第124話

祖母と雅と共に病室へ戻ってきた明。

そこで待ち構えていたのは・・・



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弱々しい足取りで歩く祖母に寄り添うように歩く、明と雅。

祖母の気持ちが落ち着いたのは、約束の時間を過ぎた頃。

時間を少し伸ばしてくれと雅は病室に居る太郎に連絡を入れ、19時半に立ち会いが行われる事となった。


「何なんだよ、その目」


廊下を3人で歩く中、雅はずっと明をニマニマとした顔で見ていた。

最初は無視していた明だったが、全く何も言わない雅にとうとう我慢できなくなった。


「まさか、病室まで来るとは思わなかったからな・・・」


「は?」


「別にぃ」


病室まで来ない・・・と?

ここは、病院と一括にして言うのが普通。

意味深な雅の言い方に、何かが引っかかる。

もしかして・・・・


「白田か」


「ふっ」


恋人の名前出せば、雅は当たりとばかりに笑った。

明が今日ここに来ることは、誰にも言っていない。

病院の前まで・・・・そう提案した白田だったが、どうやら雅と繋がってようだ。

もしかしたら雅の入れ知恵だったら・・・・自ら動かない明に、背中を押すように白田に頼んだのかもしれない。


「お前が言ったのかよ」


「白田さんは、明の気持ちを一番に考えてるからな。お前が来ないって結論を出せば、それに黙って従うだろ?」


「待て。あいつがオレを一番だと言うなら、何でお前に従うんだよ」


その言葉に、雅はまた意味深にニヤリと笑う。


「お前に忠実だけど・・・・・お前の大ファンでもあるしな。ファンって欲しがるだろ?」


「・・・・・何を」


嫌な予感が過る。


「プロマイド」


「お前っ」


「ねぇ・・・明」


2人のやり取りを黙って聞いていた祖母が、口を挟んだ。

今から雅に噛みつこうとしていた明は、気がそれて祖母に視線を向ける。


「何」


「あなた、恋人を他人行儀みたいに名字で呼んでるの?最近の若い子達はそれが普通なの?」


「「・・・・・・・・・」」


雅と共に無言になる。

気にするトコロはそこなんだと、心中でツッコミを入れる。

そうか・・・・・。

明は、ここである事に気がついた。

話が通じないのは頑固なんだと思っていたが、それだけじゃないらしい。

母親は祖母の様に攻撃的ではなかったが、少し抜けていたところがあった。

それは甘やかされて育ったから、お嬢様特有の世間知らずな一面だと思っていた。

だがそれは祖母に似ていたのかもしれない。

祖母も天然な面があるから・・・・会話が噛み合わない。

今まで祖母に一方的に言われ続けて、会話らしい会話は無かった明。

改めて知った祖母の顔に、これまで積み上げられていた祖母のイメージが、明の中で跡形もなく崩れ去っていく音がした。


「久美子さん!!」


いつの間にか目指す病室が近かったのだろう。

病室の廊下に人ざかりが出来ており、その中の1人の年配の男性がこちらに気がつくと駆け寄ってくる。


「もう大丈夫なのかい?病室に来たら、気分が悪いから休んでると聞いて心配だったんだよ」


「・・・・・・」


祖母の血族にあたる人物だ。

明も小さな時にしか会ったことがない親戚。

人ざかりは分家の人達だろう。

祖母と年齢が変わらない人から、中学生ぐらいの年代の子供まで居る。

その中の年齢が上の人達が、ぞろぞろと祖母の方へとやって来た。

病室の前に残された若い衆は、遠巻きで明達の方へ様子を伺っている。


「どうして・・・」


「俺が連絡入れたんだ」


「そうだよ、雅君からうちの息子のタクヤに連絡がきてね。それで皆駆けつけたんだよ。最後のお別れだけはちゃんとしたくてね」


祖母にとって、1人で祖父を看取ろうと覚悟していたかもしれない。

それにもう親族でなくても、無条件でやってきた太郎。

その太郎の言葉に動かされ、息子と恋人がやってきた。

又雅の言葉で明の恋人が動き、孫も訪れた。

そして・・・1つの連絡に病室に入りきれないほど沢山の親族が駆けつけた。

ひっそりと行われる予定が、人々が集まり賑やかな別れとなりそうだ

感極まる祖母は、年配者達に取り囲まれて慰めの言葉を夫々からかけられる。

長々と倖田家を離れていた明と雅は、その輪には入らずお互いの顔を見合わせ安堵のため息をついた。

そんな中、若い衆から1人の青年が雅の方へ「久々だなぁ〜」と手を挙げながら近づいてくる。


「おぉタクヤか~、今日はありがとな」


タクヤ・・・最初に近づいてきた男の息子だろう。

その男に、明は特に興味も沸かず、ポケットに入れていたスマホを取り出す。

