理想の男とクリスマス

理想の男とクリスマス

「理想の男ここに居ますよ」シリーズ 感謝SS

時期外れの物語ですがどうぞ。



12月25日

東京某ホテル最上階

スイートルーム


東京某ホテル最上階にあるスイートルーム。

夜景も綺麗に見える60平米もある部屋。

クラシックな高級感がある家具に、三人がけのソファと部屋の角にはキングサイズのベッド。

12月25日は予約も簡単に取れない上、値段も3倍に跳ね上がる。

そんな日に、スイートルームを予約するのはカップルだけだろう。

特別なこの日を、最高の場所で最愛の人と過ごす。

そして3001号室を予約した男が、この部屋の前にたどり着いた。

ガチャリとスイートルームへの扉が開く。

自動で点灯する室内の明かり。


「はいっどうぞ」


どこまでも紳士的な白田仁は、開けた扉を支え恋人を先に室内へと誘導する。

そして恋人の愛野明は、部屋の中に一歩入るなり「うわぁ・・・」と驚きと歓喜の声を上げる。

その反応だけで、白田は奮発して良かったと思える。


「すっげ~~~何だよ、この夜景!!!」


部屋に入れば、ガラス窓に一面を飾る東京の夜景が目に入る。

明は部屋を走り抜け、窓に顔がくっ付く程の距離で止まると食い入るように外の景色を見る。

そんな子供っぽい明の行動に、可愛いなぁ~~と表情が溶けてしまう。

本当ならば抱きついて頬ずりしたいが、ここは我慢。

明にカッコいいと思われたい、大人の男としてスマートに。

扉を閉め密室になった部屋。

白田はゆったりとした足取りで部屋に入ると、温かい室内で必要なくなったコートを脱ぎ、ソファの背もたれに引っ掛ける。

そして窓に張り付いている明の元へ行くと


「明もコート脱いだら?」


とスーツの上に羽織っている、トレンチコートを脱がすのを手伝う。

明が脱いだコートをハンガーに掛けている間も、夢中になって夜景を見ている彼にニヤニヤが止まらない。


「東京タワーもスカイツリーも見えるなんて、本当に凄いな」


「どれどれ」


仁も明と一緒に夜景を見ようと窓際へ足を向ける。

恋人の背中に寄り添うように立ち、彼のお腹に手を回わす。

丁度男の口元が明のこめかみに当たる。

夜景に視線を向けながらついつい彼のこめかみに、チュッとキスを落とす。


「こんな日に、よくこの部屋取れたな?」


「そりゃ、明と一緒に過ごす為だからね」


首を捻って見上げてくる恋人に、蕩けるような笑みを返す。


「それに明日はお互い休みだろ?」


そう明日は土曜日。

明と仁は翌日は休みだ。

だから・・・・朝までこの部屋で・・・

下心満載の計画だが、仁はそんな事を表に出さずニッコリと微笑んでいる。


「休みだから、何?何かあるのか?」


何?と言う割には、ニヤリと笑っている明。

そして体を反転させ夜景に背中を向けると、仁のネクタイに手を伸ばして解いていく。


「言わなくても、解ってるよね」


「さぁ・・・」


シュルリと解けるネクタイを床に放り投げ、そして今度は男のシャツのボタンを1つ、1つゆっくりと外していく。

その気になっている明は、とても大胆だ。

仁としても、嬉しい限り。

だが、まだ早い。

まずは明に仕掛けた、サプライズで喜ばせるのが先。


キンコーン


部屋の呼び鈴が響く。


「ルームサービスを頼んだんだ」


「えぇ〜今かよ〜」


今すぐにでもベッドに行きたい様子の明。

口を尖らせて拗ねる表情が、キュート過ぎて仁としてもこのままルームサービスを無視したい。

だが後ろ髪引かれる思いで、明から体を放すと「時間はたっぷりあるだろ?」と額にチュッとキスをする。

そして窓際に明を置いて、玄関へと足を向ける。

ルームサービスにはシャンパンと、明でも食べれる甘さ控えめのホールケーキを注文していた。

