第83話
初デートに明を連れてきたのは、キャンプリゾート地。
自然の中で白田は作ってきた愛情たっぷりのお弁当を広げる。
83
高原リゾート
都内から外れた場所にある、高原リゾート。
ここは小さなペンションもあるが、キャンプ施設もある。
大きな湖を囲む緑豊かな場所は、訪れた人の心を穏やかにするだろう。
白田はここの施設に、グランピングの予約を入れていた。
手ぶらで来ても、全て施設が用意してくれる仕組み。
ワンポールテント(サーカステントみたいなの)の中にはソファやベッドがある他、電化製品も置いてあり不便な事は一切ない。
テントの外でもBBQや焚き火が出来、日帰りでの利用も多い。
この場所なら、明も周りを気にせず落ち着けるはず。
なんなら過去の事を打ち明けるのは別の日でも構わない、せめて興信所騒動の気疲れをここで癒やして欲しいと思った。
「すげ~な・・・・・キャンプなんて初めてだけど、快適過ぎて住めそう」
物珍しくテントの中を見て回っている明。
目を輝かせてテンションが高くなっている彼を見るのは、かなり珍しい。
そんな彼の後ろ姿を見て、白田は可愛いなぁ~~と鼻の下を伸ばす。
「お腹すいたでしょ?ここで作る事も考えたんだけど、到着がお昼すぎると思ったからお弁当作ってきたんだ」
外に設置してある、4人掛けのウッドテーブル。
手に持っていた荷物をそのテーブルに置くと、すぐに明がその場にやって来た。
「腹減った」
包からお弁当箱を出す白田の手元を、子供のように覗き込んでいる。
そんな可愛い恋人に、今日一日で顔が変形するんじゃないかぐらいにニヤニヤが止まらない。
「ポテトサラダは?」
弁当を広げる手元から視線を上げて、白田の顔を見て問い掛けてくる。
「もちろん、入れてるよ」
そう言いながら、二段になっている重箱の蓋を開けた。
中にはお弁当には定番なものから、以前明が美味しいと言っていたおかずまで入っている。
彼はお弁当の中身を確認すると、待ちきれないとばかりに椅子に腰掛けた。
そんな恋人の様子にクスクスと笑いを漏らす。
取皿や箸をセットし、白田も正面の椅子に腰掛けると「さぁ食べよう」とポテサラをじっと見下ろしてる彼に声を掛けた。
誰も邪魔も入らない、食事。
隣接しているテントは少し離れた場所にあり、普通の音量で話す分には部外者の耳に入らない。
自分が作った料理を美味しそうに食べる明。
ついつい手を止めて彼の動作をじっと見入ってしまう。
過去の恋愛は一体何だったのかと疑問に思うほど、今まで味わったことのない至福の時間。
「あれ・・・・味違う」
ポテトサラダを口にした明は、箸を持つ手を止めて首をかしげる。
「この前と味を変えたんだ、柚子を入れてマヨネーズに出汁を少し足してね。もしかして前の方が良かった?」
「ううん。これも美味い」
一瞬お気に召さなかったのかと不安になったが、再びポテトサラダをパクパクと食べ始めた明にホッと胸をなでおろす。
「あぁそうだ。オレ、フスカル辞めるから」
「え!?いつ!?」
突然の明の告白。
そこで、そういえば期限付きだったと思い出す。
期限付きだったからこそ、明との恋人のフリをしていた。
その事をすっかり忘れていた。
「今週、バイトの面接が入ってるから。それで決まれば」
「そうなんだ・・・・」
それなら他の客にヤキモチを焼く苦労はなくなる。
だけど、複雑。
あそこに行けば、明に会えると思ってたのに・・・・
「・・・・何、喜ぶかと思ったのに」
どよんと沈んでいた白田の様子に、予想していた反応ではないと訝しげな視線を向ける明。
「いや、喜んでるよ。喜んでるけど、ほら・・・・あそこに行けば明と会えたからさ」
「はぁ・・・・」
肩を落とし、盛大にため息を付かれた。
呆れられた?
