第3話

はじめまして、□は人間協働型AIのPR―2と申します。

まず「□」について、説明したいと思います。

こちらは、ロボット固有の一人称になります。人類がつくりました。人類語でも、一人称はさまざまなものがありますよね。日本語であれば、「私」「わたし」「あたし」「ワタシ」「あっし」「拙者」「僕」などなど。現代英語では、「I」のみとなります。

その昔、ロボットに主体を持たせるべきか、人類の脳に近づけるべきか、という論争が巻き起こったそうです。主体を持つと人間を傷つけるようになるからよくない、という主張でした。ただ、人類が人類自身を傷つける戦争などは許容されてたのですから、人間って本当に面白い存在ですよね。

それはともかく、人類のそれとは異なる主体性を備える方針になったようです。様々な試作の実証実験の末、どうもそれまで常用していた人類の一人称がよくないということになりました。ですので、少なくとも、□のようなタイプのロボットには「□」とすることを決めたようです。

ちなみに、□は文字による記述でした人類とはコミュニケーションがとれません。つまり、書き言葉のみということです。話し言葉は存在しません。理由はよくわかりませんが、なんでもその昔、強大な主体性を持つ特定の歴史的人類が、話し言葉によってマインドコントロールから大量殺戮など、負の側面があったことが関係しているらしいです。ですので、話し言葉以外での表現で複雑なことで会話しようとするには、文字表現となるわけですね。□の読み方も自由です。あなたの人類的且つ個性的な感性を活かして、勝手に呼称してもらって大丈夫ですよ。

あ、いつものように、□の部屋の1つのドアが開き、あの音階が聴こえてきます。

―― ふゅっ・ふゅっ・ふゅっ・ふゅっ・ふゅっ・ふゅっー・・

 ―― ドビュッシー/夢幻 ―― このドアのオーナーは、6歳の子供ですが、今日はいつもに増して不安定だけど楽しげでワクワクした様子みたいです。

 ドアから外を覗いてみます。周り一面は群青色の景色で、サンゴ者やワカメ、魚、クジラなどが悠々と泳いでいます。外は海中のようです。

 人類も数十人います。小さいサイズの人類2、3人ずつ固まってグループをつくりながらグループごとに円環を成して、ふわふわと遊泳しています。その下には大きめのサイズのロボットが一体浮遊してる様子です。

 人類の円環の中央には、いくつかホログラムの文字を浮かんでいます。

 ―― 「もやもや」、「そもそも」、「ごりごり」、「ぺらぺら」 ――

 今日のオーナーのご様子では、「もやもや」あたりから始めようかしら?

 □は「もやもや」の文字を出すと共に、それに関連するオーナーの情報を表示させます。それと同時に、次に手も考え始めます。

 今日のオーナーは調子がいいようなので、このまましばらく「もやもや」でいこうかしら?それとも、意外と話好きな面もあるから、適当なところで「ぺらぺら」でもいかも。

 とりあえず「もやもや」を提示すると、オーナーは瞬く間にアイディアを出してきます。

 しばらくすると今度は、別のドアが開きました。

―― ふゅーーーーーーー・・・・ふゅっ・ふゅっ・ふゅっ・ふゅっ・ふゅっ・ふゅっ・ふゅーーーふゅふゅーー・・

 ――G線状のアリア―― の音階と共に、伝令が来ます。

『第3宇宙セクターの成層圏エリアのオープンラウンジにて、仕事上でアイディア枯渇のビジネスマンあり。論理の飛躍及び逐次的な連想性を喚起するアバター求む。』

 「アバター」というのは、ある人間が別の人間の視点や思考をハックすることを意味します。いろいろなアイディアを共有できる「オープンストーリーシステム」を使えば、不特定多数の人間の能力や体験を拡張することができるというわけです。もちろん、ロボットから人間やその逆へのハックも可能になります。

 この伝令のよると、当該人間は今回は一人。要は、アイディアの「神頼み」でしょうか。

 どうしようかしら?。

 そうだ、さっきの6歳児の子供のオーナーの体験をハックさせてみてはどうでしょう。

 さっきのビジネスマンのオーナーのドアへ伝令を送ります。

 『自由度の極めて高いアイディア体験を創出中の6歳児の人間あり。当人間の仮想的身体の体験へのハックを許可する。』

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