第118話

竜一の目の前で、雛山に告白させる明。

ゲイである雛山に想いを寄せられていると知った竜一は・・・



118



伊切ステーキ



康気が俺の事が好き!?


本人を目の前にして、まさかの衝撃暴露をする明に竜一の思考が追いつかない。

電話の向こうの雛山も、言葉にならない声を発している。


「なななななななな〜に言っでですかぁ〜」


青年がやっと発した言葉も、狼狽え過ぎてカミカミだ。


「聞こえなかったのか?お前が竜「聞こえてますよ!!!」なら聞き返すな」


「いや・・・聞き返してる訳じゃなくて」


ワザとシラを切っている明は、雛山の反応にニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。

竜一は雛山が哀れに思いつつも、相手が自分に好意を寄せている事に頭を抱える。


「なら食事に行く相手は枇杷野郎じゃなくて、竜一だろうが」


「そっ・・・そんな事言っても。連絡先も知りませんし」


「なら、教えてやるよ」


「もう、明さん。勝手に個人情報教えちゃ駄目ですよ」


「今すぐ、あいつから許可貰ってやるよ」


明はニヤリと笑い、頭を抱えている男に視線を向ける。

こいつ・・・本当にいい性格してやがる・・・

そう言ってやりたいが、ここで声を発せれば電話の向こうの青年はパニック状態になりそうだ。


「それでも・・・駄目なんです・・・」


「あ?何で?」


「前に言ったじゃないですか。亀田さんが言ったこと・・・ゲイである僕にそういう目で見られたくないって。忘れたんですか?」


・・・・・?

沈んだ声でそう言っている青年の言葉に、竜一は頭をかしげる。

そんなあからさまに、相手を傷つけるような事を言ったのか・・・竜一としては記憶にない。


「だから食事なんて行けないし・・・顔も合わせられないです・・・」


「ふ〜ん。好きだと自覚はしたんだな」


「・・・・・・・・・・」


「それでも期待はしてんだろ?」


「期待!?そんなのしてませんよ!」


「なら、何で吉田ボクシングに通い続けてんだ」


「それは」


「普通のスポーツジムに比べればかなりハードな運動量だぜ。同じ料金払い続けるなら、別にスポーツジムでも充分だろう。それでもお前が吉田に通い続けてるのは、あいつと繋がりを断ち切りたくないからじゃないのか?」


「う・・・・」


言葉に詰まる雛山。

竜一はこれ以上は聞いてられないと、スマホのマイク部分を手で抑える。


「おい、それ以上は追い詰めるな」


「何、可哀想に思ったのか?」


「兎に角、止めろ」


「わ〜〜たよ」


強い口調で止めに入った竜一に、明は男の手をスマホから払いのける。


「いいか、枇杷野郎とは食事に行くなよ」


「・・・・それは・・・」


話題を最初の話に戻す明に、竜一は漸くホッと胸をなでおろす。


「嫌ですっ。もう約束してるんです!だから行きます」


「はぁ〜〜!?お前、オレの言うこと聞けね〜のか!?」


強気な口調で拒否した雛山に、明は本当に頭に来たのかガン!と拳をテーブルに打ち付けると噛み付くように声を荒げる。

むしゃくしゃして相手を殴っていた高校時代の明を思い出し、竜一は心臓がヒヤリとした。

電話の向こうの雛山の事を思い、スマホを手繰り寄せると素早く通話ボタンを切る。


「おい!何勝手に切ってんだ!!!」


室内の空気がビリビリと振動するほどの、明の怒号。

竜一は個室と言え流石にまずいと思い「おい、ちょっと落ち着け」と相手をなだめる。

そんな時、室内の様子を伺うように出入口に顔を出している店員と目があった。


「わりぃな、落ち着かせるから」


と出来るだけ笑みを作り、店員に向かってそう伝えた。


「おい、お前・・・場を弁えろよ。何でそんなにカリカリしてんだ」


「クソムカつく・・・・」


鼻息荒く忌々しげに吐き捨てる明に、これはただ事ではないと竜一は悟った。


「何に対して苛立ってんだ?その枇杷って奴に問題でもあるのか?」


最初から最後まで、雛山が食事に行く事を止めようとしている明。

その目的の為に、竜一への好意を出しに使われた気がする・・・


「大ありなんだよ」


「なら、それをそのまま伝えりゃいいじゃねーか・・・あんな・・・・俺を引き合いに出さなくてもよ・・」


自分で言ってて、胸の奥底がムズムズとしてくる。

相手が女性ならば、こんな複雑な気持にはならない。

だからといって、マジか!と軽く冗談にするような気持でもない。

相手があの雛山だと思うと、妙に緊張を感じてしまう。


「言えたら楽だろうさ」


「何なんだよ、勿体ぶりやがって。相手はそんなにヤバい奴なのかよ、犯罪者かなにかか?」


「・・・・まぁ、そうだな」


「はぁ!!?」


ハッキリ言わない明に、嫌味で言った冗談。

言いづらそうに肯定した相手に、竜一はオーバー気味に驚く。


「なら、康気にちゃんと言えよ!」


「あいつにそれを言ってみろ、変に相手を意識して接客どころじゃなくなるだろうが」


「なぁ・・・犯罪者なんだろ?それが解ってて、入店させてるのかよ」


「そんな簡単な話じゃねぇ〜よ」


「意味わかんねぇ・・・・。俺には話せよ、お前の叔父の店とは接点もねぇ〜んだから」


「あの〜〜〜、お料理お持ちしても宜しいでしょうか?」


個室の出入口から遠慮がちに声が掛かる。

先程の明の怒号で警戒してしまっている店員は、室内に入ることを躊躇っていたようだ。


「あぁ、持ってきてくれ」


そう言った竜一に店員は「はい」と返事を返し、姿を消した。


「兎に角、先に飯にしよう。な?」


この話は一旦保留にし、今は食事に専念したい。

色々と爆弾を放り込まれ、竜一の気持も落ち着かず考える時間が欲しかった。

美味しい肉を食べれば、目の前の相手も少しは落ち着きを取り戻すだろう。


そこへ、カラカラと配膳カートを押しながら入ってきた店員。

未だムスッとしている表情の明に、「ほらっいい匂いだな」と機嫌を取るように話しかける竜一。

テーブルの上に次々と置かれるご馳走に、胃液が出る程の食欲がこみ上げてくるが・・・・・

いざ食事を開始すると、先程の雛山の告白が気になりすぎて肉の味がよく解らなかった。



119へ続く

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