理想のカップルと一緒②


理想のカップルと一緒 ②



先週OPEN仕立てのカフェは木材の温かみと、青々と生い茂る緑で心身ともに癒やされるような雰囲気。

席と席の間には植物で作られた衝立があり、隣の席の人と目が合うことはない。

ちょっとした個室の様になっていて、居心地のいい店内。

そして由美達女子の席の隣は・・・・白田と明が席についた。

衝立のお陰で、向こうにはこちらの存在は知られてない。

由美はどうしたものかと考えながら、黙々とランチを食している。

鷲森と茶月は、嬉しそうな顔で顔を見合わせている。

何せ先ほど話していた2人が、隣にいるのだからそりゃ〜テンションもあがる。


「お腹すいたね。明、どれ食べる?」


思いの外、白田の声がクリアに聞こえてくる。

流石に衝立だけでは、会話は遮断してくれない。

2人の女性はお互いに顔を見合わせて、ふふふと小さく笑っている。

何時もなら「愛野さん」と呼んでいる白田が、今は名前呼び。

明と白田の仲の良さに、2人とも嬉しそうだ。


「ん〜〜・・・これも良いけど・・・こっちも美味そうなんだよなぁ」


「それじゃ、2つ頼んで半分個しようか」


「ん」


そうね・・・恋人なら普通の事よねぇ・・・。

だけど、母と息子のようにも感じるんですけど・・・・・

由美はお尻がムズムズする感覚に顔を顰めながら、サラダをモサモサと食べる。


「すみませんっ。ランチのAセットと今日のおすすめパスタセット。飲み物は食後にアイスコーヒーと、ホットカフェオレでお願いします」


白田が店員に注文するのを黙って聞いている女子3人。

明に飲み物を聞かずに注文を通すあたり、恋人の好みは熟知している。


「デザート頼まないのか?」


「どうしようかなっと思ったんだけど、明が食べれそうなの無さそうだから」


「別に今更・・・」


「今日は止めておくよ、夜も一緒にご飯食べるでしょ?」


ピコンっ

由美のスマホの通知音が鳴る。

ドリアにハフハフしていた由美は、テーブルの上に伏せていたスマホを手にして確認する。

グループラインのお誘い。

相手は目の前の茶月だ。

目が合うと、彼女は自分のスマホを指差して「入って」と声に出さず口だけ動かす。

2人は色々、由美に聞きたいことでもあるのだろう。

だが声に出せない状況に、グループを作ってLINEの中で会話をするつもりらしい。

由美は仕方がないと、グループに参加をした。


鷲森『愛野さん、口調普段と違いません?』


由美『オフレコでお願いします。これが彼の素です』


茶月『ランチとディナーも一緒にって、凄く仲が良いんですね。良すぎるぐらいかも』


由美『そうね、同じ歳だからね』


フォローしきれてない由美の返し。

これはバレるのも時間の問題だろう。

もう一層のことバレてもいいだろうと思う反面、明ならまだしも相手は白田の会社の人間で大事になるのは白田の方だ。

バレるのは避けたほうがいいかもしれない・・・ここは、明にコソっとLINEで知らせようと由美はトーク履歴から明を探す。


「さっき行った店戻ってもいいか?」


「あぁ、やっぱりあの服気になったんだ。いいよ、食べたら戻ろうか。だけど・・・襟口が少しキツイって言ってなかった?」


「・・・・・お前のせいだろう・・」


「ん?何が?」


「・・・・・だ・・」


2人の会話を黙って聞いている、双葉組。

途中明の声が小さくなり、思わずカップルが座る方へと体が傾きじっと聞き耳を立てている。

そんな中、明に『黙ったほうがいい』とメッセージを打ち込む由美。


「ごめん、もう一回言って?」


「だから・・・・だろ」


「ん〜?聞こえないって」


「お前が痕を付けまくるからろうがっ」


隣からスマホの着信音が聞こえないという事は、明は全く気がついていない。

由美は「はぁ〜」と頭を抱える。


茶月『痕って?なんだろう』


鷲森『多分なんだけど・・・・キスマークの事?』


茶月『(驚きのスタンプ)』


由美『あぁいや〜そうとも限らないって、愛野君ボクシングジムとか通ってるし。最近、白田さんも出入りしているみたいよ』


ちょっと誤魔化しきれてない気もするが、これが由美の精一杯のフォロー。

もう一度明のLINEに『気付け!!しゃべるなって!』と送る。


「何度も何度も、見えるところにするなって言ってんのによ・・・・ん?」


明がスマホに気がついたようだ、由美のメッセージに既読が付く。


