14話 飛べた魔女はただの元親友

 【予言の魔女】。

 そう呼ばれている私は、世界でも中々類を見ない能力を持ち、今はこの国の王の養女となり、聖女のような扱いを受けている。

 しかし元は貧乏な家の一子女でしかなかった。あまりに貧しいから食い扶持を減らす為に孤児院に入って、こそこそとお金を稼いで親に渡すだけの弱い存在だ。

 貧乏で何の能力もないと思われていたころはゴミでも見るかのような目で私を見下ろしていた貴族が、今ではこぞって私を褒めたたえ、貢ぎ、予言を請う。……まあ、こんな能力だから悪人にも目をつけられると思って、隠していたんだけどね。でもそれも今は昔。

 隠し通せなくなった私は、国に囲われる道を選んだ。


「えっ? 【予言の魔女】である私に【異界渡りの魔女】の話をして欲しい? んっ。この手は何って? そんなのお金に決まってるじゃない。ただで色々教えてもらえるなんて思ってないでしょ? で、聞くの? 聞かないの? はい。まいど」

 今日もまた迷える子羊が私の元に話を聞きにくる。でもただで教えるけないじゃない。

 どうしても聞きたかったのだろう。やってきた貴族の男は、私の手の上に、そこそこの金額が置いた。しかたない。私は金額に見合うだけのお客様向けの笑顔を見せた。

 それにしても皆暇ね。今回私が予言した世界の滅亡に一番関わりがある少女について、多くの貴族が聞きにくる。本当に人間って面白いぐらい自分の欲望に忠実だわ。恥も何もなく、異界渡りの魔女を脅してでも、生き残ろうとしているのだから。

 そもそも彼女が引きこもってしまった理由は、貴族こそ知っているでしょうに。


「それで何が聞きたいの?」

「貴方と【異界渡りの魔女】は友人だというのは本当か?」

「いいえ。昔はなんとも言えないけれど今は違うわ。友人って一方通行ではなれないって知ってるでしょ? ちなみによく質問を受けるけど、これまでの仕打ちを復讐したくて嘘の予言を言ったわけではないから。滅亡の予言は真実よ。予言の難しいところは、何かのはずみで、運命が変わる事が多々あるのよ。あの子が引きこもりにさえならなかったら、この滅亡の予言は読まれなかったでしょうね」

 私は予言に嘘はつけない。嘘をつけば二度と信じてもらえないからというのもあるが、実際の所、能力の誓約的に言えないのだ。私にできるのは、神から授けられた予言を黙っておくかそのまま読み上げるか選ぶだけだ。

 予言でなければいくらでも嘘はつけるけれど、予言だと言った瞬間から、それは神の言葉に変わってしまう。

 それが【予言の魔女】の能力。

「ならば、貴方が説得すればいいのでは?」

「無理よ。私はあの子を裏切ってしまったし、私では無理だと予言が出てしまったから」

 

 私は私の大切な者……弟や妹を守る為に、あの子を切り捨ててしまった。あの場面で、王家の手を取らないという選択はなかったのだから仕方がないと思う。もしも王家の手を手に取らなかったら、【異界渡りの魔女】まで巻き込んでしまっていた。でも一人取り残されてしまったあの子にとっては酷い裏切りだっただろう。

 もう一度協力関係は結べるとは思う。今でも手紙のやり取りはあるから。でも彼女はきっと、私の為には痩せて、世界を救うための薬を手に入れてはくれない。あの子にとって【裏切り】というのは、この世で一番重い罪なのだ。

 たぶん彼女の心をもしも生き返らせることができるとしたら、一度も彼女を裏切ってはいない人だけだ。そしてそれは多くの貴族が自分達の利益の為に遠ざけようとした男だ。


「貴方と彼女はどういう関係だったんだ?」

「うーん。異界の言葉でいうとウィンウィンの関係ね」

「は?」

「私はお金が欲しかった。彼女は異界のお金が欲しかった。で、私の能力と彼女の能力とこの美貌を活用すれば、どっちも手に入ると思ったから声をかけたのよ」

 私は家族というか幼い弟や妹を救うためにお金が必要だった。彼女は能力を活かすために異界のお金が必要だった。だから手を組んだ。ただ、それだけだ。

 

 でもそれだけでは言えない時間があった。

 始まりこそ利害だけの関係だったけれど、幼い私達は利害だけの関係ではなかったと私は思っている。だから私は彼女から引き離される選択を迫られた時、もっとがむしゃらに頑張らなければいけなかったのだろう。すべてが終わってしまってから、彼女を選べなかった事への罪悪感に気が付いた。友人だと大声で言えないような幼さが、この結末だ。

 例え引き離されても、あの時、ただ一言彼女への愛を伝えられていたら、また変わったかもしれない。

「私が言えるのは一つだけよ。前に宣言したように、彼女が恋をすればきっと世界は救われるわ。そして相手は第二王子しかいないわ。死にたくなければ今度こそ邪魔しないことね。私はこの世界に滅んでほしくないから、王子へはいくらでも協力するわよ」


 私は王子ほど、彼女為だけに生きることはできない。そんな事ができたなら、多分この予言は読まれなかった。だから私は王子に協力するだけだ。

 私は彼女と一緒に世界が滅んでは困るのだから。

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