23話 飛べた魔女はただの考察者2
「私は気が付いてしまいました」
「何をだ?」
今日もいい日だ、王子飯が美味いともしゃもしゃしている時に、ふと気が付いた。つい最近、王子が一言声をかけただけで人がわらわら出てくるというイリュージョンを見たのだが、今でもあれが現実だとおもえないというか思いたくないというか……。いや、でもあの光景は夢ではないと、とうとう購入した冷蔵庫がヴゥゥゥゥと唸り声をあげて自己主張している。初めてあの音を聞いた時は、冷蔵庫はお腹に一杯ものを入れると、お腹でも壊すのかとビビったが、どうやらあの唸り声は問題ないようだ――っと話がそれた。
とにかくアレを見て、私はとうとうその真実にたどり着いてしまったのだ。
「王子の魔法使いの能力についてです」
「へえ。何だと思ったんだ?」
王子は面白そうな顔をして私を見て来た。
えっ。言っていいの? コレ、多分、国レベルの隠し事じゃないの?
そう思ったけれど、よく考えればここには豚と王子しかいない。つまり全くもって問題がない話だ。まあ、知られたからには生かしては置けないとか闇オチ的な事を王子が言い出したら、覚悟を決めよう。大丈夫、一人で死ぬわけじゃない。皆で滅びれば怖くない。
「ズバリ、王子の能力は【魅了】ですね」
もしくは、【傾国】とか【傾城】という言い方もありかもしれない。
「この間、太陽光パネルを設置してもらっている時にピンときたんです。あれだけの人を一気に操るなら、この能力しかないと! 最初からおかしいなと思ったんですよ。王子の顔はドンピシャで、私のもろ好みの美形だし。今では王子だけは殺したくないと思うぐらいに絆されてしまっているし、王子が家にこないと落ち着かないぐらいの依存症状が出てきているし」
毎日毎日、魅了の力を使われていたなら、そりゃ豚だって依存するはずだ。ずっと一緒というのは今でも勘弁して下さいと思うけれど、いないといないで物足りない。
そんな推理をしながら、ふと王子を見たら、凄い顔をしていた。
「ひぃ。何ですか、その色々問題ありそうな顔は。新しい【魅了】の魔法ですか?!」
王子はかつてないほど顔を赤くさせ、にやけている。腕で口元を隠しているけれど、それすらあざと可愛い路線を狙っているとしか思えない。くっそ。相変わらず、顔だけは抜群にいい。これも王子の能力がそう感じさせるのだろうか。さすが【魅了】。
予言の魔女が第二王子を押したのはとても正しい判断だったようだ。予言の魔女、恐ろしい子っ。
「まず伝えておくが、俺の能力は【魅了】じゃない」
「へ? じゃあ、【傾国の美女】とか?」
頑張れば国ぐらい傾けられるんじゃないだろうか? 若干中身が、脳筋ゴリラだから、化け猫ぐらいかぶらないといけないかもだけど。いや、あれはあれで新しい扉を開く人も――。
「そもそも女じゃないだろ。そういう類の能力は持ち合わせてないからな」
「嘘。まって、だって、この間王子の一言で、大勢の人を従わせて太陽光パネルの設置をしてたじゃない?」
絶対、これだと思ったのだ。
あの時現れた人達は、私が手出しする事ができないぐらい統率が取れていた。つまり王子が操っていたに違いないと思ったのだけれど。
「あの現象は、金と権力の力がなせる業だ。元々あそこに居たのは軍事訓練を受けている奴らだったんだよ。お前の護衛は国家予算がおりている」
なんてこったい。もっと充実する場所に国家予算は使ってくれと思うけれど、豚がここでブヒブヒ言った所で変わるとは思えない。
「というわけで、お前の変化は、一切魔法とは関係ない。依存症状も、普通にお前の内面から出てきたものだ」
……そうか。関係ないのか。
うん。
うん。
うん。
「全部、忘れて下さい。バルス」
私は滅びの呪文を唱えた。
全て忘れよう。今日もいい日だ、飯が美味い。……お願いします。こっち見ないで下さい。
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