第11話「守られるということの不思議さ」

 ガノンが去ると、お父様はへなへなとその場に座り込んだ。

 心臓に手を当て、ハアと大きく息を吐いた。


「ああー、怖かった。やっぱり慣れないことはするもんじゃないねえ」


 人が良くて、ケンカどころか誰かと言い合いになったことすらないお父様だ。

 ああして面と向かって啖呵たんかを切るなんて、おそらく初めての経験だったのだろう。

 顔は青ざめ、今もなお膝が震えている。


「どうしてお父様が? 僕が対応したのに……」


 そんなに怖いならなぜ自ら矢面やおもてに立ったのかと、率直に疑問を口にすると……。


「そりゃあ父親だからね。娘にばかり大変な思いはさせられないでしょ。ましてやあんな暴力的な男の相手、させられるわけがない」


「……家長としての務め、というわけですか?」


「まあ、そういうことになるかな」


 お父様は娘を守り、外敵を追い払ったのだ。

 ストレイド男爵家の家長として、立派に自らの務めを果たしたのだ。


「……なるほど、ご立派でした」


 誰かに守られるということの不思議さに心を乱されながらも、僕は平静を装った。


「はは、そうかい? そう言ってもらえると嬉しいね」


 お父様は笑顔を浮かべると、差し伸べた僕の手につかまり立ち上がった。


「しかしすごいね、アリア。君はどこであんな知識を?」


「……本、そして街歩きで色々な人や品を見たことによる成果です」


 まさかゲーム知識ですとは言えまい。


「へえ、さすがはエイナの血だね、そっくりだ」


 するとお父様は、目を丸くして驚いた。


「彼女も元は町娘でさ、明るくてお喋りで、色んな人との交流が深かった。そのおかげで、こういうことには鼻が利いたからさ。そのつど見抜いて、僕に教えてくれたんだ。最終的には『こうゆーのはわたしに任せてっ、得意だからっ』なんて言っちゃってさ。腕まくりなんかして、いつも隣にいてくれてたんだ。ひさしぶりに思い出したよ」


 嬉しそうに微笑みながら、お父様はエイナお母様の話をした。

 いかに明るい人間だったか、いかにお節介焼きな人間だったか。


『………………』

 

 僕とレイミアは、不思議な感慨を胸に抱きながらその話を聞いていた。

 ヘラお母様と再婚してから、お父様が昔の話をすることは滅多になかったから。


「改めてありがとう、アリア。僕はどうもこういうのに甘すぎてね。これからももし困ったことがあったら、そのつど君に相談させてもらってもいいかな?」

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