第109話

初めてお泊りの日。

目覚めた明は恋人の寝顔に、幸せを噛みしめる。



109



薄っすらと瞼を開ければ、薄暗い部屋の中。

いつもカーテン全開で寝ている明は、あれ?と異変に気付きパチリと目を開けた。

すると視界いっぱいに広がる、男の顔。

息も掛かりそうな程の距離の白田の寝顔に、あぁ泊まったんだっけと今朝の事を思い出す。

いつも明の家に入り浸っている白田は、次の日が休みだろうが泊まらずに帰っていた。

これは明の方から切っ掛けを作らないと、次のステップにはいかないな〜〜と思っての宿泊。

昨夜は雛山の件で衝撃的な内容を耳にし、そしてシャンパンも2本空けた事でいつもより疲れがきていたのだろう。

寝るつもりがなかったのに・・・・いつも彼が寝ているベッドに横になると、彼の香りに包まれて気持が安らぎ・・・そして記憶が途切れた。

折角風呂場で準備を済ませたのに・・・・何事もなく朝を迎えてしまった。


いや・・・もう昼か・・・


スマホが手元になく、時間が確認出来ない。

いつも必然的に決まった時間に起きるので、昼の12時頃だとは解っているが・・・・寝室にある時計を探そうとするも、白田に抱き込まれてしまって首を動かす事も出来ない。

明は時間を気にするのを諦め、男の寝顔をじっと見つめる。

セットしていない髪はキリッとした眉を隠し、少し幼く見える。

優しげな瞳は見えないが、瞼を閉じれば意外とまつ毛が長いのだと気づいた。

すっと伸びた鼻筋に、何かいい夢でも見ているのか薄い唇は少し微笑んでいるようにも見える。

初めて恋人と迎える朝。

目を覚ました時に相手の顔が見れる事が、これほど幸せで胸が一杯になるなんて知らなかった。

これからも、もっとこんな時間を2人で過ごせるのだろう・・・・すう考えれば、幸せすぎてジーンと胸が熱くなる。

一度目を覚ませば、二度寝はしない明。

だがこのまどろんだ時間をもう少し味わいたくて、自ら白田の方へと体を寄せると再び瞳を閉じた。

微かに聞こえる、相手の鼓動。

それが自分の鼓動と交わって、一つになるような感覚になる。

規則正しい心臓の音と、男のぬくもり、そしてホッとする香り包まれて明に再び眠気が訪れてきた。



それから2時間が経ち、明が再び目を覚ました。

腹が減った・・・・

いい加減起きて、食事をしたい。

だが相変わらず、身動きがとれない状況だった。

私生活はキチンとしているのだと思っていた白田は・・・・寝起きが悪い。

抱き枕のように明の体を抱き込んだ手は中々解けず、明が強引に体を動かして何とか脱出。

それでも目を覚まさない男に、少々呆れた。

そんな男をベッドに残したまま、明は寝室から出る。

鞄に入れっぱなしのスマホを取り出すと、そのままリビングのソファに腰掛けた。

そこでローテーブルに置かれていた物に気がつく。

それは、手作りのサンドイッチとサラダ。

すぐに食べれるようにとラップが掛けられ、男の気遣いを感じた。

いくらなんでも恋人とはいえ、初めて訪れた家で勝手に冷蔵庫を開けるのが抵抗があったので、これは助かる。

そして自分が寝起きが悪いと見越しての、明へのメッセージが書かれたメモもあった。


『珈琲はサーバーのボタン押せば、出るようにセットしてるからね』


寝起きは悪いが、やっぱりキチンとしている男。

明はふっと笑い、何とも甘酸っぱい気持ちになりつつキッチンへと向かう。

よくある珈琲メーカーを見つけ、そして既にマグカップが注ぎ口に置かれているのに気がついた。

明が好きな色のグレーのマグカップ。

しかも細やかな程小さな【A】の金文字のイニシャル入り。


やばい・・・顔が緩みっぱなしになりそう・・・


そう自覚して、無理矢理に口元を引き締める。

以前、白田用の食器を用意したことで、「抱きしめたい」と言っていた男の事を思い出した。

今ではその気持が解る。

相手の家に自分の物があるのは、甘くも擽ったくも感じ・・・そして物凄く嬉しい。

明の家に白田の物が増えるように、この場所にも明の物が増える・・・・・。

今日泊まると直前に言ったにも関わらず、既に自分の物を用意してくれていると解っただけでキュンと胸が疼く。

そして明は珈琲を淹れずに、その場を離れた。

ドタドタと足音を立てながら、向かうは寝室。

走り寄ったベッドに飛び乗ると、仰向けで寝ている男の上へ乗り上げる。

ギシリと大きく軋むベッドと、体に伸し掛かった明の重みで流石の白田も顔を歪ませて瞼を開けた。

馬乗りになった明は、男の顔を覗き込むとニンマリと不敵に笑う。


「いい加減に起きろよ」


「ん・・・・おも・・い・・」


未だ寝ぼけているのか、腕で目を覆う白田。

唸るように言葉を発する声も、いつもより低く掠れている。

何だかそんな男が新鮮に感じてしまい、悪戯心がムクムクと湧き上がる。

明はそれならこれはどうだと、尻の下敷きにしていた男の腹の上から股間へと移動する。

そして気づいた・・・男の自然現象がそこで起きている事を・・・・

これは好都合とばかりに、明は自分の体を揺らす。

途端に白田は覚醒したように、ビックリした顔で飛び上がった。

だが明が上に乗っていては起き上がれず、呆然とした顔で自分の股間の上で腰を揺らしている明を見上げる。


「ちょっ・・明っ!何してるの!?」


状況が解った白田は、みるみる顔を赤らめて狼狽え始めた。

その様子が、明の笑いを誘う。


「お前こそ朝からこんなに元気にさせて、ナニ考えたんだ?」


「そっそれは、自然な事で!」


「ふ〜〜ん・・・・なら、沈めないとな〜〜〜」


この状況が楽しくて仕方ない明は、以前白田にやられて恥ずかしかった行為をやり返してやろうかと企む。


「明、退いてくれるかな。トイレに行くから」


「遠慮するなよ。抜いてやるよ・・・」


ニンマリと意地悪な笑みの明は、そのまま布団を持ち上げると自ら潜り込む。

男の焦った声を耳にして声を上げて笑いそうになるのを必死で堪え、男の下着に手を掛けズルリと下へ下ろした。



110へ続く

迫るのは平気なのに、迫られるのが弱い白田さん。

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