第4話 飛べない魔女はただのグルメ

「不思議に思ったのですけど、彼の料理って美味しいのかしら?」

 もぐもぐ第二王子の手作りお昼を食べていると、【癒しの魔女】に尋ねられた。ちなみに彼女は既に家でご飯を食べてこちらにきているので、食卓についているのは、私と第二王子だけだ。

 というか、彼女が来る時はイコールでブートキャンプが開催されるのでできれば来て欲しくない。このご飯が終わったら、また地獄のブートキャンプが開催されるのかと思うと憂鬱だ。憂鬱だから、お家に引きこもりたいのに、鬼教官たちがお家にいるという地獄。やめよう。考えるとご飯が美味しくなくなりそうだ。ご飯に罪はないのだから、私はどんな時でも残さず食べる。


「美味しいですよ?」

 ダイエットは辛い。

 でもダイエット食に罪はない。

 吐くような運動をしたのによく食べられるなと言われそうだけど、むしろ回復させられているので 、動けばお腹が空く。だから私はどんな時でも食べるのだ。


「俺が作ったんだから美味いに決まってるだろ」

「そこが不思議なんです。王子なら美味しいものを知ってると思いますが、作るのは普通シェフですよね? だとしたら、料理の腕には少々疑問があります」

 ……言われてみれば、確かに王子としては変わった特技だ。

 王子なら何不自由しない生活だろうに、何故料理ができるのか。しかもお野菜たっぷり高蛋白質料理だ。

 レシピもよく考えてある。

 ダイエットなので、野菜だけ食ってろと、草食動物のようにキャベツだけを齧り続けさせられてもおかしくないのに。だってダイエットが、とにかく脳筋が考えたとしか思えないブートキャンプだし。それにしては、ちゃんと料理だ。

 

「レシピはシェフに聞いてるんだよ。料理は留学中に覚えた。安全なものが食べたければ、やっぱり自炊が一番だろ」

「おおっ。中々に不穏な発言。やっぱり、王子だと暗殺騒ぎとかあるの?」

 留学するとか、絶対この国にいた方が身の安全が守れないからというのが物語によくあるパターンだよねと思う。

 太ってから異界に飛べないので最近の異界の本は読めないけれど、昔本屋に行ってみた本は全てお取り寄せできるので、暇な時読んでいるのだ。基本私はこの家から出ないから暇なのだ。

 そして漫画では王位継承を争った話を良く見る。王様になりたいとか、主人公たちは勤勉だ。


「いや。この国ではほぼないな。もう王位継承は兄上で決まりだし。ただ国外だと、まあ色んなしがらみが発生するんだよ」

 なるほど。なるほど。

 王子業というも中々に大変らしい。でも暗殺されないよう自炊を覚えたのは素直に称賛する。食べることはとても大事な事だ。

 美味しいは正義である。毒で食べ物をあえて不味くした奴は、豆腐の角に頭をぶつけて死ねばいいのにと思う。


「シェフのレシピなら、シェフが作った方が美味しいのではなくて? 貴方はどう思われます?」

「王子のごはんは美味しいから、このままで大丈夫です」

 とりあえず、食材をあえて不味くするような才能を持っていなくて良かったと思う。まあそれでも食べるけど。

「そんなに美味しいんですの? そういえば、王子が最初にここに来た日も料理だけは食べてもらったとか言っていましたわね。【異界渡りの魔女】は人の話は聞かないし、手土産にも全く興味を示さないと言われてましたのに」

 私のお皿を見ながら【癒しの魔女】が尋ねる。

 本日は魚のムニエルに、サラダ、野菜たっぷりスープだ。パンは夕食には出してくれる約束になっている。

 美味しいかどうかか。 

 うーん。きっと味がよりおいしいのはシェフが作ったのなんだろうけど……。そもそもそれを言い出したら、異界には美味しいもの沢山あるし。むしろ異界の食べ物は、塩分、脂肪、糖質が揃っているので、ガチで美味しい。スナック菓子、ピザ、フライドポテトやからあげ、とんこつラーメン最高だ。

 ラーメンの〆にご飯とチーズと卵を加えたリゾットとか、もう、私、一生豚でいいと思わせる逸品だ。ちなみにそれを王子に見られた時は、ガチギレされて、しばらく封印した。いや、たまにはそういうの食べたくなるんだよね。

 

 まあ、それはそれだ。

 異界のごはんは美味しい。でも――。

 「だって王子が私の為に作ってくれた温かい料理で、さらに私と一緒に必ず食べてくれるんだし。美味しいに決まってますって」

 この料理の一番の魅力は、私の為に作られた温かい料理という点だ。こんな料理は、ずっと昔、とても幸せだった頃にしか味わった事がない。


 だから王子の手料理は美味しい。異界のものと同じぐらい価値がある。


「……うわー。うわー。餌付けしたくなる気持ちが今すっごく分かりました」

「駄目だからな。絶対駄目だからな。くっそ。俺を褒めても、追加で料理は出さんからな。後は低カロリーのデザートだけだからな」

「えっ?! デザート?! わーい♡」

 豚は食べるのが好きなので、美味しいものには素直に従うのだ。どれだけ鬼教官でも、デザートには罪はない。

 デザート、デザート、嬉しいな♪

「でもデザートは嬉しいけど、別にそれが欲しくて褒めたわけじゃないよ? 王子の料理が美味しいのは本当だから」


 誰かが作ってくれるという幸せ。

 これだけは異界の料理では手に入らないのだ。

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