第62話

竜一と親密な仲に、悶々とする白田。

そんな中、竜一と2人きりになり・・・・・



62



吉本ボクシングジム


室内が見渡せる場所にある、ベンチ。

明がロッカールームに消えて、白田と雛山はその場所に座っていた。

顔見知りになったジムの人達から、軽く挨拶をされ「白田さん、まだうちに入らないの?」と軽く冗談も言われたりした。

そして明の手によって、七三分けを崩された雛山。

ヘアクリームがたっぷり付いた髪はいつものようなふんわりストレートにはならず、寝癖のように毛先があらぬ方向を向いている。

七三分けと爆発したような寝癖・・・どちらもどっちな状態だ。

髪の毛が収集つかず臍を曲げている雛山に、全く気遣う余裕がない白田。

思うことは、ただ一つ。

明が「竜一」と名前呼びした男の事。

昔からの知り合いだと2人の会話で察したが、お互い遠慮のない態度にどれだけ親密な関係なのかと気になってしょうがない。

明にどういう関係なのかと問いただしたいが、そんな権限は自分にない。

お互い相思相愛なのに、恋人じゃない中途半端な間柄。

確かに明の過去が解ったとしても、彼の交友関係までは未だ知らない。

今も連絡を取り合っている大学の友人が居るとか、昔の恋人の事とか・・・・・考えれば考えるほど、気持ちが重くなる。

明の気持ちが固まってから交際をと思っていたが、あの男の存在でそんな悠長なことを言ってられない気がしてきた。

ムス~としている雛山と、悶々としている白田が座っているベンチに歩み寄ってくる影。

それに気付いた白田は顔をあげて、相手を見る。

とたんに放り投げられる、ペットボトルのお茶。

それを難なくキャッチする白田。


「さっきは悪かったな」


そしてポカンとしている雛山には、手渡しでお茶を差し出す竜一。


「俺は馬鹿だからよ、一度頭で考えてから発言するなんて事出来ね~んだ」


「い・・・いえ、僕も変な格好で来ちゃったみたいですし・・・」


あれほど周りから弄られれば、流石におかしいと自覚したのだろう。

雛山はそれでも少し腑に落ちないような表情で、男の手からお茶を受け取る。


「俺の自己紹介がまだだったな。俺は亀田竜一、最近このジムに移籍したんだ」


「亀田竜一・・・・?」


男の名前を耳にし、白田は反応を示す。

彼の名前を少し前の新聞で見た。

元々格闘技には興味がないので、ボクシングの階級や試合構成等はそこまで詳しくない。

彼の事が書かれていた記事は、元いた所属ジムが無くなる事でどこへ移籍するのかという内容だった。

新聞の記事になるぐらいなのだから、竜一がそれほど注目されるボクサーだという事は解った。


「え・・・・そんなに凄い人なんですか?」


唖然としている白田に、雛山は2人の男を交互に見る。


「大したことねぇ~よ、まだまだ目指すところは多いからな。それにあいつ・・・格闘技に興味がないからって、俺がボクサーだって事再会するまで知らなかったしな。一般の人間にはまだ名も知れ渡っていないんだしよ」


確かに世界で通用しない限りは、一般の人まで名前は届かないだろう。

それでも新聞に名前が出ること事自体、白田にとってはじゅうぶん凄いと思う。


「ピヨちゃん、明が呼んでるぞ」


「え?」


オーナーが3人の側へと近づいてくると、雛山においでおいでと手招きする。


「ちょっと彼を借りるね」


そう言って、ベンチから立ち上がった雛山の肩に手を添えロッカーへと誘導していった。

取り残された白田は、立っている竜一に視線をあげる。


「明とはどういう関係なんですか?昔からの知り合いみたいですけど」


「高校時代の友人だ」


「!?」


男は白田に答えながら、雛山が座っていた場所に腰を下ろす。

高校時代・・・・あの事件があった時。

と言うことは、あの事件を知ってる。


「明と、同じクラスだったんですか?」


「いや、違う高校だったし、1学年俺の方が上だ。仲が良いって言っても・・・・半年程しかつるんでなかったしな」


2人の関係性が少し見えてくる。

だが学年も学校も違う2人が、そこまで仲良くなれるのかが疑問だ。


「学校が違って学年も違うのに、どうやって知り合ったんですか?」


「俺の姉貴の紹介だよ。俺より6歳年上なんだけどよ、当時明と付き合ってて話が合うかもって紹介された」


「!?」


明・・・そんな・・・年上の人と・・・

高校生と言えばまだ未成年、7歳も上の人と付き合う事で問題は無かったのだろうか。

だが10年前は、未成年との交際は今ほど問題視されていなかったと記憶している。


「あいつ、家に全く帰らない不良でよ。姉貴の寮にずっと寝泊まりしてたんだぜ。まぁ・・・俺でもあんな息苦しい家は、ゴメンだな」


雅が縁を切った実家。

そして噂では明と太郎を追い出した、倖田という家。

白田は頭の中で、以前知った事件の事と竜一が話す内容をすり合わせていく。


「さっき明と再会したと言ってましたが、暫く会ってなかったんですか?」


「・・・・・・・」


今まで普通に答えていた竜一は、突然黙り込みじっと白田を見る。


「さっきから訊かれるばっかだけどさ、白田さんって言ったか・・・俺もあんたに興味があんだけど?」


ただの興味本位で訊かれいるわけではないと悟ったのか、三白眼の目を細めて白田の目を見据える。


「何ですか?」


あまりいい空気とは言えない雰囲気に、それでも白田は余裕のある笑みを口元に乗せる。

だが、目は笑っていない。


「あんたみたいな人と、あいつが仲良しなのが不思議でよ」


「そうですか?雛山は不思議じゃないんですか?」


「昔にも似た奴がいたさ。虐められてたのを助けられて、金魚のフンみたいに明の後をついて回ってた奴がな。ただ、優等生みたいな白田さんとあいつが、休日に合うほど仲良しなんて腑に落ちないだよな。どっちかって言うと、あいつの嫌いなタイプだからさ」


竜一の最後の言葉には、白田の口元の笑みも消え失せる。

間違いなく白田を煽っている男は、表情をなくした白田にニヤリと意地悪そうに唇を歪ませる。


「明の事を何でも知ってると思われてるようですか、たった半年程しか付き合いはないんですよね」


「短いけど、深くて太い付き合いだったからな」


「へぇ〜そうなんですね。ですが昔の事ですよね、今の明の事は然程知らないでしょうに」


「またこれからも深く太く付き合うさ。ま〜〜けど、これからは永い付き合いになりそうだけどな〜」


「明が嫌ってると言うより、亀田さんが俺みたいなタイプが嫌いなんじゃないですか?まぁお互い様ですけどね」


今度は竜一の表情が無くなる。

無表情の男はお互いの顔を黙ってじっと見据える。

ベンチ周辺の気温が一気に下がったようで、近くで筋トレをしていた人間は思わず身震いした。




63へ続く

最初は仲が良かったのに、書き直すと仲悪くなってしまいました・・・・・あれ。

竜一は、明の事を大切に思ってますが恋愛感情は無いのでご安心を!

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