第144話
AV撮影会から、明と白田によって助けられた雛山。
ほっとしたのも束の間、無責任な明の発言により・・・・次なる窮地に立たされる事になる。
144
逃げるように廊下に飛び出た雛山は、自分が手ぶらだった事に気がついた。
持ってきた鞄は部屋の中にある。
しかし雛山の後に、部屋から出てきた白田の肩に自分の鞄が掛けられおり、戻る必要はなくなったと安堵する。
「てめ〜らだけでAVごっこしとけ!!チンカス野郎!!」
そんな罵声を口にしながら、三脚を手に明が部屋から出て来た。
そこで、すかさず白田が扉を閉める。
男達が怒号を上げながらガチャガチャとレバー式のドアノブを動かすも、外から白田がドアノブを握り締めてびくともしない。
明は三脚を畳み、ドアノブと壁に引っ掛ける。
部屋からは引く事で開く扉は、三脚がつっかえて開閉ができなくなった。
内側から必死にドアを叩いている男達は、これで部屋から出られない。
これで男達が追ってくる事もないと思った雛山は、まだ外へ脱出した訳じゃないが安堵のため息を吐いた。
「!??」
が次の瞬間、誰かに首を捕まれ後ろへ引っ張られる。
驚きで声にならない悲鳴が口から出た。
そんな雛山の異変に気がついた、明と白田。
2人は雛山のおかれている状況を目にすると、みるみると顔色を変えた。
え・・・一体に何がおきてるの・・・
「うごくな!」
耳元で聞こえる男の声。
それは、枇杷の声だった。
それは間違いなのだが、たった一言の言葉がどこか違和感を感じる。
「いた!?」
右のこめかみに痛みを感じて、雛山は思わず顔を顰める。
硬い何かを、こめかみに押し当てられているようだ。
「うごくと、こぉいとぅを撃つぉぞ」
撃つ!?今、撃つって言った!?
現実ではまず耳にしない単語に、雛山は頭がパニックになる。
そして枇杷の腕から逃れようと、体を大きくよじる。
「雛山、抵抗するな!」
「じっとしぃてろ!脳みそぶち撒しゃれたいのか!?」
白田の制止の声と、枇杷の脅しの言葉が重なる。
まさかこんな事になろうとは・・・・雛山は抵抗は止め半べそをかきながら、目の前の明の顔を見た。
明は今にも飛びかかりそうな怒りの籠もった目で、枇杷を睨んでいる。
「こんなことすぃて、ただですぅむとは思っぇないだろうな!!」
「何言ってんのかわかんねぇ〜よ、ちゃんと喋れ歯抜け野郎」
「〜〜〜〜〜!!??」
明の言葉に、後ろの男が怒りの声を発する。
思うに・・・上手く話せてない枇杷は・・・明の手によってそうなったのではないだろうか。
そんな雛山の推理は【歯抜け野郎】と明が言ったことで、間違いないと思われる。
「一般すぃみんが!俺たちに「覚悟は出来てんだよ!!お前らやくざに喧嘩ふっかけた時点でよ!!」」
枇杷の言葉に被せるように、明が吠える。
ピリピリと空気がピリつく中、明は言葉を続けた。
「大体俺には、二丁目がどうなろうと知ったこっちゃない・・・」
そう言って一歩足を踏み出す明。
それに枇杷は「うごくぅなと、いぃてるだろ〜〜!」と雛山のこめかみにある物を、更に強く押し付ける。
「そいつの頭ぶっ放そうが、俺には痛くも痒くもねぇ〜し」
そんな酷い事を言いながら、更に一歩二歩と近づいてくる。
痛いのは僕なんだから近寄らないでぇ〜〜〜と叫びたいが、その反動で頭を撃たれるのは嫌だとぐっと我慢する。
ここで頼りになりそうな白田といえば、明を止めることもせず相変わらずの乙女モードで恋人の後ろ姿を眺めている。
「残りのお前の前歯、全部へし折ってやるからよ」
めちゃくちゃな明の言葉に枇杷の狼狽えが、背中越しで伝わってきた。
だが雛山も同じ様に、頭の中はてんやわんや状態。
なんせ助けに来てくてくれた目の前の2人は、今や雛山の命を危険にさらしているのだ。
これには流石に「人殺し〜〜!!」と叫ばずにはいられなかった。
「あぁ!?」
と明が苛ついた声を発したのと、雛山の首を掴んでいた枇杷の手が放れたのがほぼ同時だった。
背後から枇杷の苦しげな声が耳に届く、何事かと振り返れば地面に尻もちをついている枇杷とその脇に竜一が立っていた。
「てめぇ〜〜」
怒り奮闘の竜一は、枇杷の襟首をつかみあげる。
そして、拳を握った片方の手を引いた。
「駄目!!」
竜一が男を殴ろうとしていると解った瞬間、雛山は咄嗟に竜一の拳が握られた腕にしがみ付き止める。
「何でこんな奴庇うんだ!?」
「違う!」
苛ついた竜一の言葉に、雛山は全力で否定した。
「違います!亀田さん、今大切な時期でしょ!?」
竜一の試合が近いと、吉本ボクシングジムに飾られていたカレンダーで知っていた。
減量中の男は、以前顔を見たときよりも頬が痩けている。
ここで暴力沙汰を起こせば、今までの事もこれからの事も全てが水の泡になってしまう。
それだけは何が何でも阻止したかった。
「くしょ〜!お前らでんいぃん、ぶっ殺すぃてやる!!」
全てを邪魔された枇杷は、怒りと血で真っ赤な顔で喉の奥から叫ぶ。
その時雛山は、床に尻もちをついたままの枇杷が銃口を自分に向けた瞬間を目にした。
だがそれも一瞬の間、守るように竜一が雛山を抱き込んだ。
心臓が鷲掴みにされる程の恐怖と驚きにを感じるも、口からは「駄目・・離して」と身を持って庇おうとする男に懇願した。
撃たれるなんて死んでも嫌だし、助かったとしても痛いのは嫌だ。
だがそれ以上に、竜一が傷つく方がもっと嫌だった。
ガン!!
トン・・コロコロ・・・
廊下に響くのは銃声に程遠い、物が何かにぶち当たり床に転がり落ちるような音だった。
「でかした」
それから、誰かを褒める明の声が耳に入る。
苦しいぐらい抱きしめられていた竜一の腕が放され、自由になった雛山は状況を確認しようと枇杷の方へ顔を向けた。
以前と同じ様に尻もちをついたままの枇杷。
だが枇杷の手元には何も握られておらず、少し離れた場所に拳銃とそして雛山が持ってきた折りたたみ傘が落ちていた。
何気なしに、明と白田の方へと顔を向ける。
「やるじゃねぇ〜か」と白田の肩を叩く明と、恋人に褒められドヤ顔の白田。
そこで雛山の鞄の中から折りたたみ傘を取り出し、寸前の所で白田が枇杷の手目掛けて投げたのだと理解した。
「くしょぉ〜〜、くしょぉ〜〜」
クソクソと繰り返す枇杷。
諦め悪く四つん這いになりながら、落ちている拳銃に手を伸ばす。
それが再び男の手に戻れば、今度は止められる保証はない。
そう誰もが解っているが、その場の4人は動こうとしない。
何故なら廊下の向こうからこちらに歩いてくる男達に、これから起こることを全て悟ったからだった。
145へ続く
ただの恋愛ストーリーからかけ離れちゃいましたが、付いて来てくれてますか?
若干心配しております。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます