第46話

試合を見に来てくれた明に、感動してしまう白田。

そして、かっこいい自分を見せたい!の一心で試合に挑む。


46



試合会場



グランドに隣接する事務所内で円陣を組み気合を入れた後、双葉のメンバー皆でグランドに出る。

途端に待ってましたとばかりに、女性達の歓声が湧き上がり熱い視線が白田に集まる。

「相変わらずすげ~なぁ」とメンバーの一人が呟くが、当の本人は全く関心がない。

それどころか女性達の視線を跳ね除けて、観戦客の中に想いを寄せる人の姿を探す。

後方に居るだろうと思っていたが、メンバー達の家族が座っている特等席に明の姿を見つけた。


本当に来てくれた・・・・


試合に勝ってすらいないのに、それだけで既に感動もの。

白田は満面な笑みで、明に手をふる。

スーツ姿の明は凛としていて綺麗でそれでいて色っぽい。

そしてOFFの日の明は、少し幼く見えてそれでいて愛らしい。

今日の私服もとても可愛い!と白田は、内心で身悶える。

会うのを我慢していた事もあり、一際眩しく見える。

試合そっちのけで、今すぐにでも明の元へ行きたい衝動に駆られるが、そこはぐっと堪える。

何故なら明は試合を見に来てくれたのだ。

明に格好悪いところは見せられない。

今日は勝つ!何が何でも勝つ!と心の中で気合を入れ直す白田。

だがその気合も何処かへ吹っ飛んでしまう出来事が起きた。

いつもは素っ気ない態度の明が、白田に向かって手を振ったのだ。

それも少しぎこちなく、胸の位置まで上げた手をヒラリと。

そしてすぐに手を下ろして恥ずかしそうに肩を竦めて俯いた彼に、白田はもう頭の中は明の事しかない。


「おいおい、仁。何処に行くんだよ」


フラフラとベンチから離れようとする白田を、営業部の先輩鳩藤が肩を掴んで引き止める。


「あ、いえ。ちょっと」


流石に試合を忘れて、可愛く手を振ってくれた明を抱きしめに行こうとしてました・・・とは言えず言葉を濁す白田。


「今日来てるんだろ?お前の想い人。ならカッコいいところ見せないとなぁ」


鳩藤に、想いを寄せている人が居る事がバレてしまい。

それからチョクチョクと、弄ってくるようになった。

あれは、明に練習があるから暫くはフスカルに行けないとLINEした時だった。



遡ること

4日前



明の想いを確信した次の日。

いつもなら雛山と一緒にフスカルに行っていた。

だが明が応援に来てくれると舞い上がっていた白田は、サッカーチームメンバーに声を掛けて試合に向けて夜間練習をする事にした。

明の前で絶対に負けられないという思いと、格好いい自分を見せてもっともっと好きになって貰おうという下心。

本当は会いたかったが、それを日曜日まで我慢しようと決めた。

練習を行うフットサルコートで、スマホを手に『今週は顔を見に行けないから、日曜日に会えるの楽しみにしてる』と明にメッセージを送る。

それを気配を消した鳩藤が、後ろからスマホ画面を覗き込んでいた。


「お前・・・やっぱり彼女出来たのか」


「!?先輩」


もう遅いが、思わずスマホ画面を隠してしまう白田。


「最近、お前おかしかったもんなぁ・・・。女子社員ももしかして・・・って噂してたけど、到頭、出来たのか。いや、おかしくはないぜ、お前みたいな男がフリーでいる事自体が、双葉の七不思議だったからなぁ。けどよ、あれだけうちの社員や取引先の令嬢やら、近くの会社の社員にまで告白されてたのに、『今は誰とも付き合う気にはなれないから』って全てフリまくってたからよ〜〜。けどそうか・・・・・でっどんな娘だ?」


息もつかぬ勢いで話す鳩藤に、苦笑いする白田。

双葉に入社したばかりの白田を、教育係として面倒を見てくれていた鳩藤。

少々お節介なところはあるが人情味ある人柄で、入社当時は営業で行き詰まっていた時によく話を聞いてくれていた。

長らく彼女が居ない白田に、何度か奥さんの友人を紹介すると言われては断り続けていたぐらい、独身の白田を気にかけていた。

普通ならば大きなお世話なのだろうが、誰かが待ってくれている家に帰った時、疲れも大分違うぞと鳩藤なりの優しさ。

そんな彼に、白田も頭があがらない。


「いえ、付き合ってるわけじゃないんです」


「え!?もしかして、まだ告ってもない段階!?何で・・・お前なら一言言えば、相手は即YESだろう〜」


「どうなんでしょ、今焦ってしまったら逃げてしまいそうで・・・・」


「・・・・・・・」


鳩藤は真顔でじ〜〜〜と白田を見ると「お前みたいなパーフェクトな男でも、悩むんだな」と関心したようにウンウンと頷く。


「そりゃー、俺だって人間ですから」


「だからか・・・・普段スーツで気付かなかったが、この前の試合よりお前ガタイ良くなってるよな。その相手に振り向いてもらおうと、鍛えるのかぁ?」


「・・・まぁ・・・・そんなところです」


見透かされて、恥ずかしそうに笑う白田。

そして後輩に春が来たと、嬉しそうな鳩藤。


「そうか、お前がそんなに本気になる相手なんだな。俺としてはホッとしたよ、上手くいくように応援してるぞ。だがまずは優勝だな、日曜日に来るならカッコいいところ見せつけてやらね〜となぁ〜、おし!練習するか!!」


白田同様に、試合に勝つ意気込みが増した鳩藤。

そんな先輩に、白田は胸が暖かくなり爽やかな笑みを相手に向けた。



時は戻り

ハーフタイム



息も絶え絶えな双葉の選手達。

ベンチで百舌鳥の後半戦の作戦に耳を立てながら、それぞれに息を整えていた。

今の所・・・押されている。

やはり相手は強敵。

社会人サッカーチームとはいえ、向こうには学生の際にサッカーに慣れた人間が多いと聞いた。

白田も点数を取られる度に、焦りが湧き上がり思わず観戦席の明に視線を向けてしまう。

格好いいところを見せたかった筈なのに、ボール1つに翻弄されている自分を見せてしまっている。

必死過ぎて格好悪い男だと思われたらどうしよ・・・・

百舌鳥の言葉が耳に入らないぐらいに、気が滅入っている白田。

そんな時、ベンチに置いているスマホが鳴った。

営業部の人間も居ることから、休日でも取引先の連絡を取れるように携帯の持ち込みは許可されている。

なので誰も怒らず、誰のスマホだと顔を見合わせている。

鳴っているスマホは、白田の電話だった。

ベンチの近くに居た鳩藤がそれを取り「フローラから電話だぞ」と取引先の名前を言い、スマホを白田に差し出す。

白田はスマホを受け取るとすぐに通話ボタン押し、耳に当てながら電話を掛けてきた当人に視線を向けようとした。


『こっち見るな』


明の声に、白田は振り向く途中でピタリと動きを止めた。



47へ続く

白田は明を「可愛い!!!」と思ってますが、それは「恋は盲目」のバフが掛かっている状態です。

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