第134話

雛山が帰った後、反省会が開かれていた。

枇杷との約束の日が近い中、3人はアレコレと案を出していくが・・・



134



野掘ボルダリングジム



「・・・・・・・・・」


目を細め、まるで攻め立てる様な眼差しでじっと見てくる明。

無駄に顔がいいものだから、そんな表情をするとゾクリと背筋が凍るような冷たさを感じる。


「あのなぁ・・・、俺もお前と同じで回りくどいのは苦手なんだよ」


そもそも、自分が無理だったからと人に押し付けた案件。

それが上手くいかなかったからと、攻めるのはお門違いだろう。


「俺じゃなくて、お前の恋人に頼めば良かったんじゃないのかよ。康気の会社の人間で、上司ならもっと上手く立ち回れただろうが」


「!?」


竜一の言葉に、明は今気づきました!!とばかりの反応。

咄嗟に隣に立っている白田に顔を向けている相手に、竜一は「おいおい」と呆れた様につぶやいた。

明の事になると余裕がなくなる白田だが、それ以外の事は要領よく動けそうな男。

雛山が帰った直後、瞬時に鷹頭に「雛山を追いかけろ」と指示したのは白田だ。

最初から頼む相手が間違っていたのでは?と思うのは仕方がない。

明は端から、恋人に頼む選択肢はなかったようだが・・・・


「今更過ぎたこと言っても、仕方がねぇ〜だろうが。ハゲボクロ」


「それをお前が言うな。何だよハゲボクロって・・・」


明の言葉に、咄嗟に返す竜一。

以前からのハゲ攻撃には馴れていたが、新たに追加されたホクロには流石に突っ込んだ。

明が選択ミスした事も、竜一が失敗した事ももう取り返しがつかない。

雛山は、明や竜一がこれ以上何を言おうが耳を貸さないかもしれない。

そこで竜一は、雛山の言葉を思い出した。

彼が言っていたのは・・・どういう意味だろう。


「なぁ、林檎って知り合いにいるのか?」


「あぁ、フスカルの常連だけど。それが何?」


「あいつが言ってたんだ。林檎の恋を応援するから、安心しろって。どういう意味だ?」


「・・・・・・」


竜一の質問に、明は首を捻り白田へ視線を向ける。

顔を見合わせている2人は、お互い解っていない釈然としない様子だ。


「今の話で思い出したけど」


そこで今まで黙っていた白田が、口を開いた。


「雅さんと桃さん、枇杷さんに林檎さんを推してたよね。そう考えれば、林檎さんが枇杷さんの事を好きだって事じゃないかな?」


「・・・じゃぁ、何でピヨは枇杷野郎と飯行くんだよ。応援する気なら、行かねぇ〜だろうが。それに2丁目の闇はどうなるんだ?」


「ん〜〜〜・・・そうか」


そこで明と白田は、2人同時に何やら考える素振り。

だが竜一は、2人の会話から矛盾している点に気がついた。


「なぁ、お前の叔父はその2丁目の事情は知ってんだろ?」


「あぁ」


「なら、その林檎を枇杷に進めるのもおかしな話じゃないのか?康気同様に止めるのが普通だろう?」


「「・・・・・・・」」


再び顔を見合わせる恋人同士。

何だよ・・・仁も案外抜けてるのかよ・・・。

今更その点に気がついた2人に、はぁと溜息を漏らす。


「あぁ〜〜何か頭こんがらがってきた〜〜」


「ここは、雅さんにちゃんと聞いた方がよくないかな?」


「俺はもう二丁目を去るんだぞ。そんな俺に、あいつは余計な話は一切しないぞ」


「なぁ・・・どこに行くとかは解らないのか?場所知ってるなら、直接止めれるだろ?」


「ん〜〜ちょっと待て」


竜一の問い掛けに、明は床に置いてたスマホを手に取る。

そしてササッと操作をし、それを耳に当てた。


「おい、よしよし。どこに食事行くとか言ってなかったのかよ」


誰かと話す明を、白田と一緒に黙って待つ。

相手の声は聞こえないが、明の顔が険しくなるトコロを見ると雲行きは怪しそうだ。


「駄目だ。場所は決まってないってよ、待ち合わせ場所も当日に連絡するって言ってたらしい」


電話を切りながらそう口にする明。

そうなればお手上げだ・・・・・雛山にGPSをつけるぐらいしか案が思い浮かばない。


「・・・・GPS」


竜一の浮かんだ案と同時に、明がつぶやいた。


「あいつの鞄に、どうにかGPS放り込める事できないか?」


「やるとしたら、部所が同じ鷹頭に任せた方がいいね」


「ちょっと待てよ、あの坊主は事情知らないんだろ?友達の鞄にGPS忍ばせるなんて、引き受けてくれんのかよ」


「そこは全く気にしなくてもいい。事情話さなくても、脅しゃ〜あいつは引き受ける」


「おいおいおい・・・・・大丈夫なのかよ」


明の物騒な言い方に、呆れながらも心配になってくる。

普通の青年に見えたが、明に何か弱みでも握らてるのか?と疑ってしまう。


「俺の元ストーカーだ、前科に目を瞑ってやった恩義があるさ」


弱みを握られていた・・・・

明をストーカーするとは、なんて怖いもの知らずな・・・。

そこで新たな問題が、竜一の頭に浮かぶ。


「なぁ、GPSってそんな簡単に買えるもなのか?アキバとかに売ってるとか?」


「丁度、戴き物がある」


「そうだね。じゃ、今日は明の家に取りに寄るよ。明日、会社で鷹頭呼び出して伝えるから」


普通・・・GPS機って戴ける物なのだろうか・・・・

それにそれを恋人の仁も知っている様子に気になるが、訊くのが少々怖い気もする。


「失敗したら、前歯折るぞって言っといてくれ」


「やめたれよ〜〜」


元ストーカーだったとしても、明に弱みを握られ脅される青年が哀れに思えた。

白田がまともならば、恋人の行き過ぎた言動や行動を止めるだろう。

だが、これから国会議事堂に殴り込みに行くと明が言ったとしても、一緒に行くと言いそうだ。

もうこの話はおしまいとばかりに「おし、帰る前にもう一回登ろうぜ」とボルダリングを始める明。

そして「そうだね」と従う白田。

そんな2人の背中を、何ともいえない表情で見つめる竜一。

土曜日・・・ヤクザ相手に1人が暴走し、もう1人が従ってしまったら・・・止めれるのは自分しか居ない。

竜一は心の中で、何事もなく食事を阻止出来る事を祈るばかりだった。



135へ続く

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