第142話
明は怪しいと感じた場所へ足を運んだ。
だがそこには監視カメラがあり、思うように探りをいれられなかった。
142
ブルーシャトー
不思議な事に、来店したはずの客の姿が消えるレストラン。
雛山もその1人となる。
テーブル席からは通路を歩く人間が見えにくく工夫されており、途中で姿を消すことが出来そうなのは、通路の途中にある廊下に身を隠すぐらい・・・・・。
だが女性が言うには、そこはトイレだけで他に部屋などない。
何度も来ている彼女達の言葉は信用できるものだが、それでも自分の目で確かめたかった。
席から離れた明は途中、白田が鳴らした呼び鈴に呼ばれたウェイターとすれ違う。
通路を歩きトイレがある角を曲がった明は、真っ直ぐな廊下に男性トイレと女性トイレの扉が並んでいるのを目にした。
突き当りは何もなく、どんつきの壁の端にただ背の高い観葉植物が置かれているだけ。
「?」
ふと、奥側の天井に取り付けられている機械に気がついた。
火災感知器か?と一瞬思うが、小さな赤い光が点滅しているようにも見える。
それが何なのか解ると明はさっと視線を外して、そのまま男子トイレの扉を開き中へと体を滑り込ませた。
「トイレの出入口に監視カメラとか悪趣味だろう・・・」
トイレ内に響く明の独り言。
小便器が2つに個室が1つのトイレは、明以外使用している人間は居ない。
あんな所にカメラがあるんじゃ・・・変な行動出来ない・・・
「怪しい所はないのか?」
明の胸ポケットから漏れる、電話越しの竜一の声。
「ざっと見た感じは普通の廊下だ。監視カメラがある以外は・・・」
「今はそういう所も、あるだろう?」
「それは犯罪が起きやすい公衆のトイレとか、デパートとかどでかい施設のトイレだ。こんな20席しかないレストランはおかしいだろう。置いたとしてもトイレの出入口に置かなくても、この廊下に入る人間を解るように設置すればいいだけだ」
「んなもん廊下に入れば、必然的にトイレ行くんだって丸わかりなんだからよ。どこに設置しようと一緒だろう」
「デリカシーの欠片もねぇ〜お前は黙ってろ。そんなんだから、下品な女としか付き合えねぇーんだよ」
「それとこれとは、話がちげ〜だろうが!」
「うっせぇ〜。てめぇ〜がピヨ山と大人しく付き合っときゃ、こんな事にはなんなかったんだよ」
「んなこと、無茶に決まってんだろうが」
「今までも、大して好きでもねぇ〜女と付き合ってたんだ。ならあいつでも良いだろうが」
「おまえなぁ〜・・・あいつは、そこらへんの馬鹿な女とは違うだろうが」
「今まで付き合ってきた女が、馬鹿だって認めてんだな」
何の問題も解決しない、言い合いを続ける2人。
そんな時、廊下へ続く扉が開く。
明は慌てて「シッ」と電話の向こうの男に注意した。
「明・・・声が廊下に漏れてるから」
苦笑いの白田が姿を現し、中へと入ってきた。
「なんだ・・お前か」
「監視カメラが付いてるね」
「あぁ」
「それと・・・あれ、おかしくなかった?」
「何が?」
明が気づかなかったカメラ以外の違和感を、白田は感じたようだ。
「観葉植物」
「どん突きにあったやつだろ?それが?」
「普通なら、行き止まりの壁を隠すように置かない?なのに、邪魔だとばかりに端に置かれてるよね」
白田のその言葉に明は扉を少しだけ開き、突き当りの壁を確認するように顔を覗かせた。
2人が歩けるほどの幅の廊下、その突き当りの壁は顕で不自然に右の隅に置かれた背の高い観葉植物。
細かい葉が生い茂りユーカリの木にも似ている。
「確かに・・・」
頷きながら、トイレの扉をパタンと閉める。
「あぁいう置き方するなら、壁に絵でも飾ってるほうが見栄えはいいのに」
「確かに・・・」
テーブルが並んだ壁には沢山の風景画が飾られ、店内の雰囲気にも拘りを感じた。
それに比べトイレがあるだけとはいえ、この廊下の装飾はかなりの手抜だ。
「掃除でもした時に、移動してそのままとかじゃねぇ〜のか?」
電話の向こうの男が口を挟むが「それはないよ」ときっぱりと白田が否定した。
「何で?」
竜一の疑問は十分に起こり得る事だ。
なのにハッキリと否定した白田に、竜一ではなく明が聞き返す。
「あの植物は家にもあるんだけど、簡単に歯が落ちる種類じゃないんだ。何かに引っ掛けて千切れるとかなら、あり得るけどね。なのに・・・・葉が落ちてた。すぐ下にね。掃除の為に移動させたなら、移動させた場所に葉が落ちてるのはおかしいでしょ?」
「「確かに・・・」」
竜一と明の声が見事にはもった。
「・・・・なら、その不自然に置かれた緑を調べなきゃなんねぇ〜な」
もう監視カメラの事は気にしていられない。
いつまでもテーブルが空だと、店の者も流石に怪しむ。
ここはとっとと調べて、何があるのかを確認しなければ・・・・・明は意を決して、ドアノブに手をかけると迷いなく廊下へ出た。
******
少し時間が遡り・・・
目の前の壁がす〜〜〜と開かれていくのを雛山は目にした。
「すごい、隠し扉ですね」
隣に立っている枇杷に、子供のような表情を向ける雛山。
特別なゲストだけが許される、VIPルームを予約している。
そう枇杷から聞かされていた雛山は、係の人が誘導するままに付いてきた。
隠し扉から続く廊下は、トイレがあった通路とはまた違った雰囲気だ。
まるで洞窟の様な荒い岩の壁に、冷たい石畳に伸びる赤い絨毯。
何かのアトラクションの通路のようにも感じる。
隠し扉を潜れば、雰囲気にそぐわない小さなモニターが壁に埋め込まれているのに気がついた。
どうやら先程のトイレ前の廊下と、店内を映し出している監視カメラの映像のようだ。
なんで・・・こんな所にモニターが?と雛山は不思議に思うも、その疑問を店の人間に聞く選択肢は出なかった。
無数にある扉を通り過ぎ、「こちらのお部屋になります」と係の人間が一室の扉を開ける。
先に室内に入る枇杷に続いて、雛山もその後に続いた。
「え・・・・」
室内には、食事をするためのテーブルと椅子が置かれているものだと思っていた。
だが、そこにはキングサイズのベッドと、ベッドにレンズが向けられているカメラが数台。
そして3人の男が、ニヤニヤ顔で立っていた。
状況が飲み込めない雛山の背後で、扉が閉まる音がした。
143へ続く
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