第148話

愛野宅で腹ごしらえを終えた一行。

明はようやく、林檎がやくざの一味だと思ったのかを話し始めた。



148



愛野宅の居間で寛ぐ4人。

3人は食後のお茶タイム。

そして1人は畳みの上で横になり、寝息を立てていた。


「腹膨れて眠くなるって、どんだけ子供なんだよ」


ズズズ・・・と白田が入れたお茶をすする、呆れ顔の明。


「良いじゃねぇ〜か。流石に今日は疲れてんだよ」


座布団を枕代わりにして眠っている青年を、見下ろす竜一。

元々喜怒哀楽が激しく二十代に見えないのに、口をうっすら開けて眠る姿はもっと子供のように見える。


「白田、親父の部屋から・・・」


「うん、解った」


中途半端な物言いの明。

それでも白田には伝わったのか、立ち上がると居間から姿を消した。


「マジで、嫁じゃねぇ〜か」


「やかましい」


「で?康気は寝てるけどよ、いい加減話せよ」


「はぁ・・・」


半分忘れかけていたのか、その話かよとうんざりした表情の明。

手に持っていたマグカップをコトンとテーブルに置くと、今まで引き伸ばしていた林檎の話を話し始めた。


「雛山が今回狙われたのは、東源組内の抗争があったからだ。今まで通り、会員制の店で資金が作れなくなった東源組は、新たなビジネスとして裏ビデオをやり始めた」


「あぁ、それはこの前に言ってたな」


「林檎は、その東源組で謀反を起こした人間だと思う。あいつ自身が起こしたのか、あいつが慕う人間が起こしたのかまでは解らね〜けどな」


「ん〜〜・・けどよ、それなら枇杷の敵対側って事だろ?変装してたって言っても、店で何度も顔合わせて気が付かないものなのか?」


「枇杷は組の人間じゃない思う」


「は?じゃ〜何なんだよ」


「半グレ集団だろうな。あいつを助けに部屋に入った時、背中に紋紋背負ってる男と、腕にタトゥーが入った男がいた。やくざでタトゥー入れるって聞いたことね〜だろう?」


「まぁ、刺青は意味があるものだからな。日数掛けて彫る和彫と機械で一瞬で彫れるタトゥーとは、重さが天と地程の差があるだろうな」


「元々半グレは、組織というより馴れ合いだ。厳しい上下関係や絶対的なルールを嫌う集団。だからと言って、単体で結束しているとは限らないだろう。やくざの傘下に入って、美味しい蜜を吸っている半グレがいてもおかしくない」


「なるほどな・・・・・」


「枇杷が半グレの一味なら、東源組の人間全員の顔を知らなくても不思議じゃない。だから林檎の顔は知らなかった・・・」


「ほぉ〜」


今日の出来事だけで、それだけ見抜いていたとは・・・・

明の推測に過ぎないと思っていても、彼の言うことには納得する部分がある。

偏差値が底辺の高校に行っていたとは、到底思えない。

そこへ手に毛布を持った白田が戻ってきた。

それで竜一は、先程明が白田にお願いしていた内容を理解した。

父親の部屋から毛布を取ってきてくれ・・・・・か、全て言わなくても状況だけで判断する白田は、やっぱりよく出来た嫁だ。


「あ、俺がやる」


白田の方に手を伸ばして、毛布を受け取ろうとする。

そんな竜一に、男はにこやかに「はい」と手渡した。


「けどよ〜〜、林檎って奴は何で組を裏切るような真似したんだ?」


軽く広げた毛布を寝息を立てている青年にそっと被せながら、疑問に思ったことを口にする。


「そこまで解るかよ」


解るかよと切り捨てる明。

だがその後を、恋人の隣に腰掛けた白田が続けた。


「エバラさんは会員制の店がほぼ営業出来なくなったと言っていたから、俺はそれが関係してるんじゃないかと思うんだ」



目の前の2人の距離は、肩が触れ合う程に近い。

そんな明と白田を目にし少し気になりながらも、今は話しに集中しろと竜一は心の中で自分に言い聞かせた。


「動機は2つ考えられるよね。1つは店を奪って、資金を独り占めする気でいた。そしてもう1つは、店を潰してしまうのが目的」


「警察と手を組んでいるって事は・・・」


「うん、潰したかったんだろうね」


口を挟んだ明に、甘い笑顔を向ける白田。

話している内容は物騒だが、2人を取り巻く空気はそれを匂わせない。


「って事は、林檎って奴はそう悪い奴じゃないって事か」


「はっ、お気楽だなお前の頭は。ヤクザを職業にしている輩に、良い奴なんて居るわけね〜だろうが。ハゲボクロ」


「なぁ仁、お前の旦那の口の悪さ何とかしろよ」


鼻で笑い飛ばして相変わらずの明節を出す相手に、無理だと思っても隣の男に訴えかける。


「ん?明が何か言った?」


聞こえてね〜〜のか、聞こえてねぇ〜ふりしてんのか・・・・

相変わらずのにこやかな笑顔の白田が、口の悪い明より質が悪く感じる。

明に関しては、余計な事は目にも耳にも入らないのだろう・・・・


何か・・・・男同士とか気にする方が無駄だな・・・


昔からの友人が男と付き合っている事に関して、全く気にしてなかったわけじゃない。

明が決めた相手なのだから、口を出す権利は自分に無い。

そう思っていても、普通だといえない関係。

この時代にそういう考え方が古くさいとも思うが、男と女が当たり前の世の中で生きて来た竜一にとって、そう簡単に全てを受けるなんて出来ない。

明と白田を認めてはいるものの、引っかかるものが胸の中にあり続けていた。

だがこうやってさも自然に、寄り添い、視線を絡めている姿を見ると・・・・至って普通の恋人同士だ。

明に世話を焼く白田は、誰の目から見ても解るぐらい明を盲愛している。

逆に明は素っ気なく見えていても、白田が傍にいることが当たり前だと言わんばかりな態度だ。

白田が恋人に向ける甘く蕩けたような笑顔に対して、いつも表情が死んでいる明が微かにほほえみ返している。

恋人が出来ても相変わらずの口の悪さだが、白田に向ける表情は柔らかい・・・・

男同士だと気にしていた自分が馬鹿らしくなる程に、2人の雰囲気が羨ましく感じてしまった。



149へ続く

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