18話 飛べた魔女は考察者
今日も元気だけど食事制限をされている為、口さみしい私は、異界の恋愛小説で甘味成分を摂取していた。
自分の恋愛は鼻をほじる勢いでどうでもいいけれど、人様の恋愛というのは面白い。特に異界の恋愛小説に出て来る人は大抵美男美女。平凡と書いて、普通に可愛いと読むのだ。
しかし異界の本を読んでいてふと気になった。
「何故、異界は略奪愛が流行っているんだろう」
「いや、流行ってないだろ」
萌豚の素朴な疑問に王子がツッコミを入れた。ああ、そう言えば、王子もいたんだっけ。
今日も王子は私の隣で本を読んでいた。……王子の癖に暇すぎでは? そう思うが、余計な一言で夕ご飯のデザートをカットされたくないので黙る。きっと豚への餌やりも王子の公務の一つになっているのだ。
そう思い読書に没頭していたので、王子の存在をすっかり忘れていた。だから今のは言葉のキャッチボールをしようとしたわけではない独り言だ。しかし返事が返ってきたので私の考えを述べてみる。
「でも、悪役令嬢婚約破棄ものは所謂略奪愛なのでは? 元ストーリではヒロインが婚約者がいるのに奪い取る略奪愛。悪役令嬢を主役にした場合は婚約者がいる悪役令嬢を別の王子が横恋慕する、または流れが変わってヒロインではなく悪役令嬢の行動変化によりヒーローが悪役令嬢を愛します。元々婚約していたので略奪ではないかもしれないけど、話の前提にヒーローとヒロインが結ばれていたという事なので、やっぱり略奪なのではと思った次第です」
というか、どうしてそこまで恋愛に命を燃やし合い、さらに国を巻き込むようなとんでも行動をするのか。異界の恋愛はデンジャラスだ。本なら面白いけれど、絶対関わりたくない。
「たまたまお前が持って来る本が偏っているだけじゃないか? それでいくと、この国の流行は悲恋な上で、あー、何だった? お前が前に言っていたメリバ最高みたいな国になりかねないぞ」
異界の言葉を勉強する上で知ったメリバと言う言葉を王子が使う現実。これこそ、メリバ。いやいや。まだ私は婚約破棄エンドをあきらめていない。だからここはエンドじゃないから、メリバじゃない。諦めたら試合終了だけど諦めなければ、人生という名の試合は続くのだ。
俺たちの戦いはこれからだ。
「確かに、この国の舞台の脚本に最近多いらしいですね」
時折魔女の使い魔を通して見る事もあるけれど、私はどうにもこのメリバが好きではないので、演劇より異界の恋愛小説派だ。重い話は苦手である。
「一つ大当たりすると、それに似たものが出てくるだろ。異界も同じで、偶然婚約破棄を題材にした書物が多いだけじゃないか? もしくはさっき言ったようにお前が選ぶのがそこに偏っているだけだ。異界が略奪愛だらけの殺伐とした世界なら、逆に純愛の小説がウケるはずだろ」
王子の言い分も分かる。人は物語に自分の知らない世界を求める傾向にある。しかし実話に基づく話だって結構読まれる気がする。どの世界でもゴシップは皆好きだ。
「いや。ここは、現実味を帯びた設定が流行っている可能性も。実は実話とか」
「怖いわ。異世界転生とかいう概念が当たり前だったら、どれだけ人が死ぬ世界なんだ。しかも大抵【とらっく】と言われる大型の乗り物に轢かれるんだろ? そんなしょっちゅう死ぬなら使用を禁止されるか、安全面を改善させるべき道具じゃないか」
まあ、確かに。
やり直し系は死んだという事が前提になっている。
「ここは異界にならって、皆で滅べば怖くないをこの世界でも流行らせるとか?」
やってみよう。転生ワンチャン。もしかしたら来世は君もハーレムOR逆ハー主人公! ……私はごめんだけど。来世なんていらんから、美味しいものを死ぬ直前まで食べていたい。
というわけで、今日も来世の為の徳など積む気はない。
「止めろ。物語だから面白がれるだけで、そういう宗教が現実で流行ったら世も末だ。頭のイカれた狂信者がお前を殺しに来たら困る。そうなったら、俺はここに泊まり込むからな」
「やめて。豚のストレスが上がって逆に死にそうです」
止めて。朝から晩まで、この美貌が隣にあるとか、眼福通り越して拷問だ。豚だって、一匹でのんびりする時間が欲しい。
「慣れろ」
「既に泊まる気でいる?! 止めましょう。そもそも、王様が許さないんじゃないんですかねー」
まあ、王様は若干放任主義っぽいから、どちらかと言うと王太子の方がブーブー言いそうだ。ブラコンだし。
「【異界渡りの魔女】が心身ともに健康でいるために必要な事は最優先するのが、特別法で可決された。つまり俺が泊まり込んで護衛するのは、何ら問題ない」
「問題大ありでしょうが。私の人権はどうなるというか、心身と言ったよね? つまり心! 私の心の平和が侵されています」
「諦めろ」
酷い。傍若無人だ。
いい笑顔で、人権無視な事言うんじゃない。
「俺は俺以外の男をお前に近づける気はないからな」
「えっ。王子以外の人がここを出入りするとか、それこそ嫌がらせです。絶対辞めて下さい」
「だろ? 俺で我慢しておけ」
あれ? そういう話だっけ?
そもそも何の話をしていたんだっけなと思い返す。絶対王子が泊まるかどうかの話はしていなかったはずだ。
余計な事を進めない為にも、脇道にそれた話題を戻さねば。
「話を戻しましょう。もしもここで略奪愛が起こるなら、誰かご令嬢がこの家に飛び込んできて、『王子を解放してあげて!』 とか言われるんですかね。または『王子の気持ちを考えてあげて』とか」
「ほう。もしもそう言われたらこう返してやれ。『私、王子と結婚します!』と」
「何でそうなる」
普通は別れろという話だろ。何で真っ向から私が喧嘩を買いに行かなければいけないのか。解せなさすぎる。
「王子の気持ちを考えろと言っただろ。それならお前との結婚一択だ。そもそも、俺が誰かの口を借りてでしか気持ちを伝えられないとか、愚弄してるだろ」
「だよね。王子なら、空気読まずにズバリ言うだろうし」
昔からこの王子はそういう奴だった。嘘はつけないタイプだ。
人の気も知らないで、言いたい事言って、ズカズカと心の中に入り込んでくる。
「もしも俺の気持ちを勝手に語る奴がいたなら、そいつは詐欺師だな。俺の気持ちが俺以外に完璧に理解されてたまるか。詐欺師は牢屋に入れる義務があるからな。ちゃんとそんな馬鹿げた奴がいたら言えよ」
「はーい」
……あれ? そもそもなんの話していたんだっけ。
なんだかよく分からなくなったけど、今日も飯が旨いので、たぶん平和だ。
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