病室に居るはずの恋人にLINEを送ろうと、画面を開く。


「お前、大人になっても相変わらず美人だな」


スマホに視線を落としていた明に、投げかけられたタクヤの言葉。


「俺、お前は実は女じゃないかって淡い期待してたんだけどな・・・」


「あぁ?誰だてめぇ」


「口わりぃ〜〜。つぅか俺の事忘れてんのか!?俺の大切なブルトラマンの人形お前ぶっ壊したんだぞ!!?」


「知るか」


「タクヤ、こいつ幼稚園だったんだぞ覚えてねぇ〜よ。お前が5つ下のこいつに泣かされまくってた事・・・はははは、よくぶっ叩かれてたしなぁ」


笑いながら説明した雅に、幼稚園生の頃の記憶を手繰り寄せるが・・・・幼少時代も目の前の男に興味がなかったのだろう、断片的な記憶すらなかった。


「くそぉ・・・。けど残念だったな」


「はぁ?何が」


「こんな美形が血族にいて、女性陣はお前にチヤホヤすると思うだろうがな・・・・ふふふ」


うざい・・・

明は相手にするのも面倒になり、再び手元のスマホに視線を落とした。


「女性陣は、病室に居ためちゃくちゃいい男に夢中だ。お前よりも背が高くて、お前よりもガタイも良い、笑顔がミンティアみたいな素敵な男だったぞ。いや〜〜あんないい男、倖田の家系に居たか?俺全く記憶にないんだけど、まさか・・・・誰かの旦那?」


「・・・・・・・」


こいつ演劇かなにかしてるのか?と思わせるオーバーな手振り素振りで話すタクヤ。

明は視線だけを男に向けるも、その目は相変わらず死んでいる。

そして雅は肩を震わせて笑っている・・・


「明!そんな薄着でっ」


今まさにメッセージを送ろうとしていた相手が、廊下に出ていた。

そして上着を脱いでいる明に驚きながら、慌てて近づいてくる。

廊下に居る女性陣の視線を掻っ攫いながら、明の前にやってきた白田。


「もう、こんなに手が冷たくなって!」


明の両手を、自らの体温で温めるように握りしめる。


「Don't Touch Me」


「ごめんね、英語全く解らないから」


そう言いながら、手だけで足りず冷え切った明の身体を抱きしめる白田。

絶対解ってるだろう・・・と思いながらも、男の温もりに身体も気持ちも温まる気がして突き放すことが出来ない。

そんな2人の隣に立っている雅は「相変わらずだな・・」と漏らし、状況が飲め込めていないタクヤは呆然としている。


「2人共、遅いわよぉ〜〜〜」


そしてそこに雅の恋人も、シナを作って歩み寄ってきた。

だが今日は桃ではなく、茂信バージョンだ。


「何だ、今日は男かよ」


「そうよ。だって桃ちゃんで来てみなさいよ。お父さんビックリして、呼吸器外す前にショック死しちゃうかもしれないでしょ」


意識の無い人間がショック受けるとは思えないが、桃のブラックジョークに思わすふっと笑いが漏れる。

これから行われる気が重くなる立ち会いに、桃らしい冗談は有り難かった。


「ほら、もうお医者さん待ってるわよ」


桃の言葉に雅は「行くぞ」と明の背中をバンと叩く。

そして2人が病室に向かいはじめ、そのタイミングで白田は明の身体を開放した。


「病室で熱いお茶入れようか?」


「いらねぇ、それより上着かせ」


明の要求に、白田は笑顔で上着を脱いで明の肩に引っ掛けてやる。


「彼コートだね」


ニッコリと笑いながらそんな事を言う恋人に、明は呆れた顔で男を見上げる。


「今のでぐっと気温が下がったわ。ほらっ行くぞ。つか後でお前に訊きたい事がある」


先に歩き出す明に、横に並ぶように付いていく白田。


「え?なになに?」


「だから、後だ後」


「えぇ気になるから、今言ってよ」


そんな会話をしながら歩く2人に、興味しんしんとばかりに視線を向ける分家の若い衆達。

そして途中から空気となっていたタクヤは、仲よさげな2人の背中を口をあんぐりあけたまま見ていた。



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会ったことのない遠い親戚にイケメンが居ると、テンションあがりますよね。

私のいとこにも年上のイケメンが居ました。

話し上手で料理もピアノもひけて手先も器用で、ミニチュア作りの雑誌に一度載ったことがあります。

憧れの人でしたが・・・・名前を変えて身体も変えて男性と結婚しました。

彼女となっお兄さんですがそんな生き方に少し負い目を感じるのか、親戚行事には一切顔を出さなくなった事が私的にはショックです。

まだ堂々と生きられない世の中なんだとも、身をもって実感しました。

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