第11話
白田が知らない場所で、LINE交換していた明と雛山。
それを白田はどう思ったのか!?・・・・と言う話は書かれてません。
11
その日の夜
愛野宅
愛野宅の台所兼リビング。
四人掛けのテーブルの上を、会社の書類が占領している。
それは商品企画部の書類だけではなく、営業部の元部下から押し付けられた書類もある。
営業部の資料には明の手によって、赤ペンでなぐり書きされた箇所があり既に完了。
そしてかれこれ30分程、明を頭を悩ませている企画部の書類があった。
既に進行している新商品のポスターのデザインだ。
何通りか双葉から上がってきたデザイン案、その一つに草井が○をしている。
草井が選んだデザインは三校までが終わり、5日後に仕上がったデータが双葉から送られてくるはずだ。
出来上がったデータを待ち後は印刷に回すだけの段階で、明はこのデザインが気に入らなかった。
「イマイチ、なんだよなぁ・・・」
カチカチと壁掛け時計の音と、明の唸る声だけが響くリビング。
気に入らないと言って、最終校正まで進んでいる進行をスタート地点に戻す事はかなり大変な事だ。
「はぁ・・・・・」
デザイン画を持っている手を投げ出し、テーブル突っ伏す明。
そんなところに、明の父親の太郎が顔を出す。
「明君、お風呂入ってきたら?今日はね柚子を浮かべてるから気持ちいいよ」
「ん~~~・・・何、柚子入れてどうなんの?髪の毛生えるのか?」
父親の言葉に、明は体を起こして書類をかき集める。
「ははははっ、ちょっとは生えたかなぁ」
太郎ははははと笑いながら、毛が薄い頭をサワサワと触る。
「全然変わってねぇ」
「はははっ、香りが爽やかで体も心も解れるよ」
「はいはい」
ガタンと椅子を鳴らして、立ち上がる明。
書類を鞄に詰め込み、携帯を手にする。
「あら・・・明君、冷蔵庫空だよ?」
「!?」
冷蔵庫を開けた太郎の問いかけに、明ははっとした顔になる。
「お前、この前買った食材、今日こそ忘れずに持って帰れよな。場所取るんだよ!」
そう雅に言われていたにも関わらず、明は手ぶらで帰って来てしまった。
しかもその時に自信満々の顔で「言われなくても、わ~~てるよっ」と答えた自分が腹立たしい。
「僕が明日、買い物行って来ようか?」
「いらねぇ~よ。親父力ねぇ~んだから、さほど持てね~だろうが」
繁忙期に入っている父親の仕事。
最近は帰りが遅い上に、クタクタで帰ってくる日もある。
そんな父親に気遣う言葉は無く、逆に乱暴な物言いで申し出を断る。
「うんそうだね。明君、力持ちだからね。それじゃお願いね」
だが太郎は、そんな明の要らぬ一言も気にしておらずニコニコしている。
そんな父親を台所に残して、明は廊下に出る。
廊下をペタペタと素足で歩きながら、手に持っていたスマホを起動させる。
そしてLINEの通知が3件届いていた。
一つは泣きついてきた元部下の「兄貴!頼んます!」の一言、既読スルー。
そして雅の「お前、忘れてるじゃねぇ~かよ!!生モノどうすんだ!!!」こちらも既読スルー。
最後は明のLINE上では【ピヨ山】に名前を変えられている雛山。
『今日は有難うございました。初めてのBARで緊張しましたが、明さんと雅さんのお陰でとても楽しい夜になりました。本当に有難うございました。雅さんにも宜しくお伝え下さい』
律儀にお礼LINE。
今後雛山がお店に来る日は、明が出勤している日限定という事になった。
そして明が送迎するからと、LINEを交換したのだ。
『気が付かなかった。返事遅くなってわりぃな、来る時は連絡しろよ』
スマホに返事を打ち込みながら、洗面所に足を踏み入れる。
服を脱ごうとスマホを棚に置きほんの秒数で、ピコンと通知音。
服に手を掛けたまま、液晶画面を覗き込むと。
『そう言えば、白田さんとLINE交換してないんですね。帰りに明さんと交換したって言ったら、寂しそうでしたよ』
「・・・・・・・・」
雛山からのそんな返答に、明は眉間にシワを寄せる。
そして首を傾げて、スマホを手に取る。
『する必要あるか?仕事のやり取りなら電話や会社のメールで十分だろう』
冷然な返事を返して、スマホを置き。
今度こそカッターシャツのボタンを外して脱ぎ、洗濯カゴに投げ入れる。
そしてタンクトップも脱ぎ、同じように放る。
日に焼ける事が皆無な明は、全身真っ白。
だが決して不健康な訳ではない、定期的に体を鍛えに出向いている。
薄っぺらい腹は、筋肉が盛り上がりちゃんとシックスパック。
だがそれだけではない、臍の上にはルビーが輝いている。
そして背中越しに鏡で見る事でしか見えない位置、左腰に手のひらのサイズのサソリのタトゥー。
10代の時に何も考えずに仲間と入れた、馬鹿の象徴。
