「第二章:初めての『友達』」

第14話「女子力よりも武力」

「うーん……どうにも気が進まないなあー……」


 衛士府えいしふに向かう馬車の中で、僕は何度もボヤいた。

 

「ええー、なんでーっ? 楽しそーだよーっ?」 


「そりゃあ君はそうだろうがな……」


 僕と向き合うように座っているレイミアは、いつもの探偵帽子を被っていないし七つ道具の入った肩掛けカバンも掛けていない(晴れの席にふさわしくないからと、出発前にヘラお母様に取り上げられたのだ)。

 本人は最初不満そうにしていたが、仕立てたばかりのピンクホワイトのドレスを着せたらとたんに機嫌が直った。

 元気印の彼女だが、そういったところは女の子なのだなとしみじみ感じる。


 一方僕はアイボリーのロングドレスにハイヒール、首元にブルーのチョーカーというモダンなスタイルだ。

 美形だがキツい印象のあるアリアにはよく似合っている。似合ってはいるが……。

 

「ヒールが高くて動きづらい……いくら晴れの席とはいえもう少し低いもののほうが……」


 女子力よりも武力のほうが気になる僕としては、純粋に不満だ。 


「でもでも、普段見れない王様やおきさきさまが見れるんだよ!? もしかしたらクーデターや! 暗殺騒ぎだってあるかもしれないよ!?」


「全然でも・ ・ではないし、そうなったら表彰式どころじゃないな。国がひっくり返るような大騒ぎになってしまう」


 レイミアの無邪気な願望はさて置き。


「そもそもがだね、僕はこういった集まりが嫌いなんだ。富裕層の老若男女が集まって互いの家格や業績を褒め合い讃え合うというのがどうにも気持ち悪くてね。そもそも人間という生き物は産まれてから死ぬまでひとりなわけだし、ひと皮剥けば血と肉と骨しか詰まっていないのに、その価値や優劣を自分以外の視点からとやかく言おうというのが……」


「でも、おもしろそーだよねっ? ねえ、ベス?」


 僕のセリフを「おもしろそー」の一言で片づけると、レイミアは隣に座っているベスに同意を求めた。

 

「ああ、アリア様……なんと麗しい……」


 しかしベスはまったく聞いていない。


「強い光を讃えた瞳……憂いを含んだ口元……。本日のお召し物もまたお似合いで……」


 胸の前で両手を組んで僕の格好を眺めながら、顔を赤らめている。

 息遣い荒く、膝をもじもじさせている様は何かの病気のようにも見えるが、どうもそうではないらしい。

 この現象についてレイミアに言わせると、「ベスもお年頃だからね」ということになるらしいが、さっぱり意味がわからない。


「もしあの腕に抱かれることが出来たなら、ベスは……ベスは……ってああっ? ダメよベス、ご主人様に対して何をよこしまな気持ちを抱いてるのっ。このっ、いけないコっ、いけないコっ」


 謎の発言をしながら馬車の壁にガンガンと額を打ち付け出すベス。


「ほら、ベスもおもしろそーだって言ってる」


「全然そう言っていないことぐらいは僕にもわかるぞ。というか止めたほうがいいのでは……?」


 ベスの自傷行為を止めたりレイミアの他愛もないお喋りを聞いたりしているうちに、馬車は衛士府に着いた。

 

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