16話 飛ばした王子がただの元美少女な理由

「【予言の魔女】、お前のせいだ!」

 

 俺は【予言の魔女】を指差し断罪した。

 今やこの女は、俺の義理の姉となり、王女として王宮にいる。その為普段断罪される事もないだろう。

 しかし俺の怒鳴り声に対して【予言の魔女】は不敵な笑みを浮かべた。反省した様子が見られない。相変わらず人をおちょくった奴だ。予言の力を持つこの魔女は神の意志が少しだけ覗けるせいでいつも人を無意識に見下す。自分だって人間でしかないというのに。

 だから俺は、この魔女が気にくわない。【異界渡りの魔女】の件がなければ、協力なんてしなかった。そう。昔からそりが合わないのだ。


「嫌ね。何でも人のせいにするなんて。女々しいわよ」

「いや。お前の悪事は分かってる。というか、全て知った上で俺を罠にかけたんだろ」

「人聞きが悪いわね。選んだのは貴方よ」

 俺の怒りが分かるだろうに、彼女は飄々としている。やはりこの女は魔女だ。俺をこんな罠に嵌めるなんて。

 今でも思い返すとはらわたが煮えくり返る。


「お前のせいで……お前のせいで、【異界渡りの魔女】は――」

 悔しくて、唇を噛む。過去にこの女の口車に乗らなければ……俺は……俺はっ。

「――俺の事、女だと思ってたんだぞ?!」

「こんなゴツイの女だと思うはずないじゃない」

「昔だ、昔!!  幼馴染だったのに気づいてなかったんだ。怒っていて忘れたふりとか、悲しみのせいでの記憶障害じゃなくて、普通に気づいてなかったんだよ、馬鹿っ!!」

 俺の言葉に【予言の魔女】は爆笑しやがった。まじで殺すぞ、このやろう。

 過去の自分を嫁にどうかと、愛している女に勧められた俺の気持ちを想像しろ。しょっぱすぎて辛い。病んでるからとかではなく、素で気が付いていなかったのだ。

 という事はだ。【異界渡りの魔女】にとって過去の俺は、あくまで女友達枠だったという事で――いや、もうほじくり返すのは止めよう。


「あはははははは。うわっ。お腹いたっ――マジで?」

「こんな嘘、誰が言うか?! ふざけるな。責任とれ」

 そもそも【異界渡りの魔女】が俺を女だと思っていたのには理由がある。確かに俺が女顔だったのは認める。しかしそれだけで勘違いが進んだわけではない。

 当時王子だった俺は、身分を隠して彼女に会いに来ていた。そして【予言の魔女】はそれを利用し、チャリティーバザーで服を売る際に、俺を女装させて売り子として利用していたのだ。王子とばれると厄介だった俺はまんまと彼女の口車に乗ってしまった。


「お前が女装をさせるから悪いんだろ。少しは反省しろよ」

「だって、あの顔利用する以外ないでしょ。美少女は一人より二人、二人より三人の方がいいのよ。アイドルが一人じゃなくてユニットを組むのは自分にないものを仲間で補い合う為よ。そしてオシの為に人は購買意欲を上げるのよ」

「異界のものを売ってる時点で購買欲は上がってるだろ、馬鹿っ!!」

 チャリティーバザーで売っていたのは、【異界渡りの魔女】がお取り寄せした商品だった。なので欲しい人間にとっては、目の色を変えるようなものだったと思う。俺らがしなければいけなかったのは、子供だからと言って買いたたかれないようにすることだけだったはずだ。

 断じて、売り子を美少女にする必要などない。

「馬鹿は貴方よ。売って売って売りまくるには、いろんな角度からのアプローチが必要なのよ」

 全然反省してねぇ、この守銭奴魔女。

 俺の怒りに対してどこ吹く風だ。


「それにね。神はお喜びだと思うわ。オシの新たな一面を見れて」

「は?」

「魔女も魔法使いも結局は神のお気に入りよ。神はオシへの貢ぎ物として、能力を授けてくれてるの。オシが尊ければ尊いほど能力も上がるわ」

 えっ。マジで?

 クスクスと笑う【予言の魔女】の言葉が本当かどうかは俺には分からなかった。

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