36話 飛べた魔女はただの引きこもり

 秋深まる今日この頃。涼しいおかげで、今日も元気だ茶菓子が美味い。

「茶菓子は美味しいけれど、皆さん暇人ですか?」

 豚の家の茶会など、年に一度でも開けばいいぐらいだろうに、我が家の狭いテーブルに、王子と公爵令嬢と【癒しの魔女】がいる。

 おかげで元々一脚しか用意していなかった椅子を、最近追加で購入し続けていた。普段は使わないので正直邪魔だけれど、立食して下さいというには問題あるメンバーなので、徐々に椅子が増えている。次に椅子が必要になったら、折りたためる椅子というものを検討するべきかもしれない。

 いや、異界のパイプ椅子なるものは、三流芸人が使うものなんだっけ? ここにいるの超一流のご令嬢と王子だしな……。


「そうね。暇ではないけど、時間は作るもの派よ」

「私はそれほど頻繁な外出ではないので。公務も頑張っておりますし、これぐらいは許されるのではないかしら?」

「わざわざ時間を作ってるんだよ。俺の場合は、仕事と趣味が一緒になっている感じだな」

 ペットの餌やりが趣味なのか。無趣味なやつめ。

 そんなことを思いつつも、追い出せるわけがないので、私はお茶を飲む。なんでもかんでもツッコミを入れればいいというものではない。


「そう言えば、話しは変わるけれど、【異界渡りの魔女】は魔女集会には出ないの?」

「何で引きこもりが出ると思うんですか。欠席一択です」

 魔女集会とは、異能持ちだけが参加資格のあるお祭りだ。小さなものなら毎月あり、大きいものだと、春と秋に行われる。春の集会は【ワルプルギスの夜】、秋の集会は【ハロウィン】と呼ばれていた。どちらも異界に同じ名前のお祭りがあるので不思議だけれど、案外私が移動できる世界というのは同じ神が作った世界なのかもしれないと思っている。霊獣達が住む世界も、似た単語や習慣が多いし。


「そうよね。【異界渡りの魔女】が出席したなんて一度も聞いたことがないもの。もしも出席したら、凄い話題になるんだろうなぁ。後、【予言の魔女】とかそこの王子とかも絶対出席しないし」

「俺は能力を明かしてないんだから当然だ」

「あら? 能力を明かさなくても出席はできますわよ? 私が魔法使いですと一言言えばいいのですから」

「そこまでして出る必要性を感じないんだよ」

 魔女や魔法使いの中には、能力を明かしていない人もいる。その場合、他の魔女や魔法使いが、「この人は魔女ないし、魔法使いです」と一言口添えすれば、簡単に参加できた。結構ゆるいので、本当はただの人間もまぎれているのかもしれないが、それを本人が口にしないのなら魔女達は受け入れる。

 知られたくない事もあるので、能力について根掘り葉掘り聞かないのがマナーだ。


「でもそう言えば、魔女集会に出てないのに、お前、何で魔女に詳しいんだ?」

「そうなの?」

「腹立たしいが、以前こいつは俺に別の魔女との結婚を勧めてきたんだ。でも今思うと、引きこもりの癖になんでそんなに詳しいんだろうと思ってな」

 ……腹立たしかったのか。私は良かれと思って勧めたんだけどなぁ。美男子のとなりに美女がいるのは眼福だ。世界遺産だ。

「それは部屋の中から見てたからです」

「見てた?」

「はい。霊獣が許可してくれれば彼らの目を通して色々見れるんです。例えば、ほら」

 私はテーブルの前に手鏡を置くと、異界と繋ぐような要領で鏡に霊獣から送られる情報を映す。そこには、今日も目の下の隈が麗しい王太子が働いている姿が映った。

 ……何、あのえぐい量の書類。それを見ながら、何やら計算をしているけれど、計算機が目にもとまらぬ速さで弾かれている。ゾンビのような顔色と動きが一致しない。


「お前っ。何だコレは」

「いや、私も聞きたいです。この人、よく死なずに働いてますね」

 王子が叫んだが、私もこんな光景を見るとは思わなかった。この国、王太子を使いつぶし過ぎだろ。どこのブラック企業だ。

「これぐらいなら、あと半日は大丈夫ですわ。お茶会が終わったら癒しに行きますわね」

 【癒しの魔女】の慣れっぷりが怖い。

 もう少し、仕事肩代わりする人がいないのだろうか。どうなってるの、この国。というか、病弱そうな外見だけど、これ、ある意味王子と同じ体力がゴリラなのでは? 流石は兄弟。


「これ霊獣の目って言ってたけど、もしかして王太子の使い魔の事を言っているの?」

「そうでなければ、王太子の近くに別の使い魔がいるとか怖いじゃないですか。暗殺し放題ですよ」

 王太子の部屋に他の使い魔が簡単に入れる設計とか、ザル警備にもほどがある。それこそ、この国大丈夫だろうかだ。

「王太子の部屋に入れる使い魔は、間違いなく鳳凰だけです。癒しの魔女の使い魔だって、入れないでしょう?」

 そんなの魔女や魔法使いなら、当たり前に知っている事だ。鳳凰が築いた縄張りに、他の使い魔が入れるはずがない。


「鳳凰と知り合いって……。お前、まさか、数年前に鳳凰が激太りした事件の犯人なのか?」

「……おーほほほ。私は悪い魔女ですからね。鳳凰だろうと、麒麟だろうと、堕落させます」

「麒麟? 待て。という事は、隣国の王の麒麟が太ったって騒ぎもお前の所為か?!」

 おっと。しまった。口がすべった。

 でもなー。やってしまった事を誰かのせいにするのはカッコ悪い。悪には悪の生きざまというものがあるのだ。悪の美学と言おうか。私は、私の行いを言い訳するつもりはない。たっぷりと彼らが欲しがるままに食べさせましたとも。


「使い魔の目を借りれるって、それって既に契約をしている使い魔と二重契約しているという事なの?」

「まさか。そんな酷いことできませんよ。ただ、彼らとはお友達なので、視界を繋ぐのを許可されてるだけです」

 契約した霊獣は二重契約などできない。それは霊獣を馬鹿にする行為でもあるし、何より二つの命令を聞かなければいけない霊獣を苦しめる。

 だから私は普通にお願いして貸してもらっているだけだ。霊獣が駄目と言えば、普通に見られないよう一時的に回線は不通となる。見ていいかの判断は霊獣まかせだ。

「だから十八禁的な場面は必ず配信されません。癒しの魔女もご安心ください」

「ちげぇ。問題点そこじゃない」

 頭を抱えた王子を見ながら、それほどまでに隠さなければならない事があったのかと生ぬるい目になる。そうだよね。エロ本の一つや二つ、ベッドの下に隠してるよね。男だもんね。


 私は悪い魔女だけど、人様の弱点をチクチクする小さな悪はしない主義なので、王子のエロ本についてはふれない事にした。うん。今日もいい日だ茶が美味い。

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