第84話

竜一にランニングシューズを選んでもらっていた雛山。

お会計が気がかりだったが・・・


84



スポーツ用品店



「どうだ?」


「はい、ピッタリです」


ソファベンチに腰掛けて居る雛山。

その正面で膝をついている竜一は、雛山が履いているスニーカーの紐を結ぶ。


「一度歩いてみろ」


男の言葉に頷くと、ソファベンチから立ち上がりスニーカーの履き心地を確かめる様に歩き始める。

もうこれで、何足目になるだろう。

ソファベンチの周りには、無数のスニーカーが置かれている。

雛山自身の好みのデザインもあるが、それよりも足にピッタリとし通気性やクッション性、軽さも必要と色んなタイプの靴で試してみた。

今雛山が履いている靴でほぼ決まり、サイズ違いを出してもらったところだ。


「軽くて、歩きやすいです。これにします」


満足気にそう答える雛山。

だが心中では、これ・・・いくらだろう・・・・と金額が気がかり。

給料日前、何とか2万を財布に入れてはいるが・・・スポーツ用品はピンからキリまである。

竜一が持ってきた靴を片っ端から履いては歩きを何度も繰り返し、金額なんて一々見てられなかった。

全て竜一が勝手に選んだわけではなく、雛山の好きな色やデザイン等も事前に聞いて選んでくれていた。

ここまでしてくれたのだから、多少高くても買う気ではあるが・・・2万以内で収まってほしいが、少しでも多くお釣りも欲しいところ。

残金で給料日までの4日間、乗り切らなければならない。

靴は気に入ったが金額面で不安な雛山はソファベンチに再び座り、履いてきた靴に履き替える。

竜一は雛山が選んだ靴を手に、近くの店員にそれを渡すと「そこで待ってろ」と雛山に声をかけて店員と共にその場を離れた。


「?」


てっきりこのままレジへと向かうのだと思っていた雛山は、首を傾げながらも男の指示に従う。

手持ち無沙汰でスマホを手にして、LINEチェック。

すると明からLINEがきていた。

最初に目に飛び込んできたのは、おしゃれで写真映えするグランピングの添付写真。


「すごいなぁ〜。こんな所行きたいなぁ」


日曜日は予定があると言っていた明。

今ここに来ているのかと理解したが・・・・一体誰と来ているのだろう。

写真には人物は映っていないが、影が写っていた。

丁度太陽を背にして、写真を撮っているのだろう。

スマホを手にして立っている影に・・・その横にもう一つ背の高い。


「白田さんと!?」


まさかデート!?

えっ、2人はもしかしてのもしかして・・・・・付き合ってる!?

だがそう考えれば、自然と納得するところがある。

先週のあの出来事から、2人の様子が少し違っていた。

それは微かな変化で、気の所為かなとも思っていた。


「あぁ・・・僕、デートの日に誘おうとしちゃったのか」


何とも間の悪い。

だが、こうやって恋人として2人で出かけているのはとても微笑ましい。

今頃白田は、幸せそうな顔で居るんだろうなと想像してしまう。

いつもは完璧で爽やかな顔が、明とのお出かけでニマニマが止まらないのが予測出来て、思わず雛山も口元もニマニマしてしまう。


『良いの買ってもらったか?』


そして添付写真の下のメッセージ。


「どういう意味?」


首をかしげる雛山の元へ、竜一が戻ってきた。

手には大きな袋を手にしている。


「ほらっ」


「え・・・・・」


さも当たり前のようにその袋を差し出す男に、理解が追いつかない。


「お前のだ」


「え!?ちょっと待って、お金は!?」


「あいつから何も聞いてないのか?」


「明さんですか?・・・・今こんなメッセージ来てましたけど」


とスマホの画面を見せる。


「先週のこと悪かったな。これでチャラにしてくれ」


「・・・・・・・いや、僕にじゃなくて明さんに言ってくださいよ」


「あいつが言ってたんだよ。先週の事、悪いと思ってるなら今日は全額出せって」


「だ!?」


ビックリしすぎて思わず、「だ」と口にしてしまった雛山。

竜一に事前に金を払えてと手配していた明。

安い金額でもないのに、それを払ってしまう竜一。

そんな2人のイケメンぷりに、開いた口が塞がらない。


「ぷっ、なんつ〜顔して固まってんだ。ははははは」


雛山の表情がおかしかったのか、吹き出し笑う竜一。

それにハッとして、慌てて口をキュッと閉じる。


「兎に角。前の事もあるから、これは受け取ってくれ」


さぁ受け取れとばかりに、袋を差し出す竜一。

良いのかな・・・と躊躇するも、雛山はその袋を手にとった。


「ありがとうございま・・・す?」


手にした袋が異様に重い。

それに靴が一足入っているにしては、袋のサイズも大きい。

雛山は不思議に思い、袋の中を確認するように開く。


「!?えっこれ」


中に入ってた物が何なのか判明し、目の前の男を見上げる。


「靴だけしか買ってやらなかったって、あいつからネチネチ言われたくないからな」


靴が入った箱と共に入っていたのは、ウェア。

ちゃんと広げて見てはいないが、最初に伝えていた雛山の好きな色が見て取れた。


「ここまで揃えたんだ、三日坊主で終わるわけないよなぁ?」


ガシリと片手で掴まれる雛山の頭。

雛山の意思を確認するように、男の顔が近づく。


「は・・・はいっ!続けれます!」


買ってもらったモノを胸にギュッと抱え、三白眼の瞳を見つめてそう答える。

男はその返事に満足したように、ニッと目を細めて笑う。

そしてくしゃくしゃと乱暴な手つきで、雛山の髪を撫でた。

男の笑顔と、男の大きな手。

トクントクンと胸から甘い鼓動が全身に響く。

熱くなる頬に、ぼ〜とする頭。

身体を支配する理解できない症状に雛山は戸惑いながらも、男の笑顔から目が話せなかった。



85へ続く

明の事イケメン!って雛山君思ってますが、本人一切金出してないからどうなんでしょうか。

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