理想の男とクリスマス当日

理想の男とクリスマス当日

「時期外れですみません(汗)」


24日

フスカル



この時期は独り身にとっては「クリスマスって何なんだよ」とボヤく程意味のないイベント。

だがここフスカルは、カップルだろうが独り身だろうが皆がワイワイ楽しめるイベントの日。

いつも以上に店内は賑わっており、椅子が足りない程に繁盛している。


「はぁ・・・・お前が手伝いに来てくれて助かった」


もうフスカルの店員ではなくなっていた明。

厨房のパーテーションを捲り、洗った皿を持ってきたサンタ帽子を被った雅が、大量の唐揚げを揚げている明に声を掛ける。

皿が不足するほどの客の入り、明の代わりに入ったバイトはまさかのインフルエンザで病欠。

明に声を掛けておいて良かったと、雅は明に感謝でしかない。


「別に、予定空いてたし」


「ウソつけ、白田さんがお前の予定空けとくわけないだろうが」


「結果、一緒に居るんだから良いんだよ」


「本当・・・・白田さんが哀れ過ぎる」


「はぁ!?感謝してんのか、馬鹿にしてんのかどっちだよ」


「じゃ、聞くがお前プレゼント用意してんのか?」


「何で」


「何でって・・・・・お前、いつか白田さんに捨てられるぞ」


「はァァァァ!?やんのかこらぁ。揚げたての唐揚げ口に突っ込むぞこらぁ」


「やれるもんなら、やってみろよ。てめぇの素人の動きじゃ、俺の口を火傷させる事なんてできね~ぞ」


揚げ物の熱気で暑い厨房で、言い合いを始める兄弟。

そんな時間も無いはずなのに、低レベルな言い合いは続く。


「雅さん、黒ビールとシャンパンの追加入りましたよ」


そこへ、ひょっこりと顔を出す仁。

流石に兄弟喧嘩を中断する2人。


「おいっ明、唐揚げ出来たら皿に盛って桃の席に持っていってくれ」


「ん~~」


「わりぃーな、白田さん」


ポンと白田の肩を叩いて、パーテーションを潜って外に出る雅。

白田は「いえ」と言葉を返すと、厨房に入り上着を脱ぎ厨房の角に置いていある机の上にそれを置く。


「ここ熱いね」


「そりゃ~ずっと火付けっぱなしだからな」


明に話しかけながらシャツの腕の裾を折る仁に、明は怪訝そうな表情になる。


「何・・・」


「手伝うよ」


「いいよ、座ってろよ」


「ここに来て、ずっと明の顔見れてないだけど」


そう言いながら明の隣に立ち、恋人の顔を覗き込む。


「これなら手伝いながら、明の顔見れるでしょ?」


仁はニッコリと笑いかけると、少し汗ばんだ明の額にチュッとキスを落とす。


「おい、オレ今汗かいてんだぞ」


「今更?汗だくの明の体を舐め回すな「もぉぉぃいい!言うな」ふふふふ」


噛み付くように仁の言葉を遮る明。

だが頬が赤くなっているのを見ると、怒っているわけではなく恥ずかしがっているのは一目瞭然。


「本当、可愛いなぁ明」


「それはいいからっ!早く唐揚げ持っていけよっ!」


唐揚げを盛り付けた皿を、仁の胸にトンと押し付ける。

仁はその皿を受け取ると、その場を離れようとする。


「あっ待て」


それを咄嗟に呼び止める明。

何か忘れ物?と不思議そうな男に、明は皿を持つ仁の手を横に退かすとそのまま相手のネクタイをシュルシュルと解く。

そして取ったネクタイを自分の肩に引っ掛けると、次は仁のカッターシャツのボタンを上から2つ外す。


「これでちょっとは、らしく見えるだろう」


「ありがとう、明」


「さっさとキビキビ働いてこい」


明の手によりバーテン白田になった男は、パーテーションからフロアに出ていく。

カウンター内で忙しなく動いている雅とトナカイ雛山。

これじゃあ、お客と話す時間さえもなさそうだ。

仁はそのまま、桃が居るBOX席に唐揚げを届けに向かう。


「お待たせしました」


「やだっ白ちゃんお手伝い!?バーテン白ちゃん素敵ぃぃ!!」


会社帰りの仁は、普段どおりのカッターシャツにベスト姿。

微かに胸筋の盛り上がりが見える程度にシャツのボタンを外して、ゲイの皆さんには涎ものの姿。

だが誰一人、仁に言い寄る事は出来ない。

仁に言い寄る事はつまり、明に喧嘩をうる事となる。

ここ最近二丁目ではミント王子に言い寄ると、その恋人に前歯を全部引っこ抜かれると噂が立っている。

明にまつわる色んな噂が混ざってしまっているが、本人が否定しないので真実を知っているの者も余計な事は言わない。


