第120話

枇杷との約束の事を考えながら原宿を歩く雛山、そこでパンチ頭男と衝突してしまう。

そんなピンチな雛山を助けたのは・・・・



120



平日

就業時間を過ぎた雛山は、早々に会社を後にした。

今日はフスカルもなく、ジムへ行く日でもない。

そんな日は、色んなショップをぶらりと立ち寄ってから帰るのが日課になっていた。

色んな商品のパッケージやポスター、そして什器・・・それらを参考にと見て回る。

今日は若者が多い原宿へと立ち寄り、ぶらぶらとしていた。

いつもならば目についた店に入り、舐め回すように店内を見るのだが・・・・今日は、身が入らない。

それもこれも、昨日の明の電話が原因。

休日の日曜日に電話が掛かってきたと思ったら・・・枇杷との食事の事を言わた上に、竜一の話も出た・・・・

枇杷との食事の事は雅や桃の態度で、あまり良く思われてないとは解っていた。

そして明までも・・・・・それは自分が子供扱いされているようで、雛山としては嫌な気持ちだった。

虐められ息を潜んで生きていた自分とは別れを告げ、ジムに通いどんどん自分に自信もついてきた。

前々から可愛いと声を掛けてくれていた、枇杷の誘いを受けたのに・・・・誰もいい顔をしてくれない。

初めて同性に恋心を抱いたが、叶わない恋よりも自分に好意を抱いてくれている人と、一緒に居たほうが良いと思った。

なのに皆の反応を見ると、それが正しいのか不安に思えてきた。

だからといって、子供扱いされたままでいたくない。

不安に思いつつも、絶対に食事に行ってやると変な意地が生まれている。


「はぁ・・・」


駄目だ、今日はもう帰ろう・・・

雛山はため息をつき、今ここに居ても何の身にもならないと、駅に戻ろうとその場で振り返った。

ドンッ

途端に、体に衝撃を受ける。

後ろに人が居た事に気づかなかった雛山は、真正面から誰かとぶつかってしまった。


「す!すみません!!」


すぐに謝罪し、相手に申し訳無さそうに視線を向ける。


「!?」


「おいおい、兄ちゃん。どこに目つけとんじゃ〜〜!」


ぶつかった相手は古典的なセリフを吐くも、それがお似合いの風貌をしていた。

ちゃんと後ろを確認してから振り向くんだったと、後悔してももう遅い。


「なめとったらあかんで〜〜!兄ちゃん!!」


どこまでもお決まりのセリフで、雛山に絡み続けるパンチパーマの男。

周りに人はいるものの、誰も雛山を助けようとする様子はない。

雛山はもう一度「すみませんでした」と謝罪するも・・・


「すみませんで済んだら、警察いらんわなぁ〜〜〜」


と想像通りの返事を返される。

相手の望みは解っている・・・慰謝料だろう・・・・。

ぶつかっただけで、慰謝料払うなんて本当は嫌だが・・・・財布の中の全財産を払って許されるならば、それに越したことはない。


「幾らですか?」


だからここはさっさと払うもの払って開放してもらおうと、そう相手に言ったのにそれが余計に男を怒らせる結果になった。


「兄ちゃん!人をチンピラみたいに言うなや!!」


えぇぇ〜〜〜チンピラですやん。

心中で大阪弁でツッコミを入れるが、それを口から出す勇気はない。

ならどうすればいいの・・・・・


「人が許したろう思たら、チンピラ扱いしてくさがりやがって。ちょっとこっち来いや」


男は雛山の腕を掴みむと引っ張り、ズンズンと道中を歩く。

力では敵わない雛山は、慌てながら近くに運良く警官が居ないかを期待するが・・・目当ての制服は視界に入らなかった。

そうこうしている内に、人気のない細い道に差し掛かる。


「ちょっと待って下さい!こんな事しても、何の解決にもなりませんよ!」


こんな所に連れ込まれたら逃げれないと、雛山は慌てて抵抗しはじめる。


「やかましぃ〜わ!大人しくせぇ〜!」


男の手が雛山の胸倉を掴む。


「俺はまだ優しい人間や、拳やなくて平手打ちで済ませたるわ」


そう言うともう片方の手が、雛山に向けられて振り下ろされる。

流石にもう諦めるしかないと、訪れる衝撃を予想しギュッと目を瞑った。


「平手打ちでも、暴力には変わりないよぉ〜?」


頬に訪れるであろう衝撃もなく、そして第三者の声が雛山の耳に入る。

その声は雛山も聞き覚えのある、ある青年の声だった。

雛山はビックリして目を開け、置かれている状況を把握する。

男の平手を止めている第三者の手。

その主は・・・


「林檎さん!!?」


「こんな所で会うなんて、奇遇だねぇ」


キラキラな金髪の髪に、無数の耳のピアス。

それだけじゃ飽き足らず唇や鼻、舌にもピアスを開けている林檎は、雛山にニッコリと笑いかける。


「なんじゃ!このガキ!そんな舐め腐った名前で、ふざけとんのんか!」


「あはははははっ、令和の時代にパンチパーマの方がふざけてるでしょぅ〜〜。何それ、カッコいいと思ってんのぃ〜〜?」


ええぇぇ〜〜〜

男の言葉に数倍にして煽り返す林檎に、雛山は慌てふためく。

フスカルの中だけでは知らなかった、林檎の怖いもの知らずな一面。

もしかして・・・喧嘩強いの?

そんな期待が、頭に過る。


「今すぐ散髪屋に駆け込むめるように、こうしてあげるぅ〜〜!!」


怒りで顔が真っ赤になっている男の髪を徐に掴む林檎。

そして有ろう事か、その手を思いっきり引き抜いた。

それはもう、ブチブチという効果音付きで・・・


「ぎゃ〜〜〜!!」


「きゃ〜〜〜!?」


最初の悲鳴は髪を引きちぎられた男のモノ。

それに続いて悲鳴を上げたのは雛山だった。

笑いながら人の髪を引きちぎる林檎は、ホラーさながらの恐怖。

しかも林檎は抜いた髪を、男の顔に「陰毛爆弾!!」と笑いながら投げつける。

雛山はちょっとばかし、男に同情すらしてしまう・・・


「ほらっ、ピヨちゃん。逃げるよぉ〜〜〜!!」


もう呆然とするしかない雛山の手を掴み、走り出す林檎。

さ・・・・サイコパス!?

腕を掴んで走る林檎の後ろ姿を見ながら、狂気じみた行動をした林檎に少し恐怖を感じる雛山。

背後から男の怒号が聞こえ雛山は内心ヒヤヒヤとするが、前を走る林檎は楽しそうに笑い声を立てている。

助けてくれたのは有り難いが・・・・いつも明るくキャッキャしていた林檎のイメージがガラリと崩れた出来事だった。



121へ続く

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