第12話「もし違う人間に転生していたならば」
「お姉さま、良かったねっ。お父さまのろーひへきも止められたし、褒められたしねっ」
つかつかと早足で廊下を歩く僕の後ろを、レイミアが嬉しそうに追いかけて来る。
「えへへ……それに聞いたっ? お姉さま、エイナお母さまに似てるんだってっ。良かったねっ」
「……」
一度だけゲーム内で画像を目にしたことがあるが、たしかに外見は似ていた。
だが、生気に満ちた大きな目も、今にも喋り出しそうな口元も、どちらかというとレイミアのそれにそっくりだった。
エイナお母様は、レイミアをそのまま大人にしたらこうなるかといったような女性だったのだ。
僕がそう言うと、「ええーっ? そうかなあーっ? 似てるかなあーっ? えへへへへ……」とレイミアは体をくねらせて照れ出した。
「……」
そうだ。似ているのはレイミアであって、僕じゃない。
今回の一連の行動は、あくまで破滅フラグを潰すために行ったもの。
言わば利害の一致であって、そこに感情の入り込む余地はなかった。
もし違う人間に転生していたなら、その上で今回と同じ局面に遭遇したならば、きっと僕はお父様を救わなかった。
ストレイド家は没落し、レイミアだってきっと、どこかへ売られていったに違いない。
……。
…………。
……………。
「あれ……どこ行くの? ねえお姉さま、お姉さまーっ?」
廊下から直接庭園に出た。
突然の行動を怪しんだレイミアが追いかけて来るのも構わず、僕は庭園を突っ切って裏門をくぐって外へ出た。
ストレイド公爵家に関係した搬入業者しか利用しないはずのそこに、先ほど追い払ったばかりのガノンがいた。
黒服の、いかにもって感じの巨体のボディーガードに命じて、植え込みに向かって何かをさせている。
黒い小枝のような何かと、小さな石を両手に持ってカチカチ、カチカチ。
「おい、ガノン」
僕が声をかけると、ガノンとボディーガードがぎょっとした顔で振り向いた。
「ほ、ほ、ほ、本日はお日柄もよろしく、お嬢様はなんだってまたこんなところへっ!?」
僕の存在を認識したガノンが大声を上げて誤魔化そうとするが……。
「もう遅いよ、ガノン」
僕は構わず、左足で一歩を踏み込んだ。
同時に右のつま先を走らせ、地面に落ちていた石ころを蹴飛ばした。
「……うっ!?」
石ころの直撃を受けたボディーガードは、堪まらず黒い小枝のような何かを──着火棒を取り落とした。
「き……貴様何を……っ? こいつが一体何をしたと──」
「付け火は重罪だ。わかっているな?」
なんとか誤魔化そうするガノンのセリフに被せるように言うと、僕は両手の指をぽきぽきと鳴らした。
「ひ……ひいぃぃぃいっ!?」
犯罪の露見。そして僕の迫力に怯えてだろう、ガノンは泣きそうな顔になりながら逃げ出した。
「ガ、ガノン様! お逃げください!」
ボディーガードが巨体を広げて肉の盾になろうとするが無駄だ。
貴様では五秒ももたず、ガノンの鈍足では逃げきれない。
「……」
醜い主従関係を眺めながら、僕は思い出していた。
破滅フラグの中にはレイミアが死ぬルートが多くあることを。
レイミアがこいつらの放火に気づき、それが元で殺されるパターンがあることも。
もちろんそれはゲームの中での話だ。
現に今目の前にいるこいつらは、その罪を犯していない。
だが、なぜだろう──
僕はムカつきを抑えられなかった──
「大丈夫だ。苦しむ暇など与えない。貴様らゴミが想像するより遥かに早く、すべてが終わる」
一瞬本気で殺そうかと思ったが、やめておいた。
レイミアの目の前ということもあって、気絶させるにとどめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます