第141話

普通の客としてレストランに潜り込んだ2人。

雛山の姿が見えない事に疑問をもち、他の客へ探りを入れた。



141



ブルーシャトー



「それ、美味しそうですね。何ていう料理なんですか?」


食事を中断し、ただただ隣のテーブルに居る美男子を見るのに夢中になっていた、50代の女性2人。

そんな2人に、白田は爽やかな笑顔で話しかけた。


「あっこれはね、ムカサって言うのよ」


白田に話しかけられ、頬を染めながら話し始める黒色の服の女性。


「へぇ、初めて聞きました。見た目はラザニアみたいですね」


「ギリシャの料理なのよ。野菜を何層に重ねているのは、確かにラザニアと似ているわねぇ」


ほほほほと笑いながら、もう1人の白色の服の女性が会話に入る。

何を呑気に会話してるんだ・・・・普通に食事して帰る気か?と訝しげに目の前の男に視線を向ける明。


「ところで・・・さっきの人が言ってた事って本当なんですか?」


隣のテーブルの方へと少し身体を寄せる白田は、声を落として女性達に切り出した。

そこで漸く明も、白田の狙いに気づく。


「あの怖い顔の人の事?たしか・・・・」


「男性が2人、この店に入ったって。お二人は見なかったんですか?」


白い服の女性が竜一が言っていた内容を思い出すように言葉を止めた時、今度は明が女性に向けて優しく微笑み問いかけた。

明の営業モードに、白い服の女性は一瞬言葉を詰まらせて「どうなのかしら、私は入り口に背中を向けてるし・・・」と答える。

そこで明はもう1人の黒い服の女性に視線を向けて、ニッコリと笑いかけた。

笑顔ではあるが心の中では「お前は見てんのか?さっさと言えよ」と急かす。


「・・・それが、誰かが入って来たのは見たのよ。丁度話が盛り上がってた時だったから、ハッキリとは覚えてないんだけど・・・」


「それは、どんな二人組かは覚えてらっしゃらないんですか?」


ん〜〜と唸りながら話す女性に、白田は畳み掛ける。


「それが1人はさっぱり・・・だけどもう1人は小柄だったような気が・・・・そうそう!大きめのジャンパーを着ていたから、サイズが合ってないわねって、その時チラッと思ったのよ」


こういう時、どこにでも居るような普通の男二人組ならば、記憶にも残っていなかっただろう。

だが何か一つでも引っかかるモノがあれば、頭の片隅に断片的に残る。

雛山は明から貰った、サイズ違いの服を着ていた・・・・

明は、2人がこのレストランに間違いなく入ったと確信した。

それじゃ・・・2人は何処に?


「このレストランは、よく来られるんですか?」


引き続き白田は彼女たちに質問を投げかける。

それに対して彼女たちは、料理が冷めることもお構いなしに気分良く応対してくれた。


「私達この近くに住んでいて、よくランチやお茶に来るのよ」


「そうなのよ。OPEN初日も列に並んでね?今日でもう10回近く来てるかしら」


「そうなんですね。実は僕たち友人の誕生日会場を探してまして、この店も候補の一つなんです。ここって個室はないんですか?」


個室の有り無しは、お店の食べログで確認している。

それを知っていながら、白田は常連である彼女たちに確かめるように質問した。


「えぇ、個室はないわね」


白い服の女性はそうハッキリ答えるが、黒い服の女性は少し狼狽えた様子で口を閉ざす。

そんな彼女の様子に気がついた明は「どうしたんですか?何か気になることが?」と優しい声色で気にかけるふりをした。


「さっき言ってた、男性2人はどこに行ったのかしらって・・・」


「あら、もしかしてお客じゃなかったのかもよ?」


「でも、係の人が案内してた気もするの・・・・。それにね、思い出したのよ・・・・以前も、同じ様な事があったなって」


「以前とは?」


今日の出来事が切っ掛けで、何かを思い出したようだ。

明は身を乗り出して、彼女に続きを話すように促す。

ぐっと距離を詰めてきた明に、女性は嬉しそうにニヤける口元を抑えながら言葉を続けた。


「ほら。一週間前のランチの終わり時間に来た日、覚えてる?」


「えぇ・・珍しく一気にお客さんが帰って、30分程私達だけになったのよね。貸し切りだ〜〜って笑い合ったの覚えてるわ」


「実はその前に、一組のお客さんが居たはずなのよ。注文してから、私化粧室に行ったの。そして席に戻る途中で・・・係の人が男性二人を案内してる時にすれ違ったのよ。あの時は全く気にもとめてなかったけど・・・貸し切りじゃなくて、居たはずなのよもう一組」


「うそ〜〜〜じゃその人達、何処にいったのよ〜〜〜」


「個室らしい部屋は無いんですか?あの辺りに廊下があるようでしたが?」


長方形の店内から伸びる、唯一の廊下がある方向を指差す白田。

だがこの席からは観葉植物が並べて置かれ、その廊下は視界から遮られている。


「あそこは、お手洗いだけよ」


明はもう一度店内に視線を向ける。

出入口から一直線上にはテーブルは置かれておらず、人が通りやすいように通路になっている。

そこの通路の突き当りには、デシャップと厨房があるようだ。

そして通路の途中には、女性が言ったトイレに通じる廊下。

通路とテーブル席の間には、仕切られるいるように転々と観葉植物が置かれ、座っている状態では通路を歩く人が視界に入らないように工夫されているようだ。

ゆっくり料理を堪能できるよう配慮しての事なのか・・・・それとも・・・


「オレも同じの頼んどいてくれ、ちょっと手洗いに行ってくる」


明は席から立ち上がると、正面に座っていた男にそう口にした。


「うん、解った」


スマホを胸ポケットに入れる明に、白田は笑いかけながら頷く。

だが明に向けられる男の目だけは力が込められ、まるで「気をつけてね」と訴えかけているようだった。



142へ続く

異様に長くてすみません!!!また雛山助けないのかよ!と思っている方、申し訳ないです。

若干、火スペの様な素人探偵みたいになってます(汗)

頭の中では店内の見取り図はあるのに、上手く表現できないのが歯がゆいです。

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