そしてそのサソリの胴体には、縦3センチの長細い古い傷が残っていた。
ピコンと再び通知音。
ズボンのベルトを外していた明は手を止めて、再びスマホを手にする。
『そうですね。でしゃばってすみません』
「はぁ~・・・小動物虐めてる気分になる」
社内で虐められても何も言えない雛山。
明にとっては通常運転の返事、それでも気の弱い相手はやってしまった!と大事に捉えているかもしれない。
『気にすんな』
と明は一言入れて、猫のスタンプを添える。
いい加減風呂に入ろうと再びスマホを置こうとした時に、ふと手を止める。
そして雛山のプロフィールを開き、食い入るように画面を見る。
『なぁ。お前のアイコン何?何かのキャラ?』
『いいえ。僕が描いたんです』
すぐに返答はあり、明は「ふ~~~ん」と唸る。
ピンク色の背景に、ペチャっとしたちっこいキャラが真ん中に居る。
それは真っピンクな海の中を、地上に向かって平泳ぎしている性別不明な子供のようにも見える。
『女の子っぽいですよね』
『いいんじゃないか?悪かねぇ~よ』
伺うような雛山の返事に、明は口元を緩ませて自分が感じた気持ちを伝えた。
「明君、まだ入ってないの?あれ・・もしかして彼女から連絡?」
「!?・・・うっせぇ~な、ちげ~よ」
突然の父親の登場に、油断していた明はビクっと肩を震わせる。
スマホを見ながら頬を緩ませていた場面を見られた明は、あっち行けとばかりにシッシッと追い払う。
「それじゃ先に寝るね、おやすみ」
太郎はそう口にすると、背中を向けた明のソレに自然と目が行った。
タトゥーの中に隠されたような鋭いモノで刺された痕に、顔を曇らせるとそのまま洗面所の引き戸を閉じた。
※※※※※※※
翌朝
フローラ
チンとエレベーターが到着した音と共に、扉が開く。
ホールで待っていた人達は、箱の中へ入っていく。
「ちょっと待って〜〜」
もう乗る人が居ないと、閉まるボタンが押される直前。
パタパタと走り、扉をガッチリ掴むとそのまま箱に体を滑り込ませる。
何とか間に合った由美は、中の人間に「おはよう御座います」会釈し扉の方へと体を向けた。
「由美さん、こんなギリギリでどうしたんですか?それに・・・スーツって、今日は何かありましたっけ?」
その場で居合わせたのは、同じく企画部の英子
いつも早めに出社している由美。
そして基本私服OKの企画部は、部長の梅沢と明以外は皆私服。
由美も仕事で外出する用事が無い限りは、私服なのだ。
「朝に、愛野君からスーツで来いって連絡あってさ。もう大慌てで着替えたわよ」
「え・・・・もしかして愛野さん、何かやらかしたんですか?」
「やめてよぉ〜、先方に頭下げに行くからスーツで来いって有り得そうで怖いんだけど」
「草井さんが休んでホッとしたのに、まさかの代理が愛野さんって・・・・・」
「こらっ」
美由は慌てて、相手の言葉に叱咤する。
草井は常務の孫娘。
他に人がいる場所で、安々と名前をだしていい事はない。
それが悪口ならば特に。
「ごめんなさ〜い」
口を抑えて体を小さくする英子に、由美はふっと苦笑する。
「愛野君なら仕事は出来るから問題ないはずよ」
「いや・・・・そうじゃなくて、色々噂あるじゃないすか。だから気安く話せなくて〜」
「それだけ?噂なんて半分は嘘よ」
「だけど・・・う〜んまぁ、あの容姿にも近寄り難いです。顔やスタイルが神がかってて、私が近寄ったら汚れてしまう!的な」
「ぷはっ・・・大丈夫よ。あいつ既に汚れまくってるから。・・・・だけどお父さん想いの良い人よ」
「そんな事まで知ってるなんて、由美さんめちゃくちゃ仲良いんですね。同期だけでそんなに仲良くなれます?」
「・・・・・集団面接の時に一緒だったの。だから彼のバカな所も、良い所も知ってるの。それに、飲みに行ったりしてるし」
「え!?二人きりでですか!?」
「いやいや・・・あいつの幼馴染もね、同期で研究所に居るのよ。その子と3人で」
「あっ!一時期愛野さんと噂になった人だ。清楚系の理系女子!」
何度か各階に止まり、やっと降りるべき階へ止まる。
女性は噂好き。
明に興味はあるのに話しかける度胸の無い英子。
由美が部所へと廊下を早足で歩く時も、彼女からの質問攻めは終わらなかった。
12へ続く
英子→A子 とモブキャラです。その他のモブも漢字変換してB子C雄等出てくると思います。
※タトゥーの事を「馬鹿の象徴」と記載してますが、偏見ではありません。
明の場合は違法で10代で入れ、今では後悔しているのでそういう表現にしてます。
私も好きなアーティストさんに、描いてもらってます。
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