黒牟田 初郎の美味い話

むーこ

第1話 果物を食べる

近所の直売所で、真っ赤な網に詰められた大量のミカンが売られていた。1つ1つが小ぶりだが色が濃く、何だかとても甘そうな印象。

そういえばここ数ヶ月、生の果物という奴を殆ど口にしていない気がする。値段がそこそこする上に傷みやすいので買わないというのが主な理由だが(同じ理由で魚も滅多に買わない)、そもそも私がそんなに果物に対して興味が無いので誰かから貰うとか外食先で料理についてくるとかでもない限り食べないのだ。

しかしこのミカンはとても─。私は提げていた買い物カゴにミカンを突っ込んだ。




帰宅して手を洗った後、早速ミカンを取り出してみた。やはり色が濃く、そして少し重い。コイツは期待できるぞと皮を剥いて見れば、白い筋の貼りついた大小様々な房が10個ほどおしくらまんじゅうの如く身を寄せ合っている。私はこれを大雑把に割って、2〜3房くっついたままの塊を一気に口へ放り込んだ。そして一たび嚙むと甘い果汁が房の外へと流れ出し、口の中全体が甘々になった。

大当たりじゃないか。私は口の中のミカンを飲み込むと、残りの房も次々食べた。そして1個分を食べ終えたところで思った。ミカンってこんなに美味しかったんだ、と。10個ぐらいなら連続で食べられるとさえ思った。本当に食べたらお腹がゆるくなりそうなので食べないが。

しかしあと2〜3個ぐらいなら食べても良いかな。大量のミカンを前に頭を悩ませていたその矢先、同居しているサラリーマンの秋沢が仕事から帰宅してきた。その手にはスーパーで売ってある少しお高めのバナナ。


「すごい美味しそうだから買ってきちゃった」


恥ずかしそうに言うA沢の目の前でミカンを掲げる。秋沢は「ちょっと」と笑いながら私の腕を一発叩いた。


その夜、ミカンを2個ずつとバナナを1本ずつ、食後のデザートとして美味しく頂いた。バナナはまだ熟れきっておらず、僅かに固さの残る実を噛み砕く毎に甘酸っぱさが広がって、熟れる頃が楽しみだと思った。

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