13話 飛べた魔女はクールビズ

 今日も元気だ飯が美味いと言いたいところだが、豚の住む豚小屋は、夏の暑さが厳しくなってきた。

 豚小屋の周りは木や自然ばかりで地面も土なので、異界のコンクリートジャングルという場所よりはマシだろう。それでも暑い日は暑い。痩せて肉布団が多少減っても、やっぱり暑い。


「……何だ、その格好は」

「暑すぎて辛いので、水浴びでもしようかと。知ってます? 豚は意外に綺麗好きなんですブヒよ?」

 庭で異界から取り寄せた、ビニールプールにちょっとした魔法の応用で水をはっていると、王子がギョッとした顔でこちらを見ていた。

 豚は汚いと思われがちだが、意外に綺麗好きだ。そして熱さ対策に水浴びをする。まあ、本来の豚は泥水の方が好きなのだけれど、家が汚れるので私は水浴びにさせてもらった。


「何? 水浴びもしないぐらい不衛生だと思った? 残念でした。あの地獄のブートキャンプの後も、ちゃんと水浴びはしてたんだよ」

 風呂を沸かすだけの気力がなかったので水浴びばかりだったけれど、それぐらいは気を使っていた。流石に悪臭が酷い部屋に王子や【癒しの魔女】を呼ぶのは忍びない。太っているとそれだけで体臭も酷くなりがちだし。

 石鹸は異界の良い匂いがするものを使っていたので、香水を使わなくてもフローラルな香りのする豚だったはずだ。女は捨てているけれど、最低限の清潔さは保っている。美味しいご飯は、清潔な場所で清潔な姿で食べた方がよりおいしい。

 それが食べ物に対する敬意の示しかたというものだ。

「いや。残念ではないが……その……その服なんだが」

「ああ。水着っていう異界の服だよ? 王子も着る? あっ。男性用は上半身裸で、下半身だけ隠すタイプになるけど。上半身も隠せるのが欲しいなら、後で異界に行って探してくるから、待って貰う事になるけど」

 水着売り場をざっと見たが、男性用は下半身のみを隠すものが主流のようだ。形は色々で、布の面積が少ないものも多いものもあった。それは女性用も同様である。

 

「お、俺は上半身裸でもいいが。その……恥ずかしくはないのか? いや。その」

「ああ。そこまでは。だって私だよ? 誰も邪な目で見ないって。豚が裸で立っていても、皆鼻ほじってるよ」

 そもそもこの水着は、比較的肌の露出が少ない方だ。ビキニとかも考えたけれど、背中が日焼けすると痛そうだったので、上半身はしっかり覆われてるものにした。

 確かに足は、この国の基準からすると露出し過ぎかもしれないけれど、水浴びするならこっちの方が涼しいし楽なのだ。日焼け止めをちゃんと塗っておけば、問題ない。

「んなわけあるか?!」

「えっ。豚で盛るって、この国の性癖ヤバくない?」

「お前は豚じゃないだろ。ばぁぁぁかっ!!」

 ちょっとした冗談じゃないか。別に国民全員の性癖がヤバいなんて思ってないし、裸で練り歩く痴女にだってなる気はない。そんな、顔を真っ赤にして怒らなくても。


「いいか。絶対、ずえぇぇぇったい、その姿は俺以外に見せるなよ?!」

「はいはい。わいせつ罪でしょっ引かれたくないので、水着では人前には出ませんよ」

 豚の素肌を見たことで気分が悪くなったと訴えられても困る。こんな格好をするのは家の中庭だからだ。豚の家を覗いて気分が悪くなったら、それはその人が悪い。見ない権利はあったのだから。もちろん公共の場で着る気はない。


 まったく。そこまで慌てなくても、そもそも引きこもり豚が家から出るはずもないのに。川や海だと溺れそうだし。豚は陸上の生き物だ。

 というわけで、本日は王子と二人で水浴びをしてまったりする事にした。

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