第9話

社内で虐めらている雛山と約束の日。

待ち合わせ場所に来るとその場に居るのは、雛山だけじゃ無く・・・





約束の日

サンマルク前



花の金曜日という事もあり、駅前周辺は人が多い。

約束の場所に向かう道中、雛山の情報を名前しかしらない事にようやく気付いた明。

サンマルク前は待ち合わせ場所としてはメジャーで、見知らぬ人間を探すのはかなり至難。

だが「まぁあいつが上手い事言ってくれてるだろう」と気楽に考ていた。

そんな気楽な思いすらも無駄になる光景が明の目に入る。

チラホラと待ち合わせする人々の間から、ひょこっと飛び出している長身。

立っているだけで絵になる男、白田がそこに居た。

男に近付くにつれ、周りの女性がソワソワして白田を見ているのに気がつく。

「はぁ・・・美術館のダビデ様だなぁ」

ボソリと呟き、真っ直ぐに白田の元へと向かう。

白田も明に気が付き、胸の前でひらりと手を降る。

にっこりと笑う表情に、まだ距離があるのにミントの香りが漂ってきそうなほどに爽やかだった。


「こんばんわ」


ピタリと白田の前で足を止めれば、周りの女性から「うわぁ」と小さな悲鳴があがる。

そんな悲鳴など耳に入ってないのか、男は明に笑いかけながら挨拶をした。


「うすっ」


「はじめまして、雛山です」


白田しか目に入っていなかった明は、その声の方に視線を向ける。

白田の隣でガチガチに緊張している立ち姿で、小鼻を膨らまして見上げる青年。

今年社会人になりました!と言う雰囲気がありありと伝わる、初々しさ全開だ。

明はそんな青年の容姿をつま先から、頭の先まで値踏みする。

無愛想な表情でジロジロ見られる青年は、ビクっと肩を震わし隣に立っている白田に不安げな顔を向ける。

小動物・・・・・明の頭の中に、リスだのハムスターだのが浮かぶ。

向かえにきて正解だったと、青年の容姿を見て明は思った。


「愛野です。白田さんにはいつもお世話になっております」


明の表情が一転、営業用のにこやかな笑みで青年に挨拶する明。

バックに満開な花の幻が見えるような明の笑みに、青年は口をポカンと開き頬を染める。


「で・・・一緒に来たんだ?」


と営業用の明はここまで。

すぐに素に戻った明は、惚けてる青年をおかしそうに見下ろしている白田に話しかける。


「二人が顔見知りじゃないからね、だから俺も来たんだ」


「絶世の美男子が向かえに来るとか言ってれば、わかるだろうに」


「あぁっ確かに」


冗談のつもりで言った事に、普通に返され顔を顰める。

本当にそう思っているのか、嫌味で返されたのか・・・

嫌そうに顔を歪めている明の顔を見て、ふっと吹き出している当たりワザとなんだろう。

それに今日の男は少し馴れ馴れしい気がする・・・


「まぁいい、じゃあな。おいっピヨ山行くぞ」


勝手に名前変換した雛山に、手で来いとジェスチャーしくるりと背中を向けて歩き出す明。

再び態度が一変した相手に、目を白黒して慌てた様子で明の後をパタパタと追いかける青年。

そして・・・・その後を長い足でゆったりとした足取りで付いてくる白田。

足音が二人分ある事に気づいた明は、振り返る。


「・・・・・・・・・何で、来るんだ」


てっきり雛山を見送りに来ただけだと思っていた明。


「え・・・オレも行くよ?」


さも当たり前のような顔で言ってのける白田。

明は雛山に「ここで待っとけ」と伝えると、白田の腕を引っ張り少し離れた場所に移動する。


「本気で言ってんのか?」


「そのつもりで今日来たんだけど、何か都合悪い?」


「悪いって悪いだろう。お前店ではオレと付き合ってる事になってんだぞ?」


「うん」


「うんって・・・・ピヨ山も居るんだし。それは不味いだろうが」


「雛山には説明すればいいじゃない?」


「はぁ・・・・」


盛大にため息を吐き、うなだれる明。

そんな明に不思議そうな表情を向ける白田。


「そんなに問題?」


「アレ以降店に来ないと思ってたから何も言わなかったけど、来るなら話しは別だ。バレるぞ絶対にバレる」


「俺がちゃんと装えないって思ってる?」


行き交う人の邪魔にならないよう、道の端で押し問答している二人。

タイプは違うものの、二人の整った外見とモデルのような体型に通行人の視線が集中する。

そんな二人の男を、はな金でハメを外しに来ている女性が放っておく筈がない。


「あのぉ~。お二人これから飲みに行かれるんですか?」


「良かったらご一緒してもいいですか?」


向かい合ってる明と白田に、話しかけてくる女性二人。

会社の帰りなのか、夜の街へ繰り出そう感満載に化粧バッチリのOL二人。

こういう場面に合うことは、明と白田にとっては慣れたものだ。

ただ・・・対応が違う。

白田は愛想笑いを二人に向け、「ごめんね、もうひとり連れが居るんだ」と遠回しに断る。

だが女子二人は、それだけでは食い下がらない。

こんな上玉の男が揃っている事が奇跡、これを逃したらのもう二度と無いとばかりに「そんなの全然気にしません!」と食い気味で返す。


「何ならもう一人呼びますよ」


「いやぁ、俺達もそのつもりでここに居るわけじゃないから」


「えぇこれも何かの縁ですよぉ~行きましょうよぉ」


白田が断ってもぐいぐい来る女性に、明はチッと舌打ちをし視線を向ける。

ただその視線は、死んだ魚の目のように生気がない。

その視線に女性二人は、体を硬直させる。

明は女性二人に、相手が引くぐらいの下ネタ満載の断りをしようと口を開いた時


「ごめんだけど、俺の恋人ヤキモチやきなんだ」


白田が手を伸ばし、明の肩を引き寄せる。


「ほらっ明、そんな顔しないの。そんな顔してても可愛いけどさ」


顔を覗き込む男の顔は近く、今度は明の体が硬直した。


「これ以上、彼氏が不機嫌になる前に行ってくれる?」


にこやかに女性陣に言う白田に、ほんのり頬を染めていた相手はコクンコクンと頷き早足でその場を離れる。

その時「そう言えば2丁目近かったぁ」「やばいぃ眼福だったぁぁぁ」と弾むような悲鳴をあげていた。


「ほらっ上手くやれるでしょ?」


今日会った時から感じてた、距離感。

以前までは敬語を使っていた白田、それが今日顔を合わせば砕けた口調になっている。

そしてあろう事か、取引先担当者の肩を抱いて引き寄せるなど・・・・

明は男の体を押し退ける。


「あのなぁ」


「問題は明だね。明がちゃんと装えるか。さっきみたいにガチガチになってちゃ、お客さんにバレちゃうよ。大丈夫?」


ニッコリ笑う男。

その表情はミント香るものではなく、誂うような悪戯な笑み。

さらっと名前で呼びやがって・・・こいつ・・・良い性格してんじゃねぇ~かよ・・・

明は、心中で毒付き。


「余裕だ!」


と男に人差し指を突き立てて言うと、くるりと背を向けポツンと佇んでいる雛山の方へ向かった。

背中越しに男がクスクス笑っているのを感じながら、明は更に眉間にシワを寄せた。



10へ続く

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