39話 飛べた魔女はただの好奇心の塊

 今日も元気だ飯が美味いだけど、食べ過ぎ厳禁の為読書をしていた私は、ふと思った。

「どこかに落ちてる男の子を拾って育てるのってどうなんだろ」

「は?」

「うん。ごめん。ちょっと、気になっただけだから気にしないで下さい」

 異界の物語が丁度そんな内容だったのだ。

 男の子が落ちているという特殊状況下で、さらにその子を育てるを選択するのが不思議で、思わずポロリと呟いてしまった。。王子の怪訝そうな声に我に返ったが、出てしまった言葉は取り消せない。

 本来なら一人暮らしだから、この手の独り言に返事が返ってくることはないはずなのに、タイミングが悪すぎた。


「気にするなと言うには、かなり不穏な発言だったと思うが?」

「そう? ただ単に、魔女が孤児を拾って育てる系のイラストとか小説が異界で流行ってるみたいで。なんか記号の後に【魔女集会であいましょう】とかって書いてあるんだけど。魔女集会の意味がこっちと違うのかな?」

 こっちの世界で魔女集会と言えば、私からすると魔女達のどんちゃん騒ぎな飲み会なイメージだ。

 でも異界のその言葉が入っている作品は、魔女が男の子を拾って育てる系のものを指すらしい。良く分からないが、とりあえず異界の魔女というのは色々な解釈があるようだ。ただ一つ言えるのは、大抵が【悪い魔女】なのだ。なんか悪い魔女が将来イケメンに育つ子供を育てて懐かれる的な話を指すらしい。

 イケメンの方が、眼福ではあるだろうけど、イケメンになるかどうかは賭けである。子供の時に可愛くても大人になるとバランスが崩れるという事はよくある話だ。

 フィクションだから成り立つのだろうとは思う。隣に子供の時は美少女で、大人になったらイケメンになった成功例がいるはいるけれど、世界的な割合からすると多分奇跡的確率ではないだろうか?


「ほう」

「落ちていた子を勝手に連れて行くという行為は、結局は人攫いではあるけれど、孤児だから問題にはならないのかなというのと、小さい頃から育ててるから懐かれているのかなと、色々不思議でして」

 フィクション相手に考察するのもどうなのかだが、同じ悪い魔女としては、少々気になったのだ。

「懐くかどうかは、魔女の行動によるだろ」

「私もそう思います」

 私に子育てができるとは思えない。

 ならばこの魔女集会の魔女には子育てができたのかとなるが……いや、うーん。二次元の作品にリアルを求めるのは間違っているわけで。でもまあ、それなりにできるのだろう。できる出来ないではなくやるしかない状況に追い込まれれば、人はやる。

 それに現実だって、素晴らしい親もいれば、子育てに不向きな親もいる。それでも子は育つ。そんなものだ。

 それに劣悪な環境から拾ってもらった恩が加われば、虐待しない限り、それなりに懐かれる可能性は高い。


「ただ私も悪い魔女だし、もしも見つけたら拾ってきて育てるべきなのかなと、ちょっと想像してみただけです」

 そもそも外出しない私に拾う機会があると思えないけれど、もしもあったら拾ってみた方が良いのだろうかと思ったのだ。それに悪い魔女に育てられた子供が将来どうなるかは気になるには気になる。

 悪人になるのか。それとも魔女を反面教師にして善人となるのか。

「絶対止めろ。拾った子供はすぐに孤児院に入れるべきだ」

「常識的に考えればそうですよね。うん。私もその方がその子の為だと思います。私に育てられたらまともな大人になるかどうか以前に、間違いなく子豚一直線ですから」

 もしも拾ってしまったら、私は絶対たらふく食べさせるだろう。今までの使い魔への失敗例が頭をよぎる。うん。ふくふくに育ち過ぎて、どんな美少年も子豚化する未来しかみえない。ヤバい。美形予定の子が豚化とか、世界遺産の損失だ。ぶよぶよになってしまったら、腹をもむぐらいしか価値がなくなってしまう。

 それにその所為で病気になられても後味が悪い。


「いいか。もしも、もしもだ。子供が家の前に捨てられていたとか、何かあったら真っ先に俺に言って、孤児院に入れろ」

「分かってますよ」

 そんな念を押さなくったって、ちゃんと孤児院に居れるつもりだ。腹肉をもむ為だけに育てるような真似はしない。

「妙な気を起こすなよ」

「人食はしませんから」

 悪い魔女だけれど、太らせて食べるという予定はないので安心して欲しい。食べ物は王子飯と異界のもので間に合っている。豚になっても食べる気はない。


「絶対だからな。俺はほんのひとかけらでも不穏分子を増やす気はない」

「ああ。育てた子供の所為で魔女が死ぬパターンもありましたね。異界では魔女狩りという物騒な儀式があるそうで」

「そういう意味じゃないんだけどな」

 ならどういう意味だ。

 まあいいか。拾わないんだし。今日も元気だ。王子が面倒なので、この話はこの辺りで終わっておいて、夕飯の事でも考えていよう。

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