第125話

見送りの立ち会いが終わり、病院を後にする明達。

そこへ・・・倖田の親戚達が美男子二人をほっとくわけもなく。



125



祖父は幸せだったのだろうか・・・

それは祖母も、自分に問いかけていた。

だが、もうそれを当人に訊くことも出来ない。

だからせめて、こんなに沢山の人が最後を見届けに来てくれただけでも、幸せ者だったと思う事にした。


「あの中の何人かは、遺産目当てで来てんだろうな〜」


祖父が息を引き取り。

病院から駐車場までの道のりをぞろぞろと歩く、明達と倖田の親族達。

強い悲しみで涙ぐんでいる者や、亡くなった者の思い出話しをしている者、久々の再会で会話が弾む者とそれぞれの輪ができていた。

そして明と白田はどの輪にも入らず、ただただ親族の女性陣達から熱い視線を向けられている。

そんな視線を全く気にしていない明は、わざわざ遠方からも駆けつけた、親戚達の下心を代弁する。


「明・・・」


そんな明に、思わず苦笑してしまう白田。


「まだお婆さんがご健在だから、心配ないでしょ」


「ご健在だから、今から媚を売っとくんだろうが。なんせ、あいつらの情報は古い。雅が連絡入れてた、演劇部の家族は知ってたかもしれね〜けど」


「演劇部?」


「他の親族は、雅が倖田から絶縁された情報のままノコノコとやって来た筈だ。それがいざ来てみれば、雅がその場に居て驚きまくってただろうし」


「・・・・確かに・・・。あの人達が来た時は雅さんは明と一緒に居て、その事を太郎さんが説明したら・・・・・殆どの人達は言葉を失ってたよ」


「だろぉ〜〜〜」


後残すは、孤独な未亡人だけ・・・と期待大でやってきた奴らが、跡取りが居たと知り落胆した姿を想像しただけで、明はニタニタが止まらない。


「まぁ、母親と息子が和解したんだ。本家の跡取りは絶たれても、遺産は息子の雅に行くだろうな」


そんなゲスい話をしている間に、駐車場にたどり着いた。


「親父、どっちの車に乗るんだ?」


明は後方を歩いている太郎に振り返り、白田の車が止まっている方向を指差す。


「桃さんの車に乗せてもらうよ」


「ん〜」


昨日、白田が言っていた通りこの後は食事に行く予定になっている。

そこまでは、白田と桃の2台の車で移動となる。


「ねぇ、明。お婆さん呼ばなくていいの?」


「いや・・・こんだけ親族いるんだぞ、誰かとどっかに行くんじゃねぇーの?明日は早朝に爺が家に戻ってくるし、準備もあるだろう」


「そうか。まぁ積もる話もあるだろうしね」


「にしても腹減った、早く行こうぜ〜〜ファミレス」


「ねぇ本当にファミレスが良いの?太郎さん達と一緒なのに・・・」


「ジャストのミックスグリルが食いて〜んだよ」


「そうか、なら仕方ないね」


なんやかんやで恋人の望む事に従う白田は、明の言葉に笑顔で納得する。

それに今までに色々あった事が、今日全て精算されたようで明も気分が軽い。

いつもより表情が柔らかい明に、白田も上機嫌だ。


そして目当ての車が見えた頃、白田が懐に入れたキーでロックを外した・・・・そこへ


「明君!明君!ちょっと待って〜〜」


パタパタとヒールを鳴らし、2人に駆け寄ってくる女性。

丁度車の前までやって来た2人は足を止め、振り返る。


「もう!全然話せなかったから!」


そう言いながら、2人の前で立ち止まりニコリと笑うのは・・・・


「誰」


明が知らない親族。

年齢は雅ぐらい、30半ばに見えた。


「ちょっと〜〜覚えてないの!?何度も会ってるわよ!!」


「姉貴、姉貴!!」


オーバー気味に反応する女性に、彼女を呼びながら遅れてやってくるのはタクヤ。

あぁ・・・姉弟揃って、うざい・・・

そんな明の気持ちが、表情に表れる。


「何よ、さっきまでニコニコしてたのに。行き成りスンってなった!!」


「何、用ならさっさと言ってくれ。こっちは腹減ってんだ」


「なによぉ〜〜幼稚園の時も生意気だったけど、今も全然変わってないじゃない!いい男に育ったと思ったのに!」


「だから姉貴、駄目だって」


「うるさいわね、何よ!あんただって、昔は明君にメロメロだったじゃない。殴られても鼻血出しながら、追い掛けまくってたでしょ!?」


ピシッ

そんな効果音が明の隣から聞こえてきた。

そっと隣に立つ男を見上げると、表情には笑顔が張り付いているが・・・・・禍々しいオーラが身体からにじみ出ているのが明の目には見えた・・・気がした。


「用がないなら、オレら行くから」


「待って待って!」


付き合ってられないと2人に背中を向けた瞬間、女性の手が明の腕を掴む。


「頼む〜〜〜〜。合コンセッティングしてぇぇ〜〜」


「はぁ!?」


「もう親戚集まるとさ、結婚はいつだいつだ〜〜攻撃されて焦るのよ〜〜。白田さんみたいに、いい男がいる明君なら・・・・ほら、いい人沢山知ってるでしょ?類は友を呼ぶって言うし。なんなら、白田さんの会社の人でもいいから!紹介してえ〜〜、あっ因みに私看護師だから、専業主婦希望の人は無理」


