第143話

逃げる事もできない密室で、これから行われるであろう行いに恐怖している雛山。

そんな時、レストランに竜一らしき男が現れたと聞かされた。



143



閉じ込められた室内。

雛山はベッドに腰掛けたまま、真っ青な顔で震えていた。

これから何をされるか、未経験とはいえ流石に理解できる。

この部屋に最初から居た3人の半裸の男の体には、大小なりとも入れ墨やタトゥーが入れられている。

それを見ただけで、雛山は抵抗する事を諦めて腹をくくるしかなかった。

これから起こる恐怖に瞳が潤んでいるが、涙がこぼれ落ちるのを必死に我慢していた。

恐れよりも、枇杷に騙され悔しい思いの方が強かった。

その枇杷は、扉の前に立ち電話で誰かと話していた。


「で?その男はどうしたんだ?」


隠していた仮面が剥がれたように、今の枇杷の表情と口調は別人の様に冷たい。


「警察呼ばれたら厄介だな・・・そっちに行く」


警察・・・・

その単語に僅かな望みが湧き上がる。


「どうした?」


背中に鮮やかな和彫を入れた男が、電話を切った枇杷の元へと歩み寄る。


「俺達が店に入った後、変な男が来たんだと。今入った客を出せって、騒ぐだけ騒いで帰ったみたいだけどな」


「マル暴か?」


「ふっ。それはねぇ〜よ、今までも目を瞑っててくれたんだ、今更動くとは思えないね」


枇杷はそこまで言うと、雛山に視線を向けた。


「雛ちゃん、泣きぼくろがある男の知り合いいない?」


「!?」


枇杷が言った特徴だけで、竜一の顔が頭にうかんだ。

え・・・何で・・・


「知り合いみたいだな・・・・まぁ警察呼ばれてもこの部屋がバレることは無いだろうが、念の為店長と話してくる」


「こっちは?」


「こっちの事は気にせず、やっててくれ」


枇杷は男に指示を出し、ドアノブに手を掛ける。

そして部屋から出る直前に振り返り「大人しくしてた方が良いぞ、抵抗するとこいつら喜んで逆に長引くからな」と雛山にニヤニヤと笑いながら言い放ち、部屋から姿を消した。


「にしても枇杷さんが、誘い出すのに手こずったって言う割には・・・普通だよな」


照明器具を触っている二の腕にタトゥーが入った男は、品定めをするかのように雛山をジロジロと見ている。


「こういう素人臭いのが、人気なんだとよ。それに若いってだけで、食いつく奴が多い」


「可哀想になぁ〜。枇杷さんについて来たばかりに〜〜、残念だが枇杷さん女が好きみたいだから相手してくれね〜ぞ」


言いたい放題の男達に本当は文句を言ってやりたいのに、何も言えず・・・・俯いたまま男達の下品な笑いに必死に耐える。

レストランに現れた竜一。

きっとこうなる事を知っていたんじゃ・・・・だから明も竜一も必死に止めた。

ならちゃんと言ってくれればいいのに・・・と恨み言も出てくるが、止めてくれた時に素直に応じなかった自分が1番腹立たしかった。


「ん?」


部屋の中で1番扉に近い場所にいた、背中に入れ墨の男が扉の向こうを気にし始めた。


「どうした?」


「何か・・・聞こえたような」


「防音設備バッチリだぞ?他の部屋の騒音は聞こえるわけ無いだろう?」


「廊下か?」


不思議そうに首を傾げ、入れ墨男はドアノブを開くと警戒しながらそっと引いた。

とたん、ガン!!と物凄い音とともに扉が開かれ、ドアノブを握っていた男はその反動で吹っ飛んだ。


「わりぃ〜子いねぇ〜がぁ・・・」


唸るような低い声が室内に響く、全開の扉の前に立っていたのは明だった。

男の手によって開いた扉を、力いっぱい蹴ったようだ。

この場に明がいることに、声を出せないぐらいビックリする雛山。

居ることもビックリだが、明の様子にも目をむくほどの驚きがあった。

いつもの死んだような目は、爛々と光を放ち若干血走っている。

そして両手の拳には赤く染まり、白いセーターの赤い染みも恐らく血。

不規則なドット柄にも見えて・・・ホラーだ・・・・

綺麗な顔だから余計に恐怖に感じる。

ドア越しで蹴られた入れ墨男は、苦しそうに唸りながら何とか体を起こす。

そのタイミングで漸く状況を把握出来たほかの男は、突然現れた夜叉の様な明に身構えた。


「3対1でこっちは一般市民だ・・・死ぬ気でやらせて貰うからな」


首をコキコキと鳴らして、部屋の中に一歩一歩踏みしめるように入ってくる明。

3対1の明の言葉に、ここに竜一は居ないと雛山は確信した。

だが白田は?明が来る所は天国でも地獄でも一緒なのでは?・・・・と疑問に思えば、廊下から白田が姿を現した。

3人と早速やり合う明を他所に、白田はベッドの上にいる雛山に駆け寄る。


「大丈夫か?」


「し・・・白田さん・・」


心配げに雛山の覗き込む白田。

そんな男にやっと心からホッとし、泣きそうに顔を歪ませる。

竜一だけじゃなく、助けに駆けつけてくれた明と白田。

ちょっとだけでも、恨み言が浮かんでいた自分を恥じいた。

だが明が心配だ、いくら喧嘩が強いといっても相手は背中に彫り物をしている人種。

既に1人の男は床の上で動けない状態だが・・・タトゥー男と入れ墨男は、未だ明と交戦中。

本当に一般人なの・・・?と思うほど明は、相手の攻撃を尽く交わす。

明の楽しそうな表情が気になるところだが・・・「久々の喧嘩に血が疼くんだって」とクスリと笑う白田も気になる。

いやいや・・・笑い事じゃないし!と心の中でツッコミんだ。


「あの・・・枇杷さんは?」


枇杷がこの部屋から出ていった直後の出来事だ、廊下で明と鉢合わせしているはず。


「あぁ・・・彼のおかげでこの部屋だと解ったからね」


ということは、枇杷はもう既に床の上で伸びているかもしれない・・・

明が登場した時の拳の血は・・・・枇杷の血?


「それにしても、あんなに喧嘩が強いなんて・・はぁ・・カッコいいなぁ明」


「・・・・・・・」


惚れ惚れするような表情で、乱闘中の明を見つめている白田。

完全に恋する乙女モードの男に、雛山はもう呆れた表情を向けるしかない。


「明!!そろそろ出てこい!外の様子がおかしいぞ!」


どこからか竜一の声がした。

その声のした方へ視線を向けると、どうやら白田が持っているスマホから聞こえたようだ。

やっぱり、一緒に来てたんだ・・・・竜一の声に、泣きそうな程の嬉しさがこみ上げてくる。


「わ〜〜たよ!」


そう言うと、明は側にあった三脚をカメラ毎手にし、男達に向けて振り回す。


「先に部屋を出ろ!!」


「解った」


白田は明が男達を引きつけている間、雛山をベッドから立たせて「行くぞ」と促す。

背中を押されながら先に歩き出す雛山。

これで帰れる・・・そう思うが、竜一が言った【外の様子がおかしい】の言葉が引っかかる。

一抹の不安を感じながら、今は不気味に見える岩張りの廊下に出た。



144へ続く

腕っぷしが強い受に、喧嘩しない攻ですみません。

だけど白田さんはやる時はやる男だと思います。

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