33話 飛ばした王子派ただのジェラ王子
「この、浮気ものめ!!」
俺は通いなれた婚約者の家に上がり込むと、開口一番に、相手を非難する。正式に婚約してから、婚約者と冗談のように婚約破棄話は何度かしたが、現在過去最大のピンチを迎えていた。
「すみません。お客が来たら茶菓子を出すものだと思っていたので、つい……」
「怒らないで上げて下さいな。ポッ〇ー美味しいですわよ?」
「そうそう。異界のお菓子って、結構いけるわね。甘いお菓子しか知らなかったから、プ〇ッツとかすごいわ。塩味のクッキーな感じで」
知ってる。
俺の方がもっと良く知ってるっての!! 俺だって婚約者に分けてもらったことがあるのだから。だから自慢げに食べるんじゃない。
そしてしおらしく、お菓子を食べた件について謝罪する婚約者だが、絶対周りが自分に味方すると分かっていて謝っている。このやろう。ためらうことなく菓子を貪り食いやがって。
「お前、計算通りってあくどい顔してるぞ、馬鹿っ!!」
「前々から思ったのですけど、公式の場ではないと言っても、殿下は口が悪すぎるのではありませんか?」
「そうそう。顔で点数稼いでるからって、婚約者には優しくしないと。釣った魚には餌をやらないとか流行らないと思いますわよ?」
「まだ釣られてません」
くっそ。
女が集まると姦しいという、異界の言葉はまさに正しい。全然話が進まない。
いつも一人を楽しんでいる婚約者の家で、【癒しの魔女】と最近父親が失脚した公爵令嬢が、婚約者と一緒にお茶を飲んでいた。意味が分からん。いや、二人が婚約者と全くの知り合いではないかと言われればそうではない。そうではないけれど、いや、集まって一緒にお茶をする仲ではないはずだ。少なくとも失脚令嬢は、間違いなく場違いだ。
「そもそも、失脚令嬢! お前は何でここに居るんだ?」
「失脚令嬢とはひどい言い方ですけど、的を得た言いまわしですね。何でここに居ると言われましても、親友の家に遊びに来るのは普通でしょう?」
「親友?」
「違います。親友ではありません」
サラッと言われた言葉を、俺が訝し気に聞けば、婚約者の方から訂正があった。だよな。この間まで、俺を取り合うために来てたよな。いや、婚約者に取り合って欲しかったというか……うん。記憶の改ざんは止めよう。俺の記憶が正しければ、婚約者に久々に婚約破棄破棄いわせる原因を作った最悪女だったはず。
俺がくるのがあと一歩遅ければ、世界は滅びただろう。それぐらい婚約者はストレスを溜めたはず……うん。溜めていた、溜めていた。誰がなんと言おうと、溜めていた。
「まあね。でも将来的に親友になる予定なので、親友(仮)よ。今は、彼女を正々堂々誑かす為に押しかけてるの。ついでに、王妃予定とも仲良くなった方が、【異界渡りの魔女】も私も絶対いいから、呼んだのよ」
「呼ばれてしまいました」
「ホイホイ呼ばれないで下さい……」
【癒しの魔女】はおっとり笑ったが、簡単に出歩いていい身分ではない。なんと言っても王太子であらせられる兄の婚約者なのだ。つまりはこの国の未来の王妃ということ。確かにこの家は、警備が厳重だからよっぽどの危険はないかもしれないけれど。
「だって、ダイエットの時しか呼んで下さらないんですもの。殿方は、仕事人間ばかりで、私は少し怒ってますのよ」
「いや、兄上みたいな男は少ないから」
俺の兄を基準にして貰ったら困る。あの人は、働き過ぎだ。たぶん普通の男の二倍どころか、三倍から十倍は働いている。
「王子は仕事人間じゃなくて、自分の大事な子がほかの人と仲良くするのが嫌なだけですって。男の中には自分が一番じゃないと気が済まない、女をまるで物のように管理したがる人もいるんですよ。そういう男は、子供が生まれると一番になれないから浮気するって村の奥さんに聞いたわ」
「えっ、浮気? じゃあ、婚約破棄ですね」
「未婚で出産はないと思うから、その場合は離婚じゃないかしら」
「人を勝手に浮気人間にしたあげく、想像するのもおぞましい未来を話すな。そして、お前は婚約者の癖に、なんで婚約破棄で顔を輝かせるんだ」
「すみません。癖です」
そんな癖、さっさと治せよ!!
嬉々とした表情で離婚とか婚約破棄とか言うな。俺のメンタルが月面のクレータのように抉れるわ。
ただ彼女達の会話はただの言葉遊びだろう。正直それに乗るのも癪だが、やっぱりムカつくのはムカつくので俺のターンに移らせてもらう。
「俺に妬かせるとは、悪い婚約者だな?」
「ひぃ。すみません。すみません。その凶悪な顔は止めて下さい。目が潰れます」
顎をくぃっと持ち上げて、ジッと目を見つめてやれば、婚約者は顔を青くした。いや、そこは赤くしてくれよ。へこむからさ。
「男の嫉妬は醜いというけれど……顔がいいとこうなるのね」
「大体、お前が居るのが悪いんだろ。俺はお前とは結婚しないし、婚約者と別れる気もないからな」
前より図太くなってないか? この、失脚令嬢。隣で当たり前のようにお茶を飲みながら感想を言わないで欲しい。
そして義姉も気にせずお菓子をポリポリ食べるのを止めてくれないだろうか。
「ああ。それは諦めました。世界を天秤にかけた略奪愛ほど、割に合わないものもないし。それよりも、【異界渡りの魔女】と仲良くなった方が今後得だと思ったのよね」
「はあ?!」
「だって、彼女、将来は公爵夫人でしょ? だからよろしくお願いしますね、【異界渡りの魔女】の旦那様?」
……コイツ、できる。
色々気にくわない部分はあるが、俺の恋仲を邪魔する気はなさそうなので、今すぐ外に捨てるのだけはやめて、俺もお茶会の席についたのだった。
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