第2話 ポテサラを食べる
ポテサラを作りすぎた。大きなジャガイモを手に入れたので「緑化する前に使うぞ!」という意気込みの下、塩胡椒で下味をつけたジャガイモにマヨネーズ、ゆで卵を混ぜた物をベースとして同居人の秋沢が好きな【キュウリ入り】と私の好きな【キュウリ抜き】の2種類を作ってみたら双方とも丼ぶり1杯分の量になってしまったのだ。
傷まないうちに食べなければ。変な液が滲み出し見たこともない色のカビにまみれたポテサラの姿を想像して恐怖に駆られた私は、その日の夕飯時に大部分のポテサラを食い尽くすことにした。
ポテサラは我ながら傑作だった。ネットで見たレシピにならい【キュウリ入り】に刻みらっきょうを仕込んだら甘酸っぱく爽やかな仕上がりになったようでA沢から好評だった。【キュウリ抜き】はオカズとして成り立つよう程よく塩気を聞かせ、時折刻みらっきょうを振りかけて味変を楽しんだ。
しかしどれだけ美味しくても結局は炭水化物。3分の1も食べきらないうちに腹が重くなり、箸が進まなくなってしまった。
これは数日中に食べきれるだろうか。不安に駆られつつその日は食べるのをやめ、翌日は【キュウリ抜き】を昼ご飯として食べた。徹底的にオカズ仕様に振った為、白米に乗せてラー油を垂らすスタイルがマッチした。
こうして【キュウリ抜き】は丼の半分程まで量を減らしたが、【キュウリ入り】の方も減らしていかねばなるまいと思い直した。しかし私はキュウリが食えぬ。キュウリの汁がついた食べ物も食えぬ。食えぬものをどうやって食えるようにするかと思い悩みSNSに掲載した。するとフォロワー様が天啓を授けて下さった。
『コロッケにしましょう』
それや。芋だもの、コロッケにしたら間違い無く美味い。私は残った2種類のポテサラから今夜の分だけを残し、丸く成形した。『肉やクリーム、チーズを入れると酸味が和らぐ』という天啓も頂いたので【キュウリ入り】にチーズを仕込んでみた。
そして衣も纏わせて後は揚げるだけ…といったところで、私はやってしまった。何を血迷ったのか「オーブントースターで焼きコロッケにしてやろう」と思ってしまったのだ。
その時、私の脳裏にはAE○Nさんの焼きうまコロッケが浮かんでいた。油を使わぬヘルシーなコロッケを作ろうとしていた。そして実行してしまった。
アルミホイルを敷いたオーブントースターに衣付きのポテサラを置き、280度で焼いた。6〜7分は焼いた。しかし衣は一向にキツネ色にならなかった。
何がおかしい。首を捻りつつネットで検索し、そして変な声を上げた。オーブントースターで良い色のコロッケを作ろうと思ったら予めパン粉を乾煎りしておかなければいけなかったのだ。
私は衣の先っちょだけが焦げたコロッケもどきを泣く泣く取り出し、フライパンにぶち込み少量の油で焼いた。何がなんでもヘルシーにしたかった。結果、形が崩れてしまった。遠目に見ればもう生焼けパンの集合群体であった。
ああ、人の言うことをちゃんと聞いて揚げコロッケにしておけばこんなことには。酸味のある匂いが立ち上ってくるのを感じながら私は後悔した。
しかし後悔したところでこのコロッケもどきがコロッケになってくれるわけではない。あと勿体ないからこんな出来でも食べねばならない。私はこのコロッケもどきに『責任』という料理名をつけ、匂いに不安を感じながらも1つ手に取り食べてみた。
「…おいしいじゃなぁい」
そこそこ食べられる味だった。
その夜、私は『責任』の残りを秋沢の前に出してみたが、彼は匂いを嗅ぐなり苦笑いを浮かべて普通のポテサラに手をつけた。
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