第43話
酔いつぶれた明を腕に抱いて、愛野宅へ到着した白田。
明の自室にテンションが高くなりベッドにダイブしたくなるも、父親の手前好青年を演じる。
43
愛野宅
玄関の扉を開けた太郎は、白田の胸の中で寝息を立てている明に飛び上がるぐらいビックリした。
「えっ!?まさか外で酔いつぶれちゃったのかい!?」
「酔ってるんですか?突然その場で寝ちゃって・・・」
「外ではいくら飲んでも気合で抑え込んでるんだけど、あっ靴を脱がすよ」
明をお姫様だっこして敷地に入る白田。
玄関に入ると、白田に抱きかかえられたままの明の靴を脱がす太郎。
「家に入ると一気に酔が回ってその場で寝ちゃうんだ。玄関先で寝られたら僕じゃどうする事も出来なくてねぇ〜、白田君がついててくれて良かったよ。あっ明君の部屋は2階なんだけど・・・」
「大丈夫ですよ」
「凄いね、白田君。力持ちさんだねぇ〜」
以前から太郎の話し方が、小さな子供に言っているような物言いをするのは気付いていた。
「力持ちさんだねぇ」がどことなく可愛らしくて、クスクスと笑ってしまう。
誘導するように歩く太郎の後に続き、明の身体が何処かへぶつからないように気をつけながら階段を上がっていく。
太郎には良い友人のような態度で居るが、これから入る明の部屋に内心胸が踊っている。
3度この家に来たが、明の部屋は未だ入っていない。
明のテリトリーと言える、自室。
普段どんな部屋で寛いで、どんなベッドで寝起きしているのだろうか、そして寝る時はどんな格好で・・・・・部屋に入る前かあらぬ妄想は膨らむ。
だがそれを太郎に悟られないように、顔にはいつもの爽やかな笑みを貼り付ける。
太郎は2階の一室の扉を開き、パチンと電気をつけて「どうぞ」と白田を促す。
「失礼します」と一声掛けて入る明の部屋。
10畳程の広さの明の部屋は、いつも明から香る柔軟剤の香りが仄かにした。
台所と同じグレーとオフホワイトで纏められ、やっぱりこの色が好きなんだと細く微笑む。
所々差し色の赤を取り入れた家具は、明の拘りが見える。
そして壁一面に設置している飾り棚には、玄関に置ききれていないコンバース。
普段から仕事熱心なのだと解る、本棚一杯の化粧品に関する本。
ベランダへ通じるガラス戸の前には、ボクシングのサンドバッグが置かれている。
何もかもが明らしくて、この場所に居る事が舞い上がる程に嬉しい。
白田は部屋の隅に置いてある、ダブルベットに近づく。
ここで・・・明は・・・・
このまま抱えている明ごと、ベッドにダイブしたい気分になる。
勿論そんな事をすれば、今後愛野家を出禁になるやもしれないので、ぐっと堪える。
そっと壊れ物を扱うように、明をベッドに寝かす白田。
もう、これ以上ここで出来る事はない・・・・
さり気なく明の前髪を指で払い、明の寝顔をもう一度だけ目に焼き付ける。
さて帰るかと、ベッドの脇から立ち上がり部屋をぐるりと振り返れば、太郎と目が合う。
「白田君。申し訳ないんだけどね、明君の着替え手伝って貰えないかな。上だけでも着替えさせたいんだ」
明の着替えを手に、申し訳無さそうな顔でいる太郎。
そんなお父さんに、良いんですか!!?と言ってしまいそうになる。
ここはあくまで、何食わぬ顔で・・・・
「良いですよ。明の身体を支えてるので、太郎さんが着せてあげてください」
本当は真正面から明の裸を堪能したいところ・・・・
だが1番大変なのは、意識の無い人間の身体を支える事だろう。
力が無さそうな太郎を気遣い、明の背後から身体を支えようと皺にならないようにジャケットを脱ぐ。
「あっ良いの、僕が支えるから」
「え・・・でも」
「良いから良いから」
そんな役得いいのだろうか・・・
白田の言葉に少し疑問を持ちながらも、その言葉に甘えた方がお得感があるので従うことにした。
太郎は着替えを白田に渡すと、明の上半身をよっこらしょと何とか起こし背中を支える。
白田はゴクリと生唾を飲み、そしてベッドに腰掛け明の服に手を伸ばす。
手始めにジャケットを脱がせ、ネクタイを外す。
そして次はワイシャツのボタンを、優しい手付きで丁寧に1つ、1つ、外す。
平常心平常心と心で復唱し、全てのボタンを取り捲ると予想通りの肌着として着ているタンクトップ。
太郎は明の身体を支えながら、白田が脱がした服を背中から抜き取る。
そして最後のタンクトップを太郎が背中から捲りあげて、頭から抜き取ろうとする。
白田は明の手を袖に通して、全ての衣類を脱がし終えた。
次は部屋着を着せるだけ・・・・・・・・だがその前に、今まで想像をしていた明の身体を見たい。
太郎から怪しまれぬように手に部屋着を持ち、ごく自然な表情で明の肩から下に視線を向ける。
ボクシングで絞った身体は無駄な脂肪が無く、細い骨骼を覆う筋肉は何とも艶めかしい。
瞳の色がブラウンの明は色素が薄いものだと思っていたが、確かに薄い。
胸の2つの飾りに目が釘付けになり、思わずゴクリと喉がなる。
「あははは、おヘソのピアス痛そうだよね〜」
突然太郎から話し掛けられ、ビクッと肩を跳ね上がらせる。
白田が明のへそピアスに気を取られて、手が止まっていたのだと誤解したようだ。
「白田君の前で酔いつぶれるなんて、そうとう明は気を許してるんだろうね」
「え・・・・・」
「同年代の男友達が居なかったから、白田君みたいな好青年が友人になってくれて僕も嬉しいよ」
純粋に喜んでくれている太郎に、物凄く後ろめたい気持ちになる。
抑え込んでいた酔が一気に回ったのは、明をせっついた自分のせい。
そしてそんな息子さんに、下心満載で着替えを手伝っている。
もう罪悪感しかない・・・・白田は気を改めて、明に部屋着を着させた。
「はぁ、明君細いから軽そうなのに、やっぱり鍛えてるから重いねぇ」
支えていた明の身体をベッドに横たえて、布団を被せる太郎。
「気を使ってもらわなくても、良かったんですよ」
明より体が大きな自分ならそんなに苦労も必要ないのに、そこまで気を使わなくても・・・と苦笑いする白田。
その時、白田はある出来事を思いだした。
明が異様に、左腰を気にしていたのを・・・・・
もしかして太郎は、明の左腰を白田の目に晒さないようにワザと明の背中に回ったのではないだろうか。
そんな憶測をしてしまう。
「大丈夫だよ。それより白田君、今夜はもう遅いけど泊まっていくかい?明の下に布団を敷いてあげるよ」
「!?」
さっきの仮説はどこへやら。
明の左腰の謎など一気に頭の外へ追いやられる程の衝撃的な太郎のお誘いに、意味もなく白田はピンと背筋を伸ばす。
「いえ、今日はこれで帰らせてもいます。泊まる際は明が意識がある時にでも」
これは遠慮ではなく、逃走。
何もしない自信が無い上に、絶対に眠れないだろう。
白田はジャケットを手にすると、好青年の表情で太郎に頭を下げる。
「太郎さん、おやすみなさい。それでは失礼します」
後ろ髪引かれる思いで、明の部屋を後にした。
44へ続く
白田がちょっとおかしくなりつつある・・・これで良いんだろうか。
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