「白さ~~ん!!こっちに、おつまみセット追加~」


「こっちに、ビール3杯追加ねぇ」


あちこちから追加の注文が入るのを、ミント香る笑顔で受け取る。

そしてカウンターへ戻り、雅に注文の追加を伝える。


「手伝ってくれんのか、わりぃ~な」


「いえ、全然大丈夫ですよ」


「僕、ビール入れますね」


トナカイの角がひょこひょこと揺れる雛山が、グラスを3つ手にしてビールサーバーの前に立つ。

一応、クリスマスイベントだ。

トナカイのパジャマきぐるみを着た雛は、似合いすぎて客の目の保養になっている。


「あのぉ、俺も何か被ったほうが・・・」


「あぁ?いや、白田さんそのままでも十分引き立ってるから大丈夫だ」


少し着崩した服装に十分な色気をまとっている男に、雅は十分だとストップを掛ける。

そんな相手に、苦笑いしながらトレンチを手に雛山の隣に立つ白田。


「彼は呼ばなかったのか?」


「え?・・・ええと」


真剣な表情で液体と泡を調節してビールを入れている雛山に、声を掛ける仁。


「あまり、こういうノリは苦手だろうし・・・・」


「そう本人に聞いたのか?」


「聞いてないですけど」


「また1人でクヨクヨ悩むなよ。悩むことがあるなら明に聞けばいいだろう、彼の事は明がよく知ってるんだから」


「迷惑・・」


「そんな事、明は思ってないよ・・・・・ただ、明と2人では会うなよ?」


雛山の想い人の事でサラリと助言する仁。

優しさを見せとて最後の最後で、明と2人きりになるなと釘を刺す。

雛山は思わずプッと笑いを漏らし、コクンと頷いて見せた。


そこから更に客が来店し、立ったままイベントを楽しむ人も居た。

閉店時間ギリギリになっても、なかなか客は減らず。

朝の4時にようやく、店も片付けが終わり全員がビルの外へと出れた。


「タクシーが見当たらない・・・」


2丁目の区切りにある交差点。

普段着に着替えた雛山はガラガラの道路に、不安そうな視線を向ける。


「流石に今日はタクシーは難しいから、桃にそこの駐車場で待たせてる」


「そう言えば、桃さん今日飲んでなかったですもんね、そういう事か」



ヴォンヴォォォン


突然のバイクの吹かす音。

だが走ってるバイク等は見当たらず、少し離れた場所から聞こえた。

4人がその方向へと顔を向けた時、雛山は「あっ」と声をあげた。


「え・・・・何で」


道路の端に黒色のバイクを停めて跨っている男を見て呆然と呟く彼は、とっさに後ろに立っていた明に顔を向ける。


「さっさと行けよ。1時間待たせてんだぞ」


「明さん・・・・・有難うございます!」


感激のあまり明に抱きつく雛山に。

それすらも反応する仁は思わず「おいっ」と声を出す。


「ではお疲れ様でしたぁ~~」


3人に大きく手を振り、バイクの方へと走っていく雛山。


「粋な事すんじゃね~か」


明が雛山の想い人に連絡を入れたと察した雅は、ニヤリと笑って甥を見る。

背後から大きな男に抱きつかれている明は、鬱陶しそうな顔しながら「ウジウジしてるのがうざかったから」と相変わらずの冷たい言葉。

だがその裏腹な性格を知っている雅は、フンと鼻を鳴らして笑う。


「で、どっちに送ればいいんだ?」


近くの駐車場に向かって歩き出す、雅。

その後を続くように歩く明は、ものすごく歩き辛そうだ。


「こいつの家。おいっ重いんだよっお前」


ただ雛山に抱きつかれただけで、ヤキモチをやく仁。

明から放れる気はない男に、「相変わらずだな」と笑う雅。

そして雅は、手に持っていた紙袋を明に差し出す。


「これ、持って帰れよ」


「?何これ・・・」


「今開けるな、帰ってからな」


「・・・・・・・?」


明は受け取った紙袋を、まじまじと見る。

仁へのプレゼントを用意していないと言った、明。

馬鹿な甥っ子への親心と、今日手伝ってくれた仁への選別。

今日アルバイトが着るはずだった、ミニタイトのサンタコス。

それが袋の中に入っている。

勿論、それだけでは着ない事は重々承知。

だから『本当に、白田さんに愛想つかされるぞ』と不安を煽るメモを添えた。


これを明が着たか、着なかったかは

翌日、仁の顔を見ればすぐに解った。



終わる

雛ちゃん、匂わせました。

さて・・・・雛ちゃんの彼とは!!!???

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