28話 飛べてた魔女はただの無知な子供

「ああああ、何すんだ、この性格ブス!!」

「ふざけないでよ。折角、アンタのポケットマネーで、金とか宝石とか買わせようと思ったのに!!」

 私は可愛い友人二人が喧嘩するのを見ながら、線香花火をパチパチさせていた。

 ――と、――は、私の親友と言っても過言ではないけれど、友達の友達は友達とは限らないという感じで、二人は良く喧嘩をする。私が何か言った所で、二人の喧嘩が止まる事はないので、基本放置だ。

 それに今回の喧嘩は、線香花火を誰が一番長持ちさせられるかという勝負でお互いが言い争ったばかりに秒で試合が終了した件についてである。内容的にそのうち、二人共喧嘩に飽きるだろう。


「あっ」

 ぼんやりと二人を眺めていると、私の線香花火も下に落ちた。

 さっきまであった暖かい光が一瞬で消えてしまう。それにしてもこの線香花火、他の花火に比べて地味だ。そしてすぐに命が終わってしまうので、何だか寂しい。

「一番は――だな」

「仕方ないわね」

 親友二人が終わってしまった花火を見つめ続ける私に声をかけてきた。どうやら喧嘩も終わったらしい。思った通りだ。


「あーあ。もうこんな時間か。流石に帰らないと怒られるな」

「そりゃそうでしょうよ。あんたにいくらの税金が使われていると思うのよ。ちゃんと将来、私達の為にしっかり働きなさいよ」

「何でお前の為に働かないといけないんだよ!」

「別に私の為だけに働けなんて言ってないわよ。私だけじゃなくて――の為、つまり、国の為に働けっていってるのよ」

 そう言いながら、少しだけ赤みがかった茶色髪の少女の方が、私の肩を抱く。それに対して、金髪の少女は頬を膨らませた。でも彼女は頬を膨らませても可憐な容姿をしているので、悪い人に捕まらないように早く返るべきだろう。


「くっそ。何でお前らばっかり自由なんだよ」

「ふふん。それは私と――は神様に愛されているからよ。まあ、アンタの事も米粒くらいは愛してるんでしょうけどね」

「はあ?」

「自由は少ないかもしれないけれど、アンタは凄く恵まれた環境にいる。ちゃんと理解して発言しなさいよ。じゃないと、敵ばかり増やすんだからね!」

 時折二人は良く分からない会話をする。

 赤茶髪の少女は、私より年上で、金髪の少女は多分貴族なんだろうなと思っている。どちらも私よりずっと色んな事を知っていて、だから私は二人の会話が分からないのだろう。それが時折寂しいけれど、私は学がないのだから仕方がない。

 赤茶髪の少女がバザーでものを売る為に算数と文字を教えてくれるまで、数も十までしかちゃんと数えられなかったぐらいなのだ。文字だって、自分の名すら書けなかった。

 施設にはシスターがいるから、聞けば色々教えてくれるとは思うけれど、大人は怖い。優しいのかもしれないけれど、優しい顔をした人が、本当に優しいとは限らないのだ。

 だから意気地なしな私は、結局この二人しか頼れない。


「今回は――が一番だったから、――が願い事を言っていいわよ」

「そうだった。何か叶えて欲しい願い事はないのか?」

 願い事……。

 私は物を知らないから、これといって何も思い浮かばず首を傾げる。それに欲しいものは大抵異界で手に入ってしまう。

「……分かんない」

「なら、来年までに考えておけよ。で、来年リベンジだ! 今度こそ、俺が勝つ!」

 金髪の少女がそう笑ったので、私も笑顔で頷いた。

 来年にはもう少し賢くなって、願い事が出来るかもしれない。それに来年またできるのは嬉しい。子供だけの花火大会は楽しかった。

「うん。残った花火は来年にとっておくね!」



 ――懐かしい夢を見た。

 きっと夜に花火をしたからだろう。あの時は来年というのは必ず来るものだと思っていた……とても無知な子供だった。

 親の事でもう少し学習していればよかったのに……。

「そうだ。折角キャンプもどきをしてるのだし、焼きマシュマロ作ろう」

 今日も元気だ飯が美味い。大丈夫。美味しいものを食べていれば、明日がどうなるか分からなくても今日はいい日だ。

 私は夢を追い払うように、テントから外へ出た。

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