第138話
雛山の家を監視する3人。
いつもの鞄で出かける雛山に、思った通りと笑う明。
だがGPS機の反応が確認できず・・・
138
少し時間は遡り・・・・
「出てきた」
家から出てきた雛山の姿を確認した明は、そう呟いた。
青年が肩に掛けている鞄を目にして、やっぱり・・・とニヤリと笑う。
「・・・ねぇ明」
そんな明の隣に立っている男から、名前を呼ばれる。
相手が何を言いたいか顔を見て理解できた明は「今は黙ってろ」と釘を指すように、男の鼻先に人差し指を突き立てて見せた。
全く・・・こんな状況で嫉妬するなよ。
明のアウターを着ている雛山に嫉妬している恋人に、呆れたように溜息をつくとバイクにまたがっている男に体を向けた。
丁度雛山宅から見えない死角、角地にバイクを止めている竜一は、バイクにセットしているスマホを覗き込んでいる。
「おい・・・このアプリ大丈夫なのか?GPSの位置、家から移動してないぞ」
「は?」
「本当だ。動いてない」
竜一の言葉に、手元のスマホを見て確認する白田。
明は咄嗟に白田の手首を掴むと、自分の方に引き寄せて画面を確認する。
確かに・・・GPSの赤い印が動いていない。
以前、自分のバイクに取り付けられていたGPSの発信機。
型番を調べれば、スマホのアプリと連動できるタイプだった。
対応アプリをダウンロードし、機械に表示されているIDコードを登録すればGPS機能として使える仕様だ。
念の為、昨夜はテストを行い、雛山が家の近くのコンビニに移動しているのを確認した。
「もしかして、鞄の中の発信機に気がついたのかも」
「今日に限って、何で鞄の中身見たんだよ・・・」
いつも鞄の中身がぐちゃぐちゃな雛山。
スマホや財布を取り出す時も、鞄の中に手をつっこみかき回して探っていた。
その時に、一ヶ月前のレシートがこぼれ落ちることもあり「おまえな、たまには整理しろよ」と明が注意するほどに酷いものだった。
それが一丁前に、デートだと意識しての事か・・・・鞄の中身を整理するなんて今回だけは腹立たしい。
「どうするよ」
「オレ達が後を追う、逐一お前に居場所を連絡するからバイクで移動してくれ」
「明。待って」
竜一に指示をしていた明を止めた白田。
男はスマホの画面をじっと見て、やがて明に視線を向けた。
「鷹頭から連絡が来たよ。やっぱり発信機が見つかった。店の名前は聞けなかったけど、地中海のレストランらしい。待ち合わせは原宿の駅前だって」
「出来したっ。ハゲから昇進させてやらねぇ〜とな」
発信機が見つかったのは痛手だが、鷹頭の働きで救われた。
「じゃ、オレは原宿へ向かう」
竜一はそう言いながら、バイクのエンジンを掛ける。
明も「解った」と短く返事を返し、距離が離れた雛山の後を追うように白田と共にその場を後にした。
駅直前で何とか雛山に追いつき、同じ電車に乗れた。
たどり着く場所が解っているだけに、安心して一つ隣の車両に乗った。
その間、明は原宿周辺で地中海のレストランがないかネットで検索。
そしてその隣で、雛山にあげたアウターの事をぐじぐじ言う白田。
それも譲ったと言わなかった明に、余計に白田もへそを曲げた。
極めつけは「俺も欲しい」と言い出し、明は流石に自分の耳を疑った。
確かに私服はサイズ大きめが多いが、それでもお古を恋人にやるのは抵抗がある。
電車の中で子供の様に拗ねるいい男と、呆れて「いい加減にしろよ」と切れそうな綺麗な男は異様に目立つ。
乗客の視線を掻っ攫っていた2人は、雛山と違う車両にして正解。
そんな押し問答をしている中、原宿についた事も気づかず危うく下り遅れそうになる。
扉が閉まる直前に外へ飛び出せば、既にホームに雛山の姿は無い。
2人はキョロキョロと青年を探しながら、早足で改札へと向かう。
駅前は待ち合わせ人や行き交う人が多く、中々見つからない。
そうこうしている内に枇杷と会い、移動してしまったら・・・・と明に嫌な予感が過る。
「いたよ」
流石高身長の男。
白田は雛山を見つけ、その方向に指を指す。
だがホッと胸をなでおろす状況ではなく、雛山が黒い車に乗り込む直前だった。
「まずいっ、タクシー乗らねぇ〜と」
「駄目だ、タクシー乗り場は空だよ。拾わないと」
タイミング悪くタクシー乗り場で客待ちしているタクシーは無く、目の前の大道路にもタクシーは走っていない。
焦る気持ちとは裏腹に、雛山が乗った車が発進する。
それに思わず明は車を止めようと、走って歩道を横切る。
だが車線変更した黒の車は、止めれる状況では無くなった。
目の前を通り過ぎる車に舌打ちするしかない・・・・・歯がゆい気持ちに「くそっ」と漏らす。
だが次の瞬間、見知ったバイクが明の前を通り過ぎた。
枇杷の車から、少し距離をとりながら追いかける竜一の後ろ姿を見て「出来した」と小さくガッツポーズ。
「明!」
少し離れた場所から名前を呼ぶ声。
その声に明が顔を向ければ、道路へ手を挙げている白田の姿が目に入った。
そして丁度1台のタクシーが、白田の前にスピードを落として停まった。
それに対して、明の口から今日3度目の「出来した!」が出た。
139へ続く
長くなるので、電車の中でのやり取りはサラリと流させていただきました。
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