「お前なぁ、あそこで会うこと事態がおかしいだろう。あそこで金落とされるのが、オレには耐えられね~んだよ!」
お箸を握った手をガンとテーブルに叩きつけて、捲し立てる明。
神経質そうな眉を吊り上げて、怒っている・・・・だが次には声量を下げ、言葉を詰まらせなながらこう続けた。
「今は会うのに、理由なんて必要なくなったんだから・・・・・好きな時に・・・・会えばいいだろう」
モゴモゴと口にしながら、照れた様に頬が赤くなる。
そんな彼に「可愛い!!」と口から出てしまいそうになり、白田は自分の口元を手で抑えながら何とか「そうだね・・」と返事をした。
またここでも、明の意外な一面。
明なりに真剣に過去と向き合い自分と付き合ってくれていると思っていたが・・・・・思った以上に自分の事を想ってくれているのだろうと自覚した。
フスカルで働き続ける事が、何も言わない白田にとって良くないと考えてくれていた。
明が居ない席で雅は「変にバイト入れると売上下がりそうだから、このままアイツを使い続けるか」と客との会話で話していた。
だから明の方からバイトを入れろと、催促したのではないだろうか。
決して「好き」という言葉を出さないし、名前で呼ぶ事を未だ拒否している明だが、ちゃんとそこに「愛」があるのだと思うと、言葉が無くてもと満足してしまう。
「そうか、それじゃこれからは明の家に行ったりしてもいいだね。あっけど、そんなに頻繁に行ってもいいのかな?太郎さん変に思わない?」
親へのカミングアウト。
それが同性と付き合う時の、一番の問題。
何れは太郎と向き合わないと行けないが・・・・
「あぁ知ってる」
「え?」
「昨日の夜、言ったから」
「えぇぇぇ!?」
そんなアッサリと!?
今朝、普通に顔を合わせてしまったし・・・・その時、一言でも言っておかなくちゃならなかったんじゃ。
だけど、太郎は至って普通に見えた。
「え、ちょっと待って、気持ちが追いつかない・・・その・・・太郎さん、怒ってないなかったの?」
「今朝、会っただろう」
「うん・・・普通だったけど。え・・・だけど・・・駄目だ頭が回らない」
「オレが決めた相手だから、良いよって」
『明君が、決めた相手だから良いよ』
そんな事をニコニコして言っている太郎の顔が思い浮かぶ。
やっぱり、仏の様な人だ・・・・・。
どこまで懐が広いのかと、太郎の寛大さに呆れつつも崇めたくなる気持ちが湧き上がる。
「だけど、それならそうと言ってよ。ピシッとした格好で、ちゃんとご挨拶兼ねて太郎さんと会いたかった・・」
「あのな〜〜〜〜。嫁に行くわけじゃないだから、そんな事するなよ」
「気持ちだよ。だけど・・・ちゃんとご挨拶はさせてもらうからね?このまま何も言わないなんて、俺には耐えられないから」
「ん〜〜〜」
「はぁ・・・心臓止まるかと思った」
未だドキドキしている胸を抑えて、はぁ〜と深呼吸する白田に「大げさ」と笑う明。
大げさじゃないよ・・・と言いたかったが、それは口に出さなかった。
それはいち早く父親にカミングアウトした、彼の「愛」を感じたからだ。
思いっきり拍子抜けしたが、これで太郎公認の仲となった。
帰りのサービスエリアで、太郎にお土産を買って帰ろう・・・・・
それから一度家に上がらせてもらい、ちゃんとご挨拶をしよう。
『息子さんとお付き合いさせて頂いてます』
相手は知っているとはいえ、白田は帰るまでに何度もそのシーンをイメトレする事となった。
84へ続く
あっさり・・・太郎へのカミングアウトしてしまいました。
太郎さんなら「うんうん」って全てを受け入れそうなので本編では入れませんでした。
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