しらける明と、明の腕を掴んでいる彼女の手を瞬きせず凝視している白田。

そして「なんだ・・・そっちか」と漏らすタクヤ。


「何よそっちかって」


「いや。俺の忠告無視して、どっちか狙ってたのかなって」


「二人を見てれば、あんたの言った事も信じるわよ・・・・・って言うか、あんたも彼女に捨てられたんだから、二人に頼みなさいよ。明君、化粧品会社にお勤めなのよ!綺麗で若い子沢山いるわよぉ〜〜〜〜」


「そっか!!頼む明!俺にも!!俺、貿易会社で働いてから、専業主婦でも食わしていけるぞ!」


そして姉が握ってない方の明の腕を弟が掴み、姉弟仲良くグイグイと明に迫る。


「それなら・・・・姉弟お互いの知り合いを紹介し合えば、どうでしょう?」


守護霊のように明の背後に立つ白田。

そして、明の腕を掴んでいる2人の手首をガシリと掴む。

手首を掴まれた2人は、白田を見上げ・・・みるみる顔色を変えた。

男の言葉尻は柔らかったが、2人に向けた表情はどうやら違うようだ。

人にはいつも本心でなくても笑顔を見せている男が、今どんな表情をしているのか・・・・明には見えなかったが、2人の様子を見ただけで笑いがこみ上げてきた。


「兎に角、手放してくれ」


明の言葉に、2人は慌てて従う。

すると2人の手首を掴んでいた、守護霊の手も放された。


「連絡先」


「「「へ?」」」


コートからスマホを取り出した明に、2人だけではなく白田も同じ反応をした。

同調した3人に、明はまたもや笑いを漏らす。


「明っ!?」


「まぁオレの会社も独身が多いからな、合コンは無理でも紹介ぐらい良いだろう」


「「やったあ〜〜〜〜」」


飛び跳ねて喜んでいる2人の手には、すでにスマホがスタンバっている。


「じゃ〜〜フルフルで」


とウキウキでスマホを差し出す姉に、バタバタと数人の足音が走り寄ってきた。


「ちょっと!!シズカちゃん!抜け駆けなんてずるい!!」


「そうよ!!」


6人の女性達が、鬼の形相でタクヤの姉シズカに詰め寄る。

その中には乳飲み子を抱えた女性や、制服に身を包んだ女子高生とかなりカオスな状態。

口々にシズカを攻める言葉を吐く6人は、明と白田狙いでシズカが連絡先を交換していると誤解しているようだった。


「ねぇ明くん、私の事覚えてる!?」


「えぇと白田さんでしたっけ?どこの会社にお勤めなんですか?」


「彼女さんは居ますか!?」


シズカが誤解を解こうと何かを言っても、すでに6人は自分のお目当てに必死に話しかけ始めている。

一時期和らいでいた明の表情筋は死亡し、貼り付けた笑顔の白田。

隣でアワアワしているタクヤに、誰も聞いてないが「違うって〜〜」を連呼するシズカ。

そこへ・・・


「止めなさい!!!」


と群がっている女性達に一喝する、凛とした声。

その声に女性達は固まり、恐る恐る声を主に顔を向けた。


「まったく貴方達は、みっともないですよ!!」


本家の主にそう言われては、彼女たちも大人しくするしかない。

彼女たちが怒られている間に、すかさず明と白田の背後に隠れる姉と弟。

分家の人間は皆、久美子が怖いのだろう。


「貴方達はあの場で白田さんが立ち合う事に、疑問を持たなかったんですか?」


祖母の投げ掛けに、女性陣はそこで初めて疑問に思ったのか、お互いの顔を見合わせて首を傾げている。


「呆れた・・・、白田さんは明の恋人ですよ。貴方達には入り込む余地はないんです」


祖母のその言葉に、6人はえっ!?という顔で明と白田を見る。


「解ったなら、お行きなさい!!」


ピシャリと言い放つ久美子に、ぴゅーと効果音がつきそうな程に女性達は一目散に去って行った。

さっきの騒動が嘘のように、シーンと静まり返った駐車場。

うんざりした顔の明は、あんな親戚が居る倖田の姓を捨ててよかったと心底思った。


「明さん。もし、仕事のご負担にならないようなら葬儀に要らして」


明に向き合った久美子は、少し畏まったようにそう言った。

それに対して明は、言葉にせずコクンと頷く。


「・・・白田さんも」


そう久美子に言われた白田は「はい」と返事を返し、彼女はそれで満足したのか2人に丁寧に頭を下げてそしてくるりと背を向けた。

薄暗い駐車場を歩く祖母の背中を見ている明。

その右肩に、未だ背後に立っている男の手が乗せられた。

そして・・・


「良いの?」


と意味深な言葉を、明に投げかける。

男が何を言いたいのか察した明は、はぁとため息をつき、祖母の後を追うように歩き出す。


ファミレスなんて・・・どうせ断られるだろう・・・


そう思いながらも、明は「なぁ」と久美子を呼び止めた。



126へ続く

親戚の名前を決めるにあたって。

JUDGE EYESの続編が出るなぁ~~👉キムタクか~👉姉はその嫁でいいか・・・

ってな感じで決めてます。

私自身忘れっぽいので、誰かに紐付けないと記憶に残らないですよね(メモしたら済む話ですね)

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