8話 飛べた魔女はただのモテキ2
今日も元気に引きこもりを満喫している所に、どしどしと人間がやってきた。
まったく、人間様が豚に何のようだろうか? たまにあるこの人間たちの、豚小屋見学。いい加減止めて欲しいものだ。
豚は食っちゃ寝するのだ仕事であって、人間の相手をする事じゃない。私は誰かの癒しとなるペット豚ではないのだ。
「我が国に来て下されば、こちらの国よりずっとよい待遇でお迎えさせていただきます」
「出生が平民だから大変だったとお聞きします。私は素晴らしい魔女の能力を持つ者を冷遇などしません」
「我が国の公爵家の嫡男と結婚などいかがでしょう? 年の差もそれほど離れておりませんよ」
豚小屋にやって来た異国の偉い人達が何やらワーワー言っている。
私は豚なので、生憎と人間の幸せなど分からない。私が知っている事は、今日もいい日だ飯が美味いだけだ。
「嫌ブヒよ。ここが私のお城だもの。帰って下さいな」
「お城? このような粗末な場所が?」
「我が国にくれば、もっと贅沢ができますよ」
豚が贅沢してどうするんだ。まだ豚になるだけだぞ。そうしたら、またあの恐怖のブートキャンプをやる羽目になるんだぞ。
あの恐怖は味わったものにしか分からない。ブートキャンプと【癒しの魔女】の能力の合わせ技は禁忌だ。
私は豚だが、マゾ豚ではない。なので、もちろんお断りだ。
「豚は美味しいものが食べれればそれで幸せなんでブヒよ? ドレスや宝石なんていらないよ? 豚に真珠ってことわざ知らない? 異界の言葉なんだけどね、豚と同様に私にはその価値がさっぱり分からないの」
宝石もドレスもお腹は膨らまないし、着飾ったところで、豚は豚。ぶひぶひ言うしか能はないので、宝の持ち腐れだ。
そもそも異界からどれだけだって買えるし。なんなら、こっちのものより加工技術も高い。
「それほど、この国に価値があるというのですか?」
「さあ? 分かんないわよ。だって、豚だもの」
私に分かるのは、住めるか住めないかだ。とりあえず、この豚小屋は住める判定なので、別にどうでもいい。
そもそも、広いと余計に動かなければいけなくなる。だから狭い方が色々手を伸ばしただけで届くので、丁度いいのだ。
「あまり強情ですと、王子がどうなっても――」
バキッ。
「あら、やだ。録音機が壊れちゃった。まあ、まだあるからいいんだけど」
不快な音を拾ったせいで、私の手の中にあった録音機にひびが入ってしまった。たぶんデーターは大丈夫だろうけど。
「ろくおんき?」
「異界の道具よ。会話を録音して、もう一度聞く事ができるわ。で? 王子が、何?」
「いや、その」
「そもそもね。私が今回薬を取りに行ったのは、この国の第二王子のお願いだったからよ。それがなければ、皆で仲良く滅びても別によかったし。豚は人間の事情なんて分かんないもの」
どの国が滅びようが、人間が死に絶えようが、豚には関係ないことなのだ。
私自身、いつ死んでも構わない。ただその時、できるなら美味しいものを食べていたい。私の望みはそれだけだ。
そして王子は、美味しいものを提供してくれるからここで飼い豚やっているのも悪くないと思っている。
「だからね。私の大切なものをこれ以上奪わないでね? 大切なものが何もなければ、別に滅びようと何しようと、どうでもいいもの」
私の言葉に、偉い人達は逃げ帰って行った。もう二度と来るな。塩でもまけばいいのかしら? でもどうでもいい人間相手にまくなんて、塩が勿体ない。うん。やっぱり無視に限る。
豚じゃなくて魔女になったとたんモテキが来たけれど、やっぱり私の心は豚なので、今日もブヒブヒ飼い主を待つ事にした。
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