第22話「土属性は強そうでカッコイイ」

「クロエの土属性魔法、見てみたい!」


 ミゲルはクロエが予想していたことを言い出す。


「Aクラスってことは四位階を使えたりするの?」


 彼は期待がたっぷりこもったキラキラの視線を、クロエに向ける。


「まさか。一年で四位階が使えたら、大騒ぎよ」


 彼女は苦笑してフィアナに確認した。


「先生、使ってもいいのですか?」


「まあ、ここで見せるのが一番無難でしょう」


 フィアナは割り切った表情で言う。

 ミゲルがどういう性格なのか、彼女も理解しはじめている。


 結果、ここでダメだと言ったほうがあとで面倒になると判断した。


「わかりました」


 クロエはここに味方はいないと悟り、ゆっくりと詠唱をはじめる。


「《豊かな大地を耕すもの、大いなる実りをことほぐもの、わが下に集いたくましき腕をふるえ》【岩砕斧/グランドアックス】」


 灰色の岩が斧の形になって、彼女の頭上に出現した。


「土属性の五位階魔法よ」


 とフィアナがミゲルに教える。


「すげえ! カッコイイ! 強そう!」


 彼は目を輝かせて無邪気にはしゃぐ。


「……いや、アロサール先輩が使った魔法のほうが、よっぽど強いから。魔力も違うし」


 本気で褒められているとわかるからこそ、クロエは苦笑する。


「そう謙遜するな。見事だぞ」


 とライネも彼女を褒めたが、すぐに笑みを消す。


「これほどの魔法を捨ててまで、地属性にこだわるのには理由があるのか?」


「はい。一族の悲願のようなものですから」


 と答えたクロエの表情はいまにも消えそうなはかなさがあった。


「そりゃ実現させたいよなあ! がんばろう!」


 ミゲルは食いついて、さらに彼女をはげます。


「え、う、うん」


 理解されたあげく熱い激励をもらえると思ってなかったクロエは、脊髄反射でうなずく。


「よおし、そうこなくっちゃな! そのためにはまずクロエの地属性魔法を、見せてもらいたいんだけど!」


 ミゲルは満面の笑顔で彼女に話をもちかける。

 協力する意思はあるにせよ、それ以上に地属性魔法を見たいだけでは?


 という疑問を抱いたのはクロエだけではなく、フィアナとライネもだった。

 それでも彼女たちは話に入らずクロエの意思に任せる。


「ええっと……」


 見せたほうがいいと思いつつ、彼女の中の何かが即決をためらわせた。


 ──ガランガラン


 そのとき、低い金属質の予鈴が鳴り響く。


「おや、予鈴だな。となると急いで引き上げたほうがいいな」

 

 とライネが名残惜しそうに言うと、弟に目を向ける。


「お前もさっさと戻れ、愚弟」


「わ、わかってるよ姉ちゃん」


 カイトはバタバタと駆け出し、彼女はフィアナに一礼した。

 

「では縁があればまた会おう」


 とミゲル言って立ち去る。


「わたしたちも戻ろうよ!」


 クロエがミゲルに言うが、


「クロエの地属性魔法、おあずけ?」


 彼は無念そうに彼女を見つめた。


「ほ、放課後。放課後に見せてあげるから。ね?」


 約束しないと動きそうにないと直感し、彼女はそう説得を試みる。


「わかった! 放課後だね!」


 単純なミゲルは一瞬でやる気を取り戻す。 

 クロエはほっとしたものの、問題の先送りに過ぎないよなと思う。


(いえ、考え方によっては悪くはないかも)


 と彼女はすぐに思いなおす。

 ミゲルはどこからどう見ても特異すぎる個性の持ち主だ。


 彼女が行き詰まっていることだって、彼なら何らかの解決の糸口を見つけられるかもしれない。


 それだけの可能性をミゲルは早くも示したのだが、同時にクロエがあせりを抱えていることも意味している。


 彼女自身自覚しているからこそ、ミゲルを頼りたいと思ったのだが。

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