34話 飛べた魔女はただの美魔女?
「この最初から栗がむかれているのはいいわね。熱々焼き栗も捨てがたいけど、これはこれで便利だわ」
今日も元気だ飯がうまいと言いたいところだけれど、最近頻回にやってくる公爵令嬢が再びやって来てちょっと微妙だ。私はブヒブヒ鳴くしかできない豚なので、追い返せない。それなのに王子は顔を合わせると、微妙に苛立つ率が高いので面倒だ。怖くはないけれど、イケメンオーラ全開で何故か口説き文句を言うし……きっと豚を虐待する事でストレス発散しているのだろう。なんと酷い。
でもこの公爵令嬢もメンタルが鋼の様で、王子の睨みもなんのその。突然王子が豚を口説きだしても何食わぬ顔でお菓子を食べ、さらに時折癒しの魔女もつれてくる強者だ。なんで貴族ってこんなに図太いのだろう。
「それは良かったです。あげるのでそろそろ帰って下さい」
栗をむいちゃった商品の良さを分かって頂けたのは嬉しいが、そろそろ王子が来そうで怖い。豚小屋見学にくるなら、ちゃんと飼い主に許可を取って欲しいものだ。
「何よ。王子が気になるの? まあ、貴方達の邪魔はしないと決めたから、来たらちゃんと帰るわよ? 【癒しの魔女】も一緒のお茶会の時は別だけど」
「はぁ」
「そもそも、女性は女性の付き合い方ってものがあるのよ。公爵夫人になったら、最低限の事をしなくてはいけないわよ?」
「いや、ならないんで」
私は手を前に出しNOを訴える。私が公爵夫人とか、改めて言われるとないわーという感じだ。しかも、すっごく面倒そうだ。私は女性の付き合いってなんだそれだし、公爵夫人の勤めも分からない豚だ。今の生活で十分満足なので、わざわざ厄介事を背負いたくない。
「前から思ったのだけど、何でそんなに頑なに王子と結婚したくないの? 貴族は面倒な部分もあるけれど、面倒な分恩恵もあるわよ? それとも貴族にならないなら結婚してもいい感じなの?」
「そもそも結婚がNOです」
「そんなに悪い物件じゃないでしょ? 顔はいいし、お金も持ってるし、年も近いし、愛されてもいる。貴族のしがらみが嫌ぐらいしか、拒否する理由が分からないわ。だって貴方にとって、一番親しい殿方って王子でしょ?」
確かに一番親しいのは王子だ。間違いない。そもそもわざわざ豚と結婚したがる変わり者は王子ぐらいじゃないだろうか? だからと言って、はい分かりましたなんて言えるはずもない。
「そもそも豚と王子が結婚というのが間違っているんです」
「豚ねぇ。……つまり自分に自信がないのね」
「は?」
「確かに王子と結婚というだけで目立つから、言う奴は色々言うわ。絶好の話題だもの。皆暇だもの。噂の的でしょうね。そしてすべての噂が肯定的とは限らないわよね」
「むしろ否定的が多いのでは?」
グラム98円ぐらいのお肉たっぷりだった元豚と、私が魅了の能力を持っているのではないかと錯覚するほどの美男子だ。この公爵令嬢は結婚をあきらめてしまったけれど、きっと結婚したら、私の方が似合うという女性がわらわら出てくるはずだ。くっ。この、ハーレム主人公め。
「多いわけないじゃない。だって、世界存亡までかかってるのよ? それに豚豚言うけれど、貴方それほど造作悪くないわ。むしろ痩せたら美人タイプよ。そして痩せたんだから、ただの美人じゃない。黒髪美人ってこの国では結構人気よ?」
「可哀想に。目が悪いんですね。眼鏡、異界から取り寄せましょうか?」
今は裸眼だけど、目が悪いらしい。確か異界には可愛らしいフレームのものもあったはずだし、眼鏡が嫌なら直接レンズを目の中に入れるものも……想像したら目が痛くなってきた。
「まあ、そこは納得できないなら、スルーして頂戴。どちらにしても最初の理由があるから、大っぴらに否定するのは、周りからも爪弾きものになっている馬鹿だけよ。そしてあの過保護王子の事だから、そんな馬鹿からの悪意ある言葉を貴方の耳に入れるとは思えないし。だから、貴方が自信を持てないのは、貴方自身の問題という事ね。まずは自分に自信を付けないと」
「いや、自信の問題ではなくて、本当に相手が私では王子が可哀想だという事です」
「それは自信をつけてから、よーく王子を見て考えて」
誰がどう考えても、王子が可哀想。これ一択だろう。なんたって、属性はハーレム主人公だ。悪い豚……もとい、悪い魔女と結婚なんて、墓場にダイブしてめり込んだぐらいの状況だと思う。どう見てもバッドエンドだろう。ヒロインはよ来いだ。
「それでどうやって自信をつけるかだけど、結構見た目のコンプレックス持ってそうよね?」
「見た目?」
「豚豚言ってるのは、自分で落としておいて他人から低い評価を貰っても知ってますよーアピールでしょう? でももう貴方は太ってない。だから女性が次に磨くのは、ずばりスキンケアよ!」
「はぁ」
「服は王子に選んでもらった方がいいわ。いいえ。むしろ選んでもらいなさい。私の評価に関わるから」
いや。それ、私の服のセンスのなさを指摘してますよね? デスリですよね? ジャージだから分からなくもないけど。
「服はこれが良いんですけど。楽だし」
伸縮性ヨシの優れものだ。見た目に騙されてはいけない。
「家ではそれでいいわよ? でも公爵夫人なら最低限、王が開く舞踏会に参加する必要があるわ。もちろん王子にエスコートされてよ」
「うわ。絶対嫌」
リボンをつけて豚を見世物にするとか、動物虐待だ。
想像するだけでげんなりする。
「でも、よく考えて。貴方がエスコートされなかったら、誰か別の女性が王子にエスコートされるのよ? そしてエスコートされた女子が恋に落ちる。でも王子に相手にされず、やがてストーカーになり、貴方に襲い掛かってくる」
「えっ。何その、ヤンデレコース」
王子が恋に落ちるのではなく、まさかのヤンデレ女子コース。一体どうなってしまうのか。
「それを阻止した王子は、貴方を傷つけたくないばかりに地下室に貴方を監禁。俺だけがいればいいだろうと――」
「おい。その妄想、何処に向かう気だ」
ちょっと公爵令嬢の話がスリルとサスペンスで面白いなと思った所で、ご本人が登場した。大丈夫。この王子は光属性なので、闇堕ちなんかしない。しっかり調教された萌え豚なので、フィクションと現実は混同なんかしないから。
そもそもヤンデレ女子がこの家の仲間でたどり着けるとは思えない。なんと言っても、国家権力で警備されているのだ。
「あら。思ったより早いですわね。仕方がありません。この話は、また明日」
「明日じゃねーよ」
「あら、良い話だと思いますわよ? 【異界渡りの魔女】がもっときれいなったら嬉しいでしょう?」
「今の話と、全く持って繋がらないんだが?」
途中から聞いたらそうだよね。うん。最後の部分だけだと、王子がヤンデレストーカーに付きまとわれるヤンデレという、昼ドラ系の話だ。いや、昼ドラってそういう話だっけ?
なんかよく分からない言い合いになっているけれど、まあいいや。今日もいい日だ、甘栗旨い。
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