37話 飛べた魔女はただの引きこもり2

「今回も欠席でお願いします」

 緑色の犬が魔女集会のお知らせを持ってきたので、私は手紙を読む前にNOを伝えた。残念そうに、くぅぅぅんと鳴かれるが、駄目なものは駄目だ。

「カリカリ持ってきますね」

「わふっ」


 霊獣の中でも、妖精犬の一種である彼はドッグフードが意外にも好きだ。肉はご主人様である魔女からもらえるようでチープな感じがいいらしい。後は【ほ◯っこ】 という、噛むおやつがお気に入りのようだ。


 私だって可愛い使い魔たちとは会いたい。でもそのご主人様とは会いたくない。引きこもり魔女が引きこもらなくなったらただの魔女だ。アイデンティティの問題だ。なので、魔女集会は欠席の一択である。


「くうぅぅん」

「ちゃんと読めと?」

 悪い魔女でも、動物には甘いのだ。ドックフードをお皿に出していると、鼻先で手紙を押され、困惑する。ご主人様に何か言われているのだろうか。

 魔女集会を催す魔女は結局のところ暇人が多い。暇人というか、退屈しているのだ。だから話題が欲しい。今まで不参加の私が参加すれば、酒のつまみぐらいの話題になるだろう。だからといって、そんなものになる気はない。

 私に利点などないではないか。


「私は誰にも媚びる気はないですよ? 孤高の野豚ですから」

「わん」

 仕方なく開封した手紙に書かれた言葉に、私は眉をひそめた。

「これを渡したのは貴方のご主人様ですか?」

「わふうぅぅ」

「責めてはないです。偉いですね。お使いお疲れ様です」

 私は緑色の子犬を撫でる。本来の彼は牛ぐらいの大きさだと分かっているが、子犬姿だとどうしても甘やかしてしまう。まあ、実際手紙の内容は彼のせいではないけれど。


「……ハロウィンの参加は保留にしてください。まだ返信まで時間がありますよね?」

 ものすごく不服だけど。今すぐに答えを出すのは得策ではなさそうだ。

 無視をするには、少々いただけない内容だった。

「わん」

「貴方は大丈夫ですか?」

「わふうぅぅ」

 尻尾を垂れる姿に私はため息をつく。大丈夫ではなさそうだ。

 クー・シーと呼ばれる彼らは、ケットシーと違い人間の言葉は分かっても話す事はできない。だから正確な情報は分からない。【予言の魔女】の使い魔ほど長い付き合いではないのだからなおさらだ。

 彼のご主人に何か問題があるのか、彼のご主人を脅す何かがあるのか。どちらにしろ、契約者の責任ではあるけれど。


「異界の生き物ともめ事を起こすとか、本当にろくでもない。貴方の管轄はどこですかねぇ。まあ、鳳凰とか麒麟、後は不死鳥当たりなら相手の魔女をブラックリスト入りさせて契約破棄もできますから、使い魔を辞めたい時は最寄りの【王】達の元へ行って下さい。その時私の名前とお礼は弾むと言っておけば大丈夫ですから」

 魔女ないし、魔法使いが契約する使い魔は、異界の生き物だ。霊獣と呼ばれる彼らは、使い魔になることで、こちらの世界との行き来ができるようになる。使い魔の契約を破棄すれば彼らは元の世界に帰るだけだ。


 この使い魔契約は二人の同意が必要となるものなので、一方的な契約も破棄もできない。しかし霊獣が絶対嫌がる事を強制的に行わせる虐待行為は禁止されており、かなり力の強い【王】と呼ばれる霊獣ならば一方的に契約を破棄し、二度とその魔女が霊獣と契約できなくすることができた。

 使い魔を持つのは便利というだけでなく、魔女達のステータスにもなっているので、契約できないとなると結構痛手のはずだ。


「はぁ。引きこもりを魔女集会に出して何が楽しいんだか」

 私は手紙をポイッと机の上に置きながら、牛乳をお皿に入れた。今日のごはんはあまりおいしくなさそうだ。

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