロ真ん丸になっているという事は?」
「ただの豚ですね」
分かってる。再び私はやってしまったのだ。
言い訳させてもらうなら、二頭身だと太ったかどうかが分かりにくかったのだ。他の動物系の霊獣よりも二頭身のぬいぐるみのような可愛い姿のコロボックルは適正体重の姿が分かりにくい。
だから欲しがるままに、彼らの好きな寿司とか酒とかあげてしまったのだ。だって、蕗の葉をさしている姿でプルプル震えながら強請られたら、あげる以外の選択肢が出てこない。コマンドは全てプレゼントするの一択だ。
「分かってるならいい。いつの間に俺の使い魔と仲良くなったのか知らないが、できるなら一言言って欲しかっただけだ。とりあえず、コロポックルはダイエットだからな」
「「「「「ピーッ?!」」」」」
王子の使い魔であるコロボックルは全部で五人いた。二頭身のサイズは三十センチほどで、異界で言うポ〇モンサイズだ。そんな彼らが身を寄せ合って悲鳴を上げる姿を見ると、心が痛む。でもごめんなさい。私は悪い魔女だから、王子によるブートキャンプは一緒に参加できないし、止める事も無理なの。
「お前もだからな」
「ひぃ?! な、何故、私まで?!」
悪い魔女だから、不参加表明をしようと思っていた矢先に言われてしまい、悲鳴を上げる。
「最近、秋だからって間食しすぎだ。芋は野菜じゃなくて糖質だからな」
そんな。お芋は野菜じゃないの? 焼き芋美味しすぎて、ついつい食べてしまった。ついでに大学芋も、芋の天ぷらも。
そうだ。どんな時でも糖質と油は美味しいんだった。何故こんなにおいしいのか気が付くべきだった。
私はあんまりな現実に、がっくりと手をついた。まさかこんな罠が仕掛けられていたとは。サツマイモ、恐ろしい子!!
「ううう。も、もしも王子の使い魔に茶菓子を出し過ぎた仕返しをと思っているなら、一言異議があります」
「仕返しではなく、体重計にのったら分かる現実的な話をしているだけだが、言ってみろ」
「私はコロポックルが王子の使い魔だとは知りませんでした」
決して王子の使い魔だから、沢山食べさせて真ん丸にしたわけではない。そこに王子に対する悪意はなかった。あったのは可愛いは正義だけだ。
「知らなかった? 俺の事は使い魔を使ってのぞいていないのか?」
「のぞきませんけど。誰でもいいからのぞき見するわけではないですし」
心外だなと思ったけれど、王太子を覗ける所は見られてしまっているし、魔女集会を鏡を通して覗いた事も伝えてしまっているので、確かにそう思われても仕方がない。
でも私は綺麗なものが好きだけれどストーカーではない。ここはちゃんと身の潔白を訴えるべきだろう。
「……なんで俺は覗かないんだ」
「そりゃ、王子は綺麗なので実生活覗いたら楽しいと思いますよ? 最前線! 密着王子24時とか楽しそうですもん」
たぶん私だけではなく、多くの女性がガン見する、よだれ物のレア姿に違いない。
「でもそもそも王太子に関しては、鳳凰が見てみろと勧めてきたんです。暇つぶしにどうぞと。あと、麒麟とか、青竜とか……まあ、勧められた人のみ見るだけです。コロボックルは、時折お会いするだけで覗き見は勧めてきませんでした」
コロポックルは王子の情報を売っていないですよというところも強調しておいてあげよう。太らせてしまったのは私の責任だからこそ、減刑を望む。
「なら、今からでも、コイツらが勧めれば覗くのか?」
王子と一緒にコロポックル達はつぶらな瞳で私を見上げてきた。多分彼らは私が覗き見をしている事を知らなかったから、そんな契約を持ちかけなかっただけだ。
多分私が望めばいいよと言ってくれそうな気がする。
「私は……友人のプライベートを覗くような安い悪には走りません」
というか、そもそも一緒にいる時間長いし。わざわざ覗かなくても、毎日その美貌は拝めているので十分満足だ。なので覗くなら王子以外だ。
「……友人じゃなくて、そこは婚約者だろ」
「そこはどちらでもいいです」
「一応、お前の言い分は分かった。でもブートキャンプはやるからな」
「そんなぁ」
「「「「「ぴぃぃぃぃ」」」」」
私はがっくりと肩を落とした。ついでにコロポックルも悲しそうな声を出す。減刑は無理だった。
私は悪い魔女だけど、王子のブートキャンプから逃れる悪事の仕方はいまだに分からない。
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