「俺も気をつけてはいるんだよ?」


明『あ?』


白田が話している間に、明からのメッセージが入る。

由美は急ぎで『隣に人と居る』と打ち込む。


「だけどさ、つい夢中になっちゃって」


「おい・・・」


「明の責任でもあるんだよ」


「ちょっと口閉じろ」


「あんなに可愛く、もっとってお強請り「黙れって!!」・・・?」


ガタンと音がなり、明の大きめの声。

慌てて席を立ち、白田の口を塞いだようだが・・・・もう遅いようだ。

双葉組は、緩む口元に手をあてて顔を赤らめている。


由美『はい。アウト』


ゲームオーバーの意味を込めて、明にLINEを送る。

つ〜〜か昼間のカフェでなんつ〜話をしてるんだと、逆ギレしたい気持ちもあった。



******



四人席から、テラスにある大きなテーブル席へ移動。

女子3人と対面して座る、男2人。

3人となった双葉組は、ニコニコと笑い。

フローラ組は、お互い睨み合っている。


「大丈夫です。私達口外しませんし。ね?茶月さん」


「はいっ勿論です!!」


「そうしてもらえると、有り難いよ」


お付き合いがバレても、白田は余裕の表情。

茶月と鷲森は、男同士という点は全く気にしていないようだ。

それどころか惚けた顔で、目の前の美男子2人を鑑賞している。

そして明はランチAセットを黙って食べながら、正面に座っている由美を睨んでいる。

睨まれている由美は、食後のデザートいちごのパンケーキを食べながら睨み返していた。


『お前がもっと早くLINEくれてたら、こうはならなかった』


と明の目が言っているようで、由美はこう返す。


『あんたがLINEに早く気付けば済んだ話でしょ!つ~かカフェでいちゃつくなよバカップル!』


そんな由美の言葉が伝わったのか、明の表情が殺気立つ。


『うっせ~よ!休日に旦那に相手してもらえなかったからって、こっちに当たるなボケが』


『はぁ~~~ん!!?こっちは程よい距離感で夫婦してるのよ、あんたみたいにいい年して高校生カップルみたいにベッタリしてないのよ!』


『もうすでに倦怠期ですか~?』


『あら~愛野さん、昨晩はお楽しみだったみたいですねぇ~~。ここにキスマークついてますよ~~~』


百面相しながら、視線だけで言い合いをするフローラ組。

由美は自分の首元を指差してゲスな笑いを浮かべると、明はバッと自分の首元に手を当てる。


『ふふ~~ん。引っかかってやんの~~~』


『くそがぁ~~~』


顔を真っ赤にして悔しそうな表情の明。

そこへ白田の手が、2人の間に割って入る。

明の目を覆うように、男の手があてがわれたのだ。


「あまり見つめ合わないでね、嫉妬しちゃうから」


口調は穏やかだが、由美に向けられた男の視線は


『俺の明をあんまり見ちゃ駄目ですよ』


と言っているようだった。

由美はもう見ないからという意味合いで、手を振る。

力を入れすぎて少々疲れた目元をマッサージしながら、白田の明狂いにほとほと呆れたようにため息を付く。

いつも冷静で余裕のある男のはずが、明に関しては全く余裕がなく誰彼構わずヤキモチをやく。

恋の病と言うより、明という病原菌に侵されすぎている。

付き合った直後よりも日に日に酷くなる白田に、由美は触らぬ神になんとやら・・・・

だが、ほんのちょっと羨ましい気もする。

まだ新婚な筈の自分は、程よい距離感を求めすぎて甘さが無い。

旦那にも、白田のような甘さを持ち合わせていたら・・・・・・・・と思っても、由美には白田の愛は重すぎる。

その重すぎる白田の想いを、小言を言いながらも受け止めている明も白田への愛があるからなのだろう。

羨ましいが、見ているだけでお腹いっぱいな2人。


「明、美味しい?」


「ん」


明がオムライスを頬張っているのを、ものすごい距離感で見ている白田。

明ももう馴れてしまっているようで、突っ込む事もせずに気にせずに食事をしている。


「お前が作ったヤツのほうが、美味い」


「本当?ふふっ嬉しいな。また今度作ってあげるからね」


もうこの場に部外者が居ることを忘れてしまっているのだろう。

見ているだけでお腹いっぱいというのは撤回。

・・・・・見ているだけで、胸焼けのする2人だと由美は思った。



終わり

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