第136話

雛山の鞄にGPSを忍ばせる・・・・そんな計画を立てていた当日。



136



双葉広告代理店



「理由を教えて下さい!GPSを仕込んでまで、何で雛山の行動を阻止しようとしてるんですか!?」


非常階段の一角。

興奮気味の鷹頭は、白田に突っかかる。


友人の鞄の中に、GPS機を紛れ込ませる。

それが営業部白田に早朝に呼ばれて、指示された事。

始業時間前の時間があまりない中、押し付けられるように小さな機械を渡された鷹頭。

「断ると、明が・・・・」とその後の言葉を濁す白田に、青年はあらゆる想像をし勝手に恐怖した。

そして、何とかお昼時間の間にミッションを達成させ・・・その足で営業部に出向き白田を呼び出したのだ。


「詳しい内容は教えられない」


「枇杷って人に、何か問題でもあるんですか?」


教えないと言われても、諦めない鷹頭に白田ははぁと溜息をつく。

2人の仲は、思っている以上に強いものとなっていたようだ。

雛山が鷹頭に打ち明けていた事もそうだが、上司である白田にここまで食って掛かるとは・・・・


「鷹頭、詳しくは話せないんだ。ただこれは雛山を守るためだから、それだけは解ってくれ」


「守るため・・・・」


釈然としない表情の鷹頭。

だがもう、何も言う気はないのだろう。

口を閉じてうつむく彼の肩に、白田はポンと手を乗せる。


「・・・・何か、俺にも出来ることはありますか?」


竜一が雛山を止められなかった時点で・・・・鷹頭に矛先が向いてもおかしくない。

だが、もう遅い。

鷹頭が失敗してから慌てて動くよりも、当日に失敗しないように計画を固めていたほうがいい。

それにこれほど深い仲になった2人の間に、亀裂が入るのは裂けたい。


「大丈夫だ。後は、俺と明がなんとかするから」


「・・・・・・・」


納得いかない顔で諦めたように黙り込む鷹頭に、もう一度・・・今度は少し力強く、彼の肩をパンと叩いた。

そして非常口の重い扉を開き、白田は廊下へと出た。



******



フローラ

商品企画部



LINEの通知音が耳に入り、明はデスクの上のスマホを手に取る。


『無事、GPSは雛山の鞄の中に入れれたよ』


白田からのメッセージを確認し、明は小さく「おし」と呟く。

正直賭けだ・・・・雛山が休日も同じ鞄を使用しているは見ていて知っていたが、もしかしたら鞄を変える可能性もある。

明日の土曜日、雛山は休日だ。

保険としてずっと雛山の家前で張り込み、そこから尾行する事も考えている。

だがGPSが無ければ、見失った時点で終了になる。

それに上手くいったとしても、相手にするのは暴力団。

相手の懐に入る前に、何とか雛山を止めなければならない・・・・それも枇杷の気分を害さないように。

枇杷も食事を建前としている以上、行き成り雛山を危険な場所に連れ込む事はしないだろう。

本当に食事をし、その間に相手の気を緩ませる・・・・警戒心がない状態の相手を、上手く理由つけて何処かへ連れて行く。

下心満載の男が、女性をホテルに連れ込む時のやり方だ。

そこで明達は、そうなる前に食事場所で偶然を装い同席する作戦だ。

それなら要らぬ争いを避けられる。


「ねぇ明君。草井さんの荷物ってどうしたの?」


トンとデスクの上に置かれた手。

その手の主を見上げ「誰?」と返す明。


「草井さんよ!このデスクの持ち主」


「ここオレのデスクだし」


「あんたの前に座ってた草井さん!草井さん産休になるから、あんたが企画部に来たんでしょうが。忘れたの!?」


「あぁ、臭い」


「そうその臭い!じゃなくて草井さん。デスクの引き出しに私物入ってたでしょ?近々取りに来るって言ってるのよ、どこに片付けたの?」


「んなもん、捨てたに決まってんだろ。ゴミばっかだし」


移動初日に、PC内とデスク内のゴミは全て捨てた。

長期休暇を取る人間が、そんな大切なモノを置いておくほうが悪い。

明はもう用は無いとばかりに、由美から手元の書類に視線を戻した。


「はぁ〜〜〜!?大切なモノが入ってるからって、連絡きたんだけど!!どうするのよ!」


「新しいゴミでも拾えって言えよ」


「言えるわけないでしょ!?」


「じゃ、今度連絡あったらオレに代われ。もう永遠に会社来なくていいって言ってやるから」


「・・・・・常務の孫に・・・何てこと」


「来ても仕事しね〜女なんか、会社にとっても不要だろう」


会社のために、ゴミ本体を捨ててやりたい。

そんな本音を包み隠さず口にする明に、由美は頭を抱えてため息をつく。

だがそれも一瞬だけで、チロリと明に視線を向けるとニヤリと口元を歪ませた。


「草井さん、白田さん狙いだもんね~~」


「・・・・・・何が言いたいんだ」


意味深な由美の言葉に。

明は書類から目を放して、デスク脇に立っている由美をジロリと睨みあげた。


「草井さんが戻ってきたら、また白田さんにちょっかい掛けるだろうね」


「戻ってきたら?んなもん、あいつの居場所なんてあるわけねぇ~だろう」


「商品企画部では何の権限もないのに?」


「あのなぁ〜結果を見れば解るだろうが。オレがここに来て、どれだけ実績あげてると思ってんだよ」


新商品だったサンセールは、広告戦略のお陰と明の営業努力もあり、発売前の予約だけで発売当日商品入荷待ちの店舗もあった。

異例のスタートを切り、そこからの美容YouTuberからのプッシュや、明が提案した街頭サンプリングで持続的に売上を叩き出している。

そして基礎化粧品だけではなく、パックやメイク落とし、洗顔等のシリーズ商品も近々発売する事になっていた。


「男のケツ追っかけてるような女、ここには要らね〜よ。戻ってきたら、他部所に追いやってやる」


「貴方が言うと、冗談に聞こえないから怖いんだけど・・・」


「オレはいつでも本気だ」


「これだけは忘れないで、彼女は常務のお孫さんだからね」


由美は釘を指すように、明にピシリと指をさしてそう言い聞かす。

だが明はもう興味はないとばかりに、手元の資料に視線を戻した。


常務が自分の事を気に入らないのは知っている。

新卒当時はエントランスで顔を合わせれば、明から挨拶していた。

だが相手はチラリと明を見るだけで、無視。

その時点で、明は挨拶をするのを一切しなくなった。

何なら彼が乗ろうとしていたエレベーターに既に乗っていた明は、常務の鼻先で扉を閉めてやった事もあった。

向こうがその気なら、こっちも同じ態度で接するまで・・・・それが重役でも明にとっては関係なかった。

だから今更、孫に気を使うなんて必要はない。

孫だろうが娘だろうが、仕事をしない奴は不必要だ。

それが白田に好意を寄せちょっかい出そうが、恋人は自分に夢中なのだから痛くも痒くもなかった。



137へ続く

久々の草井出しです。

未だ名前しか出てないですが、8話で明と何やら因縁があると匂わせておいて・・・・・未だ何も書かずでした。

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