そしてケーキの上を飾る砂糖菓子のバラの上には、サプライズで用意した指輪が乗せられている筈だ。

ムード満点のクリスマスプレゼント。

きっと明は喜んで、今夜は何時も以上に燃え上がる夜を過ごせるはずだ。


ロックを外し、ガチャと扉を開く。

そこには金属製の蓋がついたトレイを持った、ベルボーイが立っていた。


「ありがとう」


とトレイを受け取ろうとした仁より早く、ベルボーイは蓋を開ける。

とたんにムワッと広がる、カレーの匂い。


「ご注文頂きました、フスカル特製カレーと牛乳でございます」


「は?」


いつもの笑みはどこへ。

トレンチにはよく見たカレーライスと、牛乳パックがドンッと乗っかっている。

間抜けな顔の仁は、ベルボーイの顔を見る。


「雅さん?」


ベルボーイの格好をした雅が、にこやかな笑顔を仁に向けている。

似合ってはいるが・・・カレーなど頼んでない。

第一指輪は何処行った。


「指輪はここね」


と雅がカレーに視線を落とす。

嫌な予感・・・仁は恐る恐る、湯気が立つカレーライスを見た。

スパイス香るルーには、指輪が半分顔を出していた。


「!!!???」


声にならない仁の叫び。

そして背後にあった、バスルームの扉が物凄い勢いで開く。


「ちょっと!コンディショナーの替えがないんだけどぉぉぉ!!」


野太いオネェ言葉に、振り返る仁がみたものは。

バスタオルを胸から巻いた桃ちゃん。

化粧が半分取れかかった状態の桃ちゃんが、バスルームから半身を出している。


「白ちゃん!ヴィダルサスーンのコンディショナーないの!?私、ヴィダルサスーンしか使えないのよ」


「・・・・桃さん、何故ここに・・・」


明と共に入ろうとしていた、泡風呂。

その為にバスルームからも夜景が見え、2人でもゆったり浸かれるジャグジー付きのこの部屋にしたのに・・・・先に桃が使用した事にショックを受ける。


「明さん、あそこ僕の家です」


部屋の方から聞こえる、聞き慣れた声。

ショックを受けていた仁は、ハッとして部屋へ戻ろうとする。

だが前に桃が立ちはだかり「ヴィダルサスーンは?」と邪魔をする。


「あそこは、東京タワーだろうが」


「そうですよ。僕の家、東京タワーなんです」


「ちょっと桃さん、退いてくださいっ」


奥から聞こえる会話に、焦る仁。

だが通せんぼする桃は、カバディ状態。


「マジで!?お前東京タワーに住んでるのかよ!」


「今から行きます?」


「行く!」


「泊まります?」


「泊まる!」


「駄目だ!明っ!」


どんどんとクリスマス企画が崩れていく事に焦りまくる仁。

立ちはだかるカバディ選手を、渾身の力でバスルームに押し入れる。

そして部屋の中へ急いで戻れば、トナカイのフード付きパジャマを着た雛山が居た。


「明っ、今夜は俺と過ごすんだろ?雛山の家は別の「明さ〜〜〜〜〜ん!!!!」うわっ!?」


仁の体が横に吹っ飛ぶ。

その衝撃で仁はキングサイズベッドに、倒れ込んだ。


「明さん、これをお納めください」


首を捻って振り返ると、そこには袴姿の鷹頭。

明の前で跪き、両手にコンバースを乗っけて差し出している。


「これは!クリスマス限定コンバース!!!」


緑と赤の趣味の悪いコンバースに、明は目を輝かせる。


「結婚してください!!」


「!?」


突然の鷹頭のプロポーズに、ベッドから起き上がろうと体を起こす。

だがふわふかのもふもふのもちもちのベッドは、思うように体が動かせない。


「する!」


「駄目!明、それは駄目だ!」


明のまさかのプロポーズOKの返事。

それだけは許せない!

やっと恋人になれて、これからって時に鷹頭に横から掻っ攫われるなんて!

白田は歯を食いしばり、必死にベッドの中でもがき何とか抜け出そうとするが、まるでネズミ捕りに掛かったかのようにベッドのネバネバに絡め取られる。


「明!!俺も指輪用意してるから!だから、そいつと結婚は駄目だ!!」


「駄目よダビデ様」


何とか鷹頭との結婚を阻止したい。

そんな白田の頭上から、女性の声がした。

視線を上げると、ベッドの脇に立っているサンタクロース姿の由美。

口ひげを付けているが、メイクバッチリの目元で誰だかわかる。


「指輪なんて、明が喜ぶと思う?」


由美のその言葉に、白田はハッとする。

確かに・・・・明は見える場所にアクセサリーは付けていない。

へそピアスも穴が塞がらないようにと、ずっと同じ物を付けていた。

つまり金属類は興味がない・・・・

そして、明が好きなコンバースをプレゼントに持ってきた鷹頭。

クリスマスという定番のイベントに、恋人にわたす定番のプレゼントを用意したけど・・・・・明は元々イベントには無頓着だ。

自分の誕生日さへ何も言わない無関心さだった。

完全に完敗だ・・・・

鷹頭に・・・負けた・・・・


「だからって、諦められない!明っ!コンバースなら100個でも1000個でも買ってあげるから!毎日ポテトサラダも作るから!そいつと結婚は駄目だ~~」



******



「う〜〜ん・・・ん〜〜ん」


額に汗の玉を浮かべて、魘されている仁。

仰向けで眠っている男は、悪夢でも見ているのだろう。

そんな男を、横で肘枕をして見下ろしている明。


「駄目・・・・明・・・駄目だ」


「どんな夢見てんだよ・・・」


悪夢に自分が登場しているのだろうと思うと、ぷっと吹き出してしまう。

本当ならここで起こしてやるのが優しさ・・・・

だが明はそこまで優しくない、苦しんでいる男の顔を見てニヤニヤ笑っている性格の悪さ。

ここは仁の家。

朝の5時に隣で眠っていた男の声で、目が覚めた明。

仁は何も着ていない状態で布団の中にいるが、明は寝起きで寒さを感じ仁の部屋着を羽織っている。

翌日、お互いが休みだとこうやって何方かの家に泊まるのがお決まり。

明の家だと父親が居るため、仁の家に居るほうが多い。

理由は思いっきり夜の運動が出来ないからだ・・・


「明・・・指輪・・・を・・」


相変わらず、悪夢を見続ける仁。

そして口からでた「指輪」の単語に、明は顔を顰める。

嫌な予感が胸を過る。

明はおもむろに体を起こすと、サイドテーブルの引き出しを開ける。

そして思ったとおり、引き出しの中には綺麗にラッピングされた指輪の箱と思えるものがあった。


「ずっと気にしてると思ってたら・・・」


以前から、このサイドテーブルをチラチラみたり異様に気にしてる素振りだった仁。

きっと明が何かの拍子で開けてしまう事を恐れていたのだろう。

明は箱を取り出して、手に収める。


「これって、クリスマスプレゼントって事か・・・」


20日後のクリスマス。

既に用意されている事も驚きだが、明の表情は決して嬉しそうではない。


「明・・・?・・・・・・!?」


寝言ではないハッキリとした口調で名を呼ばれ、あっまずいと思った時にはガバっと起きてきた仁に、背中を抱きしめられる。


「見つけちゃった?」


「見つけた」


「はぁ・・・いいよ。もうそれ必要ないから」


「?何で?」


ぎゅ〜〜と抱きしめる腕に力がこもり、仁が甘えるように明の肩口に顔を埋める。

サワサワと男の髪が首筋に当たって、くすぐったい。


「明、指輪貰って嬉しい?」


「何とも思わない」


「ぷはっ即答」


素直に思っている事を口にする明に、吹き出す仁。

そして男は覗き込むように、肩口から顔を出すと甘ったるい笑みを向ける。


「大好きな人との初めてのクリスマスだったから、張り切って空振りしかけてた。明は定番通りにしても喜ばないよな」


「そもそも、クリスマスに何でプレゼント交換するのか意味がわかんねぇし。豪勢な飯も、豪華なプレゼントも必要ねぇよ」


「期間限定のコンバースも?」


「んなもん、自分で買うわ」


「だよね。なら・・・・・・ポテトサラダケーキ作ろうかな」


「まじか!!??」


大好物のポテトサラダ。

体を捻り男の顔を見る明の目は、これでかと輝いている。


「もう、本当に明は可愛いなぁ」


明の体を抱き直し、ぎゅぎゅっと力を入れる。

若干苦しいが、男のしたい様にさせている明。


「俺の服着ちゃうところも可愛いいし。ポテトサラダで喜んじゃうところも可愛い」


「・・・・あのよ。言い忘れてたんだけど」


既にクリスマスの予定を立てている男に、明は歯切れの悪い口調になる。


「何?」


「24と25、雅の店手伝いに行く約束してんだけど」


「!?」


そもそもの話し、恋人とはクリスマスの約束などしていない。

イベントに無頓着な明は、恋人の為に予定をあけておくなんて気の使い方は出来ない。

男が言ってくれていたなら予定も空けていただろうが、かなり前から雅からは手伝いに来いと言われていた。

先約が大事。

ガックリと肩を落とす男。

「そんなぁ〜〜」と明の体を抱きしめながら、しくしくと泣く。

本当に泣いてるとは思ってないけど、臍を曲げた仁が色々と面倒なのは身を持ってえ知っている。


「解った解った、雅との約束は断らないけど・・・・早く帰れるように言うから」


「・・・・・・・」


男は抱きしめていた腕を緩めて、明の顔をじっと見る。

涙の滴など目元には無く、口元は嬉しそうに綻んでいる。


「いいよ。俺もフスカルに行くから」


「いいのか?」


「皆と一緒にクリスマスを過ごすのも悪くない。夢はきっとそういう意味だったんだ」


「夢?」


「それにクリスマスだからって特別な事しなくても・・・こうやって明と2人で過ごせるんだから」


男の端正な顔が接近する。

甘く蕩けるような表情で「好きだよ」と口にする男に、「知ってる」と返し形の良い仁の唇に自らら口づけた。


「あっでも、ポテトサラダケーキは作ってくれよ?」


キスを一時中断し、それだけは楽しみにしておきたいと欲求する。

すると仁は「喜んで」と笑いかけると、今度は男から深く口づけた